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星空の上で

アークルナ様の終末少女の黒幕ロールプレイっていう作品の戦闘シーンが本当にかっこいいです……。

 監獄の前門を陣取ったメルは兵士たちを治癒しながら監獄に入っている敵兵を逃がさないようにしている。

 ここは最前線に近い位置であり、時々降ってくる矢に怯えながらもメルは指揮していた。

 血と鉄が混じった匂い、人が死ぬときに出す断末魔と人を斬る音はメルの精神を徐々に蝕む。


 ゴオオ……。


 荒野を走り抜ける夜の風は命を刈り取る死神のようだった。

 夜風に当たりながらメルは広範囲に緑色の光を降らせる。


「〈エリアヒール〉!」


 はぁ、はぁと命を助けるメルは疲れ果てていた。

 それは悔しさと自分の無力さによる精神的疲労のせい。

 けれども涙を流さないのは悲しむ暇もないほど戦争が忙しいからであった。

 即死の人間もいれば苦しんだのちに死ぬ人間もいる。

 助けることが出来た命もあれば助けられない命もあった。


「怯むな!」


 フランシスの声が戦場に響いた。

 疲労したメルの代わりに指揮する。

 後方で範囲回復するのは定石であり、一人一人の命を回復させるよりも軍全体の治癒を優先させるのは当たり前の判断だ。


 兵士たちの苦しむ声がメルを焦らせる。

 ズン。


「〈治緑の御旗〉」


 再び〈エリアヒール〉を唱えようとしていたメルに温かい緑の力が流れた。

 それは隣にいる女騎士の力であり、建てた旗の下からゼンマイのような植物が育っているのが見える。 範囲系エンチャントで植物の生えるエフェクトが発生する。


「無茶はいけません。今はただ自分の出来ることを見て下さい」

「……はい」


 焦る気持ちも確かにあるが、ハーフエルフの里で起きたことを思うとメルは無茶が出来なった。


「……今は耐えて下さい。そしてメル様がやらなければいけないことを思い出してください」


 旗を立てる女騎士の横でメルは少しの休憩をする。

 不安な表情のメル。

 だが。

 彼女は信じているのだ。

 イナバとシュタイヤは無事に帰ってくることを。




「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 赤竜は暴れ、それに比例してイナバの叫びも大きくなる。

 だがそれでもドロノアーズを振り落とすことはできない。


「お前を殺した後はあそこにいる兵士たちを殺してやる……」

「!」


 イナバは丘にいる兵たちを砦に近づけないようにしていた。それはメルが挟撃することを知っていたからで、抑えているメルたちが作戦の弱点であり重要な場所だからだ。


 徐々に糸を手繰り寄せ近づくドロノアーズ。

 暴れる赤竜は好き勝手にしている。

 イナバたちは星空を流れるように飛ぶ。


(何か!何か手は……!)


 猛スピードで飛ぶ。

 そして、焦るイナバはメルからもらった髪飾りを落としてしまう。

 それは舞台の小道具で和服に合わせて作られた一品。

 女性ものの小道具は全てメルが作ったもの。その一つ一つにとても精巧なつくりになっており、イナバを勇気づける為に送られたものだった。


 それが地面に激突して壊れる。

 だが、そのおかげでイナバは貰ったものを思い出すのであった。


「赤竜」

「?」


 俯きながらイナバは赤竜に命令する。


「月まで飛んで!」


 決心したイナバはありえない命令をする。

 それに対して竜の返答は――。


「グロオオオオ!」


 叫び、垂直に月へと登った。

 

「むううううう!」

「う、ううう」


 いきなりの急加速で二人は耐えるように歯を食いしばる。

 雲を突き抜け、そこから広がる世界は雲海と寂しそうに空を照らす満月。

 月までとはいかなくてもそこは竜とイナバとドロノアーズだけが、ただ雲の海を漂っていた。

 静寂の世界、誰もが美しいと断じるその空の上で――。


「き、貴様。何を!」

「〈召喚解除〉!」


 赤竜は消え、自由落下する。




 イナバにとってそれは一種の賭けであった。

 助かる方法はただ一つで困難を極める挑戦である。


「ひいいい!」


 落下するイナバは真っ暗な地上に怯えながらも必死に呪文を唱える。

 徐々に近くなる冷たい大地。

 集中するイナバは夜の風に体を冷やしながらも紡ぐ。


「赤を纏う太古の王者……」


 集中するイナバに赤い光が零れる。

 流れる風景は大地の地平線。落下に伴う浮遊感と無機質な大地は恐怖を与える。

 だが――。


「その威厳と翼を我に貸したまえ!」


 イナバはメルから勇気をもらっていた。

 それは全てを可能にできる魔法の言葉。

 イナバは大地と一体化する前に――。


「我の元にいでよ!〈赤竜〉!」


 紅い閃光が空から矢のごとく降った。

 真っ赤な流星、だがそれは翼を持ち地面に激突する寸前のイナバを助けた。


「……」


 ギュッと目をつぶっていたイナバ。

 これは賭けであり、ギリギリの時間だった。

 それでもイナバが助かったのはメルにもらった勇気と召喚獣がそれに答えてくれたからであった。




 イナバはゆっくりとクレーターの残る大地を見る。

 ただの人間であれば即死、されど彼は運が良かったのかそれともその鍛えられた体のお陰かは分からない。

 でも、結果を言うなれば生きていたのだ。


「……綺麗な……星空だ……」


 内臓は既にぐちゃぐちゃ。痛みに悶絶していないのは体を動かす力が無かったことと痛みが体に伝わっていないからだった。

 ゴフ。

 大量の血を口から吐き出す。


「ま、まだ生きているのですか?」」


 驚くイナバは竜にブレスを吐く様に命じる。

 暗殺者である彼はいつも星空の光を煙たがっていた。

 それは暗殺者として当然の反応であり当たり前の反応。


 けれども童心に帰る彼はその星空を喜んでいた。

 果てしなく遠いその星空に手を伸ばして――。


「グルオオオ!」


 紅く燃える炎は空の星まで登った。


FF10のユウナの召喚シーンをイメージしました。

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