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戦の気配

これから話がややこしくなるかもです。


 時刻は夕日が落ち始めた時間帯。ベガは暇そうにしながら騎士たちの最後の稽古を見る。

 素振りから始まり、スキルの使用練習、そして最後に試合。

 一連の動きをベガは頭に入れながら戦力を見ていた。

 だが。


「……」


 木陰で見学するベガに一人のローブを着た何者かがよってくる。怪しい恰好であるのは間違いないだろう。けれども村人たちが気付かないのは魔法によるものだ。

 その者はベガへと徐々に、徐々に近づく。ベガは未だに視線を騎士たちに向けていた。その手がベガの肩をたたこうとした刹那――。


「なんの用じゃ?」


 ベガが後ろにいるローブを着た怪しい人物に尋ねる。驚いたのはローブを着たもの。少し距離を取る。


「ハハハ。これは失礼したね」

「あの程度では我を騙せんぞ。それよりも正体を見せたらどうじゃ」


 ベガはその人物に警戒心を見せた。

 当たり前の反応である。対してそのフードの人物は悪戯失敗した子供のように……。

 いや、事実。子供のような風貌であった。


「僕の名前はシフォン・メイビル。領主専属の魔術師さ」

「我は……かかか、メルの専属参謀兼懐刀ベガじゃよ」


 子供のようなけれども知的に話す彼はメルの馬車に書いてある家紋を見せながら話す。顔を見せた彼は長い耳が特徴であり、エルフ族の特徴であった。……背丈が短いのも彼を特徴づけるものであり。

 それに対抗するように自ら? の専属を言うベガ。残念なことにそれらは全て自称であった。


「領主専属とな?」

「そうさ。呪術や魔法で暗殺されないように専属を雇うのは当たり前だろ? まあ、主な仕事はアイテムの鑑定なんだけどね」

「なるほどのう」


 誤解を解いたところで、シフォンは握手を求めた。それに答えるベガ。


「そういえば、人の鑑定もお主の仕事に含まれるのか?」

「さて? 何のことだろうね」


 とぼけるシフォンにベガは追求せず、面白そうにしながらシフォンを見つめていた。


「……まあよいわ。それよりも聞きたいことがある」

「新人である君が僕に質問? いいよ。いいよ。優しい先輩として何でも答えてあげる」


 満足げに頷くベガ。意地悪気に笑みを浮かべる。


「あそこで稽古しているのは第一騎士団と第二騎士団で間違えないか?」

「うん? そうだよ」


 何でそんな質問をと思いながらも答えるシフォン。

 ベガの顔は笑ったままだ。


「もう一つ質問しよう。お主は強いのか?」

「さあね。強さというのは、ひとえに語れないものでしょう? 強いのかどうかはベガちゃんの判断によるところだよ」


 愕然とした質問であったのは否めないが、煙に巻かれたような答えだ。


「では最後の質問じゃ。――お主はなぜここにいる?」


 その質問に固まるシフォン。ベガはただその答えを待つ。

 少しの時間が過ぎる。


「残念だけど、ドラゴンの慈悲も二度までなんだよ。その質問には答えられないね」

「……なるほど。三度ではなく二度なのか」


 再び笑うのはシフォンである。ベガは扇子で顔を隠し、シフォンを伺う。 

 答える気はないと判断したベガはメルの元にいった。



「どうだった?」


 シフォンがベガから離れ、村の裏を歩いていたとき声がかかる。男の低い声がシフォンに届く。気配はないがそれでも誰かがいることは分かる。


「おやおや、筆頭騎士さん。久しぶりです。元気でしたか?」

「ゆっくりできると思ったらまた仕事だ。それに今回は色々と厄介ごとが多い」


 犬猿の仲とまではいかなくても、二人は単純に性格が合わなかった。男は筆頭騎士に相応しいだけの実力を持っているが、如何せん真面目であった。一方、シフォンもそれなりの実力があるものの、魔術師としての性格なのか好奇心や遊び心が彼にはあった。


「そこまで焦るなんて珍しいね?」

「……戦場が拡大を続けている。メルを見送ったら王都に行く予定だ」


 シフォンも顔を渋くする。ここまで火が大きいとは思わなかったからだ。


「税金が上がったことが原因? でもそれだけで民が戦えるとは思えないけど……」


 筆頭騎士は暗闇の中、周りを伺う。察するにそれは誰かに聞かれてはまずい話なのだ。それでもシフォンに話すのは信用しているからに他ならない。

 空を覆う雲が厚くなり、太陽を完全に隠す。


「……今回は冒険者も戦争に参加している。それが原因だ」


 疑問に思うシフォン。というのもギルドは基本的に争い事には中立を取るようにしているからだ。


「誤解しているようだが、彼らは個人で傭兵として戦っているんだ」


 冒険者は基本的に根なし草と思われているが、定住を求めるものは少なからずいる。

 「冒険者は生涯現役である」これは有名な冒険者が残した言葉で、モンスターを狩ることのできる人材は、町の村の中では需要が高い。例えそれが小さな村であったとしても彼らが必需品である限り、現役であり続けるのだ。

 話しを戻すが冒険者が戦う理由は地元愛。その理由が最も大きいだろう。


「戦況の方はどうなの?」

「膠着状態、だが向こうには最高ランク冒険者が介入するかもしれん」

 

 ざわりとした風が吹く。シフォンは小さく「へ~」と呟いた。

 別名S級冒険者、または都市戦略級。それほどまでに強大な戦力なのだ。


「矛を収めるには税の値下げが絶対だ。だが王族が、貴族が素直に頷くとは思えん」

「なるほど。それでシュレインゴールの絶剣が王都に行き説得すると」


 シフォンがおどけるように言う。多少の不快感を残しながらも、騎士は鼻を鳴らすだけであった。


「それよりも本題だ。……あの娘は何者だ?」


 騎士たちが直接訪ねないのはベガがメルの恩人であるからだ。それにベガには怪しいところがある。


「僕が鑑定したところ。ベガちゃんの装備は見たこともないものであり、凡そ国宝、いやそれ以上の価値があるものだと思うよ」

「思う?」

「実のところ鑑定が出来なかったんだよね」


 ケラケラと笑うシフォン。けれども彼が鑑定できたのは経験によるものだ。スキルに頼らずにやったそれは確実性にかけるものの、ある程度の確信をもった情報だ。


「整理するとベガという少女は一人で森を散歩し、たまたまメル様を助けた」

「そうだね。親切でやったとは言え、その服と装備は彼女の身分を語るにはふさわしくないよね」


 騎士も出身についてを訪ねようとしたが、その服装と言動を見て、高貴な方だと疑わなかったようだ。だが、ベガが言うには自分は旅人であると言っている。お忍びという考えもあったが、それにしては共を一人もつけていない時点で不自然であった。


「現状維持。それが一番いいんじゃない?」

「そうだな。だが、あの娘が少しでも怪しい動きを見せたら――分かるな?」


 殺気に満ちた。シンとした時間。

 淡白な声で聞かれたそれにシフォンはおどけるように答える。


「はいはい。分かっていますよ」


 空気は露散し、暖かな風が吹く。シフォンは「あっ」と思い出したように尋ねた。


「メルちゃんに別れの挨拶はしたの?」

「……俺はトリスタン様の剣だ」


 そう言って彼はいつものように去るのであった。

 夕暮れ時の……赤い光が西へと落ちる。

 もうじきここを星の光が満たすのだろう。

 遠くに見えたメルとベガの姿が暗闇に解けた。




 取りあえずメルとベガは同じ寝室で寝ることになった。

 盗賊との一件があり、メルはスヤスヤと深い眠りに落ちる中。


「……」


 ベガは星空を観察していた。

 懐かしさを纏い、それでも哀愁漂う背中は何かを思い出しているかのように見えた。



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