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閑話 相続するものⅦ

 ユリウスたちの精神的疲労は肩でする息や青白くなった顔色。

 または虚ろになった瞳で理解できると言ったところだった。

 物につかまりながらカトリーナとジーンがいる部屋に行き。


「少し……やすんでもいいか……?」

「構いませんよ」


 ニコリと笑うカトリーナとひきつった笑みを携えたジーン。

 ユリウスら二人はソファーにドカリと座り、様子を伺いながらカトリーナが。


「どうです? 強くなれましたか?」

「この疲労が嘘じゃなければ……な」

「腕を食いちぎられる体験なんて……もうこりごりよ」


 天上をあおぐ二人に尋ねた。

 言葉を聞く限りだとかなりきつい体験をしたみたいだ。

 戦いではどういったことが起きるのか分からない以上。

 様々な経験を通しておくのが良いだろう。激痛によって意識が混濁しようとも、大切な仲間が死のうとも敵がいる限り戦いは続くのだから。

 そんな体験をさせた本人……〈マーリン〉もまたこの応接室に来ており。


「対人戦闘を主に鍛えたよ~。ここら辺にいる魔物よりも腐敗した人間の方が厄介だからね~」

「クスリ、今日の所はそこまでで良いのでしょう。目下の目的を達成するためであれば今はそれだけで十分ですしね」

「ふぁ~、そうだね。毎日やっているジーン君に劣るけど~、使えるね~~」


 その言葉を聞いてユリウスたちはギョッとした。

 と言うのもこのような体験を彼は……ジーンは毎日味わっているということに驚きを隠せなかったから。

 驚きながら真偽を確認するようにジーンを二人は見る。


「空いた時に行っているだけだ。毎日じゃないだろ?」

「そうだね~。ほぼ毎日だね~」


 語弊を正したがそれでも驚愕に値することは確かだ。

 二人はこの程度でへばっていられないと喝を心に響かせる。


「そ、それで……依頼の話しはどうなったんですか?」

「「……」」

「心配は……いらないです」


 強がるユリウスは仰いでいた瞳をカトリーナに向けた。

 セルジスもまた寝そべっていた体勢から体を起こしてジーンたちの方へ向ける。

 意地だけの行動にジーンは渋々と言った形で指示を出し。


「土地の簡単な調査をするぞ。まずは農村に行く」

「農村?」

「ああ、そうだ。それがお前の狙いだろ?」

「……」


 スッと立ち上がったジーンは全てを語っていなくとも、ある程度の推測を基に行動した。

 土地調査の先の目的……それを考慮すれば意外と難しい話ではないのだ。

 だからカトリーナは微笑み。


「……クスリ、そのような方向で良いと考えています。考えての行動であるのならば私は咎めませんので」


 そう言ってカトリーナとジーンたちの会話は終わった。




 ユリウスたちはこの周辺土地の調査を開始した。

 未だにカトリーナの目的が分からず。

 真意の方が分からない状況にあるも。


「ジーン、結局この依頼はどう言った意味があるんだ?」

「意味か? ……そうだな、例えばユリウスがこの地域一帯を買うとしたらどうする?」

「買う? ああ、そうか。そう言う意味か」

「そう言う意味だ」


 簡潔にユリウスとジーンは結論を出した。

 カトリーナとしてはこの土地の売買に一枚かみたいという思惑もあり。

 それは誰にもバレることなくこの話しに混ざりたいようだった。

 まあ、そんなことはさておいて。


「土地の価格って言うのはやっぱりその土地の生産性? が価格に大きく影響するんだよな?」

「他にも冒険者の質や魔物の情報なんかもな……。調べることが多岐にわたるのは確かだ」

「……それを私たち三人でやるの?」


 気の滅入るような話だとセルジスははぁとため息をついた。

 実際問題それは気の滅入るような話に聞こえるも。


「俺は畑の状態が分かればある程度の収穫予想は出来る。他にもセルジスなら市場を見れば経済状態も分かるだろ?」

「なるほど……やるなユリウス」

「ただし面倒事に巻き込まれた時は頼むぜ。ジーン」


 武力的なことをジーンが担当し。

 調査に対してはセルジスとユリウスが推測する。

 となれば話しは早く。


「村や町に立ち寄る形で調べるぞ」


 コクリとユリウスとセルジスが頷く。

 彼らは他のものに怪しまれながらも少しずつ調査を進めていった。

 日が暮れまた朝が来る。

 そして。


「さて……最後はギルドに関する調査だな」


 ジーンが力のこもった言葉で口にし。

 ユリウスとセルジスは少しの緊張を含みながらギルド会館の前に立つのであった。

 朝日が眩しく輝き。

 今日の一日を祝福するかのようにその巨大な建物を照らした。




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