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瓦礫の戦い

 ベガとシルの戦いは遺跡の崩壊によって中断された。

 中断と言う意味が指し示すように。

 それは互いの生死を確認していない状態であるもので。

 もし二人が生存していれば戦いは続いたであろうと言う予測を含めた言葉だ。

 逆にどちらかが死亡、または二人が死んでいれば戦いは終わっていたが。


「ごほごほ……。うむ、こんなものか」


 瓦礫をどかしながら。

 頬に土を付けたベガが立ち上がった。

 具現化する影たちが近くの敵を探し。

 未だ油断ない状態だと分かる。比較的にベガに対してのダメージが少なかったのは遺跡を壊したのがベガであって。

 壊すにしても安全地帯を作っていたからだった。


「さて……敵は……」


 そう言いながらベガは近くの瓦礫から血がにじみ出ているのを確認した。

 石の大きさとその隙間の狭さを見て絶命しているのは確実。

 わざわざ潰れた死体を確認するまでも無いが。


「こやつでは無いのぅ」


 頭痛によって頭を抑えながらベガは何となくその死体がシルでないことに気付いた。

 位置的にも異なるし。

 匂いだって女性の匂いではない。

 フラフラとおぼつかない足取りで次の死体を探すベガは。

 周りを見渡して腕だけが石の隙間から見える死体。

 頭部だけがつぶれている死体など。

 いくつかの発見には至ったものの。

 それら全てがシルものでないと断定できた。

 そして。


「……かかか、しぶといのぅ」


 ベガの後方からガラガラと瓦礫をどかす音が聞こえ。

 肩で息をする女性騎士シルと銀色の水……〈写し銀霊〉が顕在することを示した。

 ベガが振り返り怪我の具合を目視すれば。


「左腕は使えそうにないのぅ。足もまともには動かぬじゃろうて」

「……」

「なのに戦意は滾っておる。何故じゃ? 何がお主をそこまで突き動かす?」


 くひひと笑いながらベガはおどけた表情で。

 剣を握るシルを見た。

 対するシルは頭部から血を滴らせながらやっと立っている状態。

 〈写し銀霊〉も維持しているのがやっとで形状が不安定に揺れていた。

 そんな不安定かつ重傷を負った状態にもかかわらずシルは。


「……斬る」


 たったそれだけを呟いて前進した。

 足を引きつりながら歩く姿は痛々しく、滴る血は止血しろと伝える量だ。

 そんなシルと影を従えるベガの戦いは続く。

 待ち構えるベガは折れた左手を無視して右手で挑発する。


「くひひ……来るがよい」


 ただベガもまた蓄積されたダメージで走行に支障をきたしていた。

 簡単に歩くことは出来るも走ったり機敏に動いたりとすると足が絡まる恐れがあった。

 それは毒によるダメージで意識が今も揺れている状況下にあったからだ。

 頭部からの微量な血がベガの右目を更に紅く染める。


「……」

「……」


 じりじりと瓦礫の山をシルはゆっくりと登る。

 頂きにいるベガはそれを迎え撃つ形で立ちすくむしかなかった。

 太陽が丁度ベガとシルの間に来て。

 影を長く伸ばす。

 風は止まり静けさが支配する空間で――。


 ザンと。

 〈写し銀霊〉が動いた。

 負傷して真面に剣も震えない主に代わって吶喊した〈写し銀霊〉は。

 そのままベガの首をはねるように薙ぎ払う。

 しかし、そんな一撃は影よって防がれる。


「くひひ!」

「……」


 動けないベガはその攻撃を受けるしかなく。

 影と〈写し銀霊〉が火花を散らす剣戟を生み出した。

 今も防ぐだけで精一杯の影。ただ眼前にいる敵と殴り合うことを選ぶベガ。

 そんな余裕のないベガにシルは少しずつ近づいてきた。


「…っ!」

 

ぐらりとたたらを踏んだシル。

 歯を食いしばり虚ろになりつつある意識を何とか保ちながら少しずつ登る。

 息も切れ切れなシルはこのこんもりと盛られた瓦礫の山を一生懸命歩き。

 ぐらりと膝をついた。

 大量の出血と負傷した足のせいで確実に体力を奪われるシル。

 ベガもまた〈写し銀霊〉の攻撃を影で受けるだけで体力と集中力を削られていた。

 少しずつ具現化できる影が少なくなっているのはそういった事が原因だった。


「「……」」


 双方、限界が来ていることなど分かり切っていること。

 それでも逃げずに戦うのは単に意地の張り合いだとも言えた。

 チーターであると言うプライドと王国騎士としてのプライドが今もこの闘争をやめさせない。

 ただこの戦いも少しずつであるが決着へと近づいていたのも事実。

 と言うのも。


「……王……国の為に」


 シルが確実にベガの元へと近づき。

 その右手の剣を振ろうとしていたから。

 今現在〈写し銀霊〉の攻撃で全力の防御をするベガ。

 全力と言う言葉が示すよう。

 力なく振るう第三者の一太刀すらも影たちは捌けずにいる状態だ。

 そんな状態であれば如何に負傷したシルの力であってもベガを切ることは出来た。


「……」


 目前まで……もうすでに剣の間合いまで歩を進めたシル。

 逃げずにいるベガは剣を振り上げたシルを待ちそして――笑う。


「『あっぱれであったが』……頑張りすぎじゃよ」


 笑ったベガはそのまま後ろに倒れこんだ。

 もはや影を維持する力すらもなく。

 静かに空を見上げるベガ。

 この態度はシルとの戦いが終わったことを示し。


「……」


 剣を振り上げたまま。

 シルが死したことを示した。



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