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ベガの記録

 その記録は不都合を孕みながら。

 それでも歴史の勝利者が語った真実でもあった。

 またその場にいたものたちの視点は複雑で物語のように綺麗なまとまりではなかったものの。


「くひひ、なんじゃ? これで終わりか?」


 赤と黒の着物を着た少女。

 その呟きが血と鉄くずの溢れた戦場で呟かれた。

 それは歴史の一場面で、悪魔の王とされるものと初代の……リニエスタの王が戦っていた場面でもある。

 遥か昔の記録でもあり、または数年前の記憶でもあるそれは。


な、なんだ……この者は?

「……変わらず何も聞こえぬな。クエストであればここで終わり帰れるのじゃが……続くと言うことは……」


 クルリとベガは背後にいたリニエスタ王。

 その配下の者たちを見つめた。

 ベガの背後に広がった風景は一方的な虐殺を呈したもので。

 所々に刺さる軍旗が無常を示した。立っているものはどれもベガの配下として名を連ねる者たち。


「「「……」」」


 御旗を立てる乙女や火縄銃を肩にかける優男。

 風林火山を胸に戦場を駆けるものなど。

 死者の群れを率いながら整った顔を持つ者たちを束ねていた。

 ただここで注意をするに。


邪悪な術を使う……ま、魔物!

「うむ……。敵意のある視線を感じるが……攻撃してきてから判断するとするかのぅ」


 一般的に……または文化的に死霊を扱う術は邪悪とされていたことだった。

 それは天使と共に戦うリニエスタの騎士たち……戦士たちが持つ常識で。

 無意識の内に敵と考えるものたちが少なからずいたから。

 だから、敵意を持った視線でベガを見つめる者たちは少なからずいた。

 いや。


こ、このような術を使うものが天上の者であるはずがない!

コイツこそが真の魔王だ!


 圧倒的な力はリニエスタ王たちに恐怖を与えていた。

 一瞬で蹂躙した力に怯えながらも。

 ベガの見た目故に敵意を持って侮っていたからかもしれない。

 ともあれベガに良い感情を持った者はいなかったと判断するべきだろう。

 これによって、ベガに対する敵意は高まって。


リニエスタ王! お下がりください!

「かかか、剣を向けてきたか……。しかし……もう少し様子を見ながら……近づくとするかのぅ」


 クスリと笑みを見せて。

 扇子で顔を隠しながらベガはリニエスタ王とベガの間にいる騎士に近づいた。

 飾ってある装備はリニエスタに認められた騎士でもあり。

 共に戦場で戦った盟友と言える。

 リニエスタと近しい真面目な騎士はリニエスタを守らんが為に行動したのだった。


化け物め!

「聞こえぬよ……。ノイズのせいで言葉が通じぬ以上、行動で意思を示すべきじゃろう? この見た目故――」


 敵対した時は容赦しない。

 そんなことを隠しながらベガは両手を広げて近づいた。

 まるで久しぶりに会った父と娘のように。

 笑みを持って近づくが……両者の含みに絶望的な違いがある。

 かたや主を守らんが為の騎士であり、かたや無謀を示しながら苛烈に対応しようとする少女。

 両者の距離は徐々に近づいて――。


お待ちください!

「何じゃ? 天使族か?」


 間一髪のところで王紀である天使のシラーが割って入った。

 各々がいつ起きても可笑しくない戦いに武器を向けられる傍ら。

 シラーはありったけの勇気を振り絞ってベガの前に出たのであった。

 今もリニエスタ王の騎士団と戦士たちは剣と矢を向けたままで。

 ベガの背後にいる死霊たちも動ける状態だが。


「要件を聞こう……何じゃ?」

お、お帰り下さい……。

「聞こえぬと言っておろう……。態度で示してくれぬか?」

伏して……お願いします。


 奇跡的に……シラーの行動はかみ合った。

 それはベガへの攻撃とベガの敵意を弱める行動でもあり。

 神に祈る信徒のような態度だった。

 膝を突き、祈りを届けようとするシラーの態度にベガは理解不能を示しながらどう対応しようか困った。

 だから……悲劇は起きなかったと言える。

 しかし。


「む?」


 突然の変化がベガを襲った。

 何がそうさせたのか分からないものの。

 ベガの体にノイズが走ったのは事実だった。

 それは左目を覆い、体中に広がるもので。

 まるでベガの体がデータであることを示すかのようにノイズは起きたわけだけど。


撃て!


 好機と見たのか。はたまた焦りを抱いたのか。

 ベガの体に起こった異変を好機と捉えて。

 リニエスタの戦士が攻撃をした。

 無数の矢がベガに殺到する傍ら。

 それらは影たちによって阻まれて――。


「筋書きを考えるに、この天使は無理やり戦争に参加された者と考えるべきか? いや、この天使の行動によって我の体に異変が起きたと考えるべきか……。何はともあれ」


 選択は成った。

 報復として一発の銃弾がベガを射た戦士に放たれた。

 額を撃ち抜かれ倒れる戦士とそれを笑みで見つめるベガ。

 この一発の発砲音によって再び戦争は。


「っ! クエストは終わりか……?!」


 始まらず。

 ベガの体は足元から消えていった。

 後ろにいる死霊たちも役目を終えたように消えていく中。


「くひひ、中途半端には終われぬ故……。この一撃をもって別れとしよう」


 往生際悪くベガは技を放った。

 それは召喚した者たちを帰すことによって出来る技で。

 魔王の剣を借りた技。

 精霊王と対となる技の一つで。


「死をもたらせ……〈クロダチクゼンノカミ〉」


 くひひと笑いながらベガは半身となった体で振った。

 左手はすでに消え。

 下半身は既に消えているにも関わらず。

 力強く降った一撃は……冬のような寒さをもたらすのであった。


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