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資料室で

 メルたちはリングウッドの案に乗り。

 別れて散策を行うことになった。

 魔剣と言うエネルギーが無くなったことで、施設全体の明かりは僅かなものとなったが。

 用意していた発光石のランタンで問題無く行動できている。


「ここか?」


 そんな暗闇の中をリングウッドは懸命に……だけど急ぐように探した。

 そしてたどり着いたのは資料室と言うところで。

 本や研究ファイル。

 その他実験結果を纏めたものなど魔剣づくりに関わるデータで溢れていた。

 入り口近くになった本棚に視線を向け。


「……はは」


 本についた埃を手で払ったリングウッド。彼はその一冊を手にして誰にも見られないよう“もう一つ持ってきた”魔法のポーチにいれ――た。


「何をやっているのかな?」

「……」


 シフォンに声をかけられたことでピタリとその動きを止めるのであった。

 背を向けたままのリングウッドと資料室の入り口付近でヘラリと笑っているシフォン。

 シフォンの視点からではリングウッドがどのような表情なのか分からなかったが。


「まあいいや、ボクも失礼していいかな?」

「は! ベガに言われただろ? “独り占め”はするなって」

「……そうだね」


 おもむろに近づくシフォンと懐にある短剣の重さを確かめたリングウッド。

 コツリと接近したことを靴音で理解して、頬から滴る汗を務めて無視する。

 リングウッドが緊張を孕む傍ら。


「そう言えば、極秘研究について……興味はないかな?」

「……何?」

「君を待つためにそこにいたんだけど……暇だったからその資料を読んでいたのさ」

「……」


 スッと横を通り過ぎたシフォンは無謀をさらしたまま。

 リングウッドに話しかけていた。

 横を通り過ぎたシフォンは奥にある衣服……それに注視していて。


「やっと会えたね……」


 思い出を握り締めるように衣服を握った。

 そして何の変哲もない指輪をポケットに入れた。

 そんな感傷に浸るシフォンをリングウッドはどうしようか迷う。

 その迷いはここで始末するべきか、極秘研究についての情報を聞き出してから始末するべきかの迷いだった。


「……」


 沈黙を示すリングウッドは始末しても後付けが出来るように、敵がいる可能性について述べていた。

 それはメルたちと別行動する口実とも言えるも。

 本当のところは研究結果の独占を狙っていたのだ。

 だけど。


「感傷に浸っているところ悪いが、話の続きを聞いてもいいか? ああ、勿論“背を向けたまま”でいいぜ」

「……」


 この言葉に孕む意味はどちらに転ぶのか。

 シフォンに預けた結果となった。

 もし仮に、シフォンがこちらを向こうとした場合。

 リングウッドは行動に移し、逆に従ったまま話してくれるのなら。

 そのまま話しを聞く算段だ。


「ハッキリ言って、俺はその研究について信じていねぇ。戦争を終わらせるなんて……ましてやそれが大陸を巻き込んだ大戦だったら尚更だ……」

「それを終わらせるものこそ、神話紀のもの……だよ」

「……」


 神話紀……その言葉を聞いたリングウッドは古い記憶にあるおとぎ話を連想した。

 いや、具体的にはそれの跡と言ったところで。


「大地の切断地、流星湖、古龍の眠る砂漠地帯か。は! 神話紀の者がやったと言うが、そんなウソに――「もし真実だったら?」……」


 リングウッドの動揺がピクリと動いた眉に出た。

 もしとか、仮定の話しに意味はない。

 意味は無いが。


「天使たちと悪魔たちが言っていたとされる言葉。それが本当で超常を操るものたちが聖戦紀を終わらせたと仮定したのなら?」

「……は! おもしれぇ冗談だ。もしそれが本当だったら、今頃ここはどうなっているんだよ? 俺たちはこんなところで冒険なんかせず、祈っているかそいつの為に働いているかだろ?」

「……」


 話しに付き合いながらも、このリングウッドは否定した。

 リングウッドの言葉は正しく。世間一般に知られる神話紀とこれら跡地を否定する言葉だった。

 もしそんな存在がいたのなら、今頃この世界はその者たちに支配されているだろうという矛盾があったから。

 しかし。


「天使と悪魔たちに“封印された”その仮定についてはどう否定するんだい?」

「……」


 嫌に強く。

 シフォンの言葉が響いた。

 仮定に仮定を重ねたこじつけ。

 または聞き苦しい妄想と断言することもできるだろう。

 そう切り捨ててしまっても仕方ないが。


「……」


 リングウッドは言葉を飲むしかなかった。

 いや、これは脳裏にあった一つの瞬間を思い出したからに他ならなかった。

 “超常”と“力を封じられた存在”。

 その時は何が起こって、何が起きかけていたのか分からなかったものの。

 ベガとアイネが対していた時、恐怖を本能的に察していたのだ。結局その力は振るわれず終わった戦いだったけど。


「……」


 リングウッドは仮定をしない。

 それは正しく恐怖があったから。

 世界が終わるかもしれない瞬間は未遂で終わったもので、何が起こるはずだったのか推測する意味もなかったから。恐怖によってリングウッドたちは考えないようにしていた事実は。


「君も知りたがっていただろう? 彼女の事を」


 クルリとリングウッドに向いたシフォンと驚きを示すリングウッド。

 思考が追いつけないままリングウッドはシフォンがこちらを向くことを許してしまった。


新年あけましておめでとうございます!

今年中にこの作品も完成できるかな?

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