スレインの吶喊
レバーを引いた時、大きな音がなった。
それは安全確保のための装置で。
巨大なものが動く時に鳴らす警戒音だ。周囲の人間に知らせるための音であるのだが。
今はそれが別の目的でなったことを理解させる。
その目的と言うのは。
「はは! 簡単に中へは入らせてくれないか?!」
リングウッドが笑った。
ゆっくりとその扉は歯車と蒸気を鳴らしながらガシャンガシャンと開く。計二十本になるボルトが扉を固定しているのを見るに。
その全てが外れた時、扉が開くのだろう。
そして今やっと一本目が引き抜かれ。
「き、機械たちがこちらに来ています!」
イナバが敵襲を叫んだ。
隊列を組み、歩いてくるそれらは盾を構える前衛を配置しながら。
逃げ場のないメルたちを追い詰めた。
とは言え、ここは所詮通路でもあり。
袋のネズミであるも数の強さを十分に発揮できない狭さがあった。
逃げ道のない戦況であるも、少人数での戦いでは分が良い。
何故なら。
「シフォンさん、シュタイヤさんお願いいたします」
メルには既に考えがあって。
落ち着いて対応していた。
呼ばれた二人は打ち合わせ通りに魔法を唱えて。
「「〈アイシクルランス〉」」
シフォンとシュタイヤが氷の槍を放った。
地面に突き刺さるほど鋭利で強度のある槍は敵の進軍を封じる効果がある。
それは今まさに足がつぶれ、動けなくなった機械が例で。
ただでさえ狭い通路をその寸胴型の体がせき止めてしまう結果になるから。
そして氷の魔法の利点として、それが残ると言うことも挙げられる。
つまり。
「氷魔法はこういった場所では障害物として機能する。とは言え、氷で出来たものだから強度に自信は無いけどね」
「足止めとして効果は十分です。あとは、氷の林から抜けてきた敵を壊すだけです」
こうしてメルたちは小細工を駆使しながら。
敵を壊した。
完全な破壊ではなく、あくまで時間を稼ぐことを目的にしており。
手足を重点的に狙いながら壊したのだった。
だけど。
豪と炎が上がった。
「!」
余りの熱波にメルは驚き顔を横にそらした。
いきなりの事態に困惑が一瞬流れるも。
敵が簡単にここを通してくれるわけもなく。
加えてここは魔剣を作っていたことを思い出す。
いわんや。
「……炎系魔法は障害物を崩す時に使われる魔法ですね。対人戦に置いて最も破壊力がある魔法です。ただ問題として」
「問題として……周囲に被害をもたらす可能性が高い。だけど鉄の肉体なら……火傷の心配もないだろうね」
クゼンとシュタイヤが嫌らしい顔をした。
それは強敵の存在に気付いたからとその見た目に特殊性があったから。
特殊性……。
ここであげるとするのなら、騎士のようにがっしりとした体躯であるのと同時に。
燃え盛る機械……頭部を持っていたと説明しておこう。
力強さを示すそのボディはパワーを重視しながらも鈍重さを克服したつくりで。
繋ぎのない鎧、関節部にはしっかりと金属の繊維で加工してあった。
しかし、最も警戒するべき点は。
「あの特殊な剣……。かなりの業物だ」
「……」
リングウッドが呟き。
波打つような剣……フランベルジュに纏わりつく炎を見た。
呪詛を纏ったその剣は、魔の代わりに沢山の呪詛を宿した剣で。
その性能と言うのは、魔剣に匹敵するほど……と言えるだろう。
赤い刀身が蜃気楼によってさらに波打つように見え。
剣の鍔にある赤い宝玉が怨嗟を叫ぶように燃え盛る。
そんな敵に一歩踏み出したのがスレインで。
「あれの相手は私がしましょう。その周りをお願いできますか?」
「……かかか、強敵と見えるが勝てるのか?」
「やってみなくては分からない。しかし、扉が開く時間……それさえ稼げればいかようにもなるのでしょう?」
蒼い短髪をなびかせて。
スレインは笑った。
口から零れる白い息は既にスレインの体に魔が力を与えた影響で。
戦闘準備が整っていること知らせた。
今も敵がぞろぞろと数を揃える中。
スレインはこれ以上の進行をさせぬよう。
一言。
「冷酷に……ただ切り捨てる」
吐き捨てて吶喊した。
続くようにリングウッド、ヴァリエル、ベガも前線へと駆けた。
その他のものたちは後衛での支援と援護に周り。
機械たちの猛攻に耐える算段だ。
そして闘いの火蓋は。
『〈業火の導き〉』
「〈氷転結〉」
スレインと〈炎を宿す機械人形〉。
二つの技の激突によって始まった。
メルたちを焼き尽くす炎と機械たちを一掃する冷気は。
互いの威力を相殺しながら霧をつくりだした。
それに乗じてリングウッドたちも動くわけだが。
「は! 簡単に通させねぇよ!」
『……』
透明化した機械。
それらも共に、リングウッドたちと交戦するのであった。
メルに関するイラストを依頼しました。
ラフ画を見る限り、とても良いイラストですので。
楽しみにしています。




