異議申し立て
痛みを未だ感じるリリィも含めてユリウスたちはこの場で話し合いをすることにした。
それは自分たちの目標……ノストを追い出すことに関することで。
「私たちの掲げる目標は投票前に叶ってしまうのね……」
「い、一件落着?」
「……」
セルジスの言葉にディエンと無言のノエルが反応した。
楽天的な見方をすればディエン言葉に同意できるも。
次を定めていたのであれば違ってくる。その次と言うのは。
「どうするの? ユリウス。生徒会を作るの? それとも作らないの?」
「……」
生徒会という組織の設立。
これを新たな目標と定めた場合この状況は不味いと言えた。
尋ねられたユリウスはどうするべきか迷い帯びながら沈黙を保つ。
だが。
「私は生徒会を設立しなくても良いと考えているわ」
「……なぜ?」
「この組織がもし、私物化された場合を考えてよ……。今は貴方がいるから大丈夫かもしれないけど……」
苦笑するセルジスは腐敗する権力機関など山ほどあることを知っている。
それは貴族という者が何をしているのか示した通りで。
経験に基づく考えだった。加えて一人の権力が大きく成ればなるほど手に負えない状態になるのは必然だ。
対して。
「私は作るべきだと考えているわ」
「あら、どうしてかしら? リリィさん」
「ルメールの事を考えたら当然だわ……。あの子のような犠牲者を出さないために私たちは努力するべきなのよ」
「……」
真っ向から対立する二人の意見はどちらも正しさを帯びており。
未来に対する懸念と現在に対する贖罪を踏まえたものになっていた。
ディエンとノエルも本当であればここで意見を言うべきなのだろうけど。
推して謀ったのかこの場では何も言わず。ユリウスに判断を任せた。
「俺は……」
ドクンと鼓動が高鳴り。
今までの事をフラッシュバックした。
リリィとの邂逅から始まり、ルメールとの会話。
セルジスたちと知り合い、蔑むノストの視線が脳裏を焼くほど怒りを思い出させて。
「生徒を裁く場所……。そう意味で生徒会は必要だと考えている」
「「「……」」」
「確かに悪用する可能性も否定できない。だから俺はこの選挙で新しい公約を作ろうと思っている」
ギュッと握りしめた拳は腐敗する権力と残すべき意志がちゃんと残せるかの不安に対するものだった。
でも。
真実を知るものからしたら、これは歴史的に名を刻む出来事だと言えるだろう。それはたかが生徒会という限られた小さな組織のことだけど。
「生徒会長は全校生徒の指名によってえらばれるものとする。それと生徒会長をやめさせる……権利」
選挙という言葉と罷免という言葉が生まれた瞬間と言っても良かった。
同時にこれらは民主という言葉を生むきっかけとなるが。
それが政治に反映されるまで今しばらくかかることになるだろう。
さりとて。
「この二つを公約に掲げて選挙をしたいと思う。そして、生徒会の理念についても彼らに話したい」
ユリウスが歩んだ一歩は正しく人類の大きな一歩であり。
民主化の波を騒ぎ立てる一因となるのであった。
事件のこともあり学校は一時休校の処置を取った。
とは言えそれは三日四日程度のもので学園の修繕や被害状況の確認のためだ。加えて安全性を確認することも含めればそれほど時間はかからず。
「明日には学園か……」
「短いようで長い間の休みだったわね」
そんなのん気な会話をユリウスとリリィは行っていた。
正午の太陽は雲と一緒に影と光を躍らせ。
清涼な風は彼らの座る噴水……そこから流れていた。ゆっくりと思われるその時間は如何にここが平和であり何もないかを意味する。ただ……もしこののん気な雰囲気を壊せるのだとしたら。
「……」
「……」
見つめ合った二人はふっと笑みをこぼした。
ロマンチックな雰囲気にするには人通りが多く。それに伝えたいことは既に伝わっている。過ごした時もこの三日で十分に過ぎるほどで。
「……ノストは明日来るのかな」
「分からないわ……」
「怪我は治っているんだろう?」
「……」
詳しい状況を知らないのはただ単純に教えられていないからでもあり。
教える必要が無いと大人が判断しているから。何せ彼は暗殺を手引きした者の一人として数えられていおり、子どもが知るには重いものがあった。
だから。
「詳しいことは私でも分からないわ。一応婚約の破棄は向こうから有ったみたいだけど……彼の容態に関することは何一つ分からなかったわ」
「そ、そうか……」
ノストがどうなっているかなどユリウスたちに知る由もなかった。
素直に喜べない現状に再び静けさが宿る。
しばらく噴水の流れる水のせせらぎを聞きながら――。
「ルメールは今……どうしているのかしら?」
「ルメール?」
「ええ、そうよ。ついでによってみない?」
「……」
突然の言葉にユリウスはどうしようか迷ったわけだけど。
しばらく会っていないのも確かであるし。
もしかしたらという可能性もあった。その可能性と言うのは。
「……ルメールをもう一度学園に来てくれないかな……」
立ち上がった二人。
呟いた一縷の望みはリリィに届くことなく空に消えた。
先を歩くリリィは軽い足取りで城へと向かうのであった。




