表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/443

信じる者と信じないもの

 発砲音と同時にノストは目をつぶった。

 その行動は正しく死への抵抗……および彼が出来る最大限の努力であることを示した。来るべき痛みに耐えるよう。彼は目いっぱい瞳を閉じて――。


「くひひ、今日は『邪魔者』が多いのぅ」


 その言葉と同時にチラリと……。

 目を徐々に開けた。来るべき痛みの代わりに彼は驚きを得た。

 閉じた瞳が久しぶりの光を受け入れ奇跡を取り込んだ。

 赤色の髪と真っ赤に燃える剣が視界に入る。


「この状況では貴方様の方が邪魔ものでは?」

「『国家安全の為』に人を殺すだけじゃよ。犯罪者を野放しには出来ぬ故……そうであろう? 『警羅団団長』」


 その言葉でハッとしたような表情を見せるノスト。

 なぜ今まで忘れていたのか、不思議な感覚は彼女が如何に有名であるか語っており。


「『レオジーナ』……そこをどけ」

「叶いませんよベガ。貴方は私と敵対する身なので」

「『くひひ』、敵わぬと知っていてもか?」

「……」


 短い沈黙の時間にいくつかの思考が流れた。

 睨み合ったままの両者は無音と緊張をはらんだ空気を纏い。


「逃げて下さい」

「『逃さぬよ』」


 突如。

 力と力がぶつかった。

 先に動いたレオジーナが先制する形でベガの動きを止め。

 ノストに這ってでも遠くに逃げるよう指示する。

 対してベガはその斬撃を影で防ぐ。

 鍔迫り合いのように拮抗した時間は炎と影によって作られ。

 熱波と不気味さが辺り一帯を支配した。


「く、くそ……」


 助けられる形でノストは足を引きずりその場を後にした。あまりの力の差……人外の戦いを目にしてノストは己がこの場では無力であると痛感する。それでも尚、彼は未だに罪と向き合わなかった。 つまり。


「よいのか? 武器を持ったまま奴は逃げておるぞ?」

「武器を持つ彼よりも今は貴方の方が危険です」

「ほう? 『手負いの女子』でもか?」


 クスリと笑うベガは今も腹に鈍痛を抱えたままだ。

 笑うたびに顔色が悪くなるのは折れたあばらが呼吸の妨げをしているから。

 そうでなくとも連戦をしているベガに確かな疲れが見えるのは明らか。

 しかし……。

 だからと言って。


「貴方を甘く見るつもりはありませんよ。何せ貴方は“チーター”なので」

「『くひひ』、手負いとは言え……。こうもズルくては『当然』か」

「……」


 油断しなかったレオジーナ。

 この戦況でどうするべきか吟味した末、有効的な一撃はこれしかないのだと思いつく。

 ただの斬撃では常に存在する二十四の影に阻まれるだろう。故にただの斬撃ではなく。


「っ! くひひ、押し切るつもりか?」


 魔剣に熱を加え、嘲笑する声が辺り一面に響いた。

 魔剣に宿る魔がレオジーナの赤髪に乗り移り、更なる力の開放を約束する。

 煌々と燃える炎は嘲笑する女性の姿で辺り一面……否、ベガにその熱を解き放った。


 アハハハ!!


 破壊を楽しむそれは魔でありただのエフェクトであるもの。

 しかし、それが実態を持たない力の具象である。

 故にその破壊は邪悪を宿し地面に黒く焦げた跡を残すのであった。


「私と踊りましょう! ベガ!」


 転移で間一髪のところで逃げたベガ。

 苦笑しながらも左目にノイズを宿す。扇子を広げ、笑みを隠したベガ優雅に。

 対してレオジーナはまるでダンスでも誘うかのように魔剣の切っ先をベガに向ける。

 会場から少し離れた庭で睨み合う彼女たちは激闘を繰り広げることとなった。

 とは言え。


「逃げに徹するのがベストか……。くひひ、『厄介じゃ』」

「近づけばこの熱量で影もろとも切り払いましょう」

「うむうむ……。面倒じゃ……。面倒ではあるが」


 一つ悪戯を仕掛けるつもりでベガは言った。


「奴は武器を持っておる。『そうそう簡単に』人は変われぬよ」

「……」

「奴がそれを持っている限り、また誰かを害するじゃろう。『人と言うのは力を持つ限り』人を害する行為をやめぬよ」


 カラカラと笑ったベガは。

 何かを諦めたかのように言った。おかしさを交えたベガの笑みは何かを隠すように動いた。


「分かったのであれば『退くが良い』。我としても面倒な戦いは……こうむりたいからのぅ」


 提案するベガは今も折れた骨を気にしながらレオジーナに語り掛けた。

 確かにノストは未だ武器を持ち。

 その武器を使ってユリウスを殺傷すると言う愚行を起こす可能性もある。だけどそれは可能性の話しでもあり、続けて言うのなら。


「私は彼の審判をメル様に委ねるつもりです」

「ほう?」

「あの子なら正しくノストを導けるでしょう。人に絶望する貴方と違い――」


 憐れみを向けるような笑みでレオジーナは呟く。

 燃え盛る炎は未だ憐憫に輝いて。


「あの子は人に希望をもたらす子です」


 断言したレオジーナは一切ベガと対決することに迷っていなかった。

 変わらぬと信じるのがベガであり。

 変わると信じているのがレオジーナだ。

 双方の意見の不一致は明らかなものとなった。


「綺麗ごとじゃのぅ。とは言え、『それを守るのが大人の務めじゃな』」

「ええ、そうです。ただ私たちを決定づけるのは方法によるところなのでしょうね」


 メルを信じるレオジーナと。

 ノストを信じないベガは当然の成り行きで戦うのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ