表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/443

ガール・ミーツ・ガール

出会いの場面を書いていなかったのでここで書きたいと思います。

書かなくてもテンプレなので分かるかなと思ったのですがやっぱり書くことにします。

 屋敷から離れた昼の……森の中を馬車が走っていた。

 鬱蒼と生い茂る草木はここが人外の領域であることを示し、簡単な道路が舗装されていた。

 そんな森の中を入る馬車に対して、護衛する二つの騎士団とその後ろで杖を持つ魔術師たち。

 一段と高級な馬車の中でため息が聞こえた。


「はあ~」


 金髪の……高級なドレスを纏った少女メルは憂いを吐き出した。金の髪がふわりと揺れ視線を外に向けたメルは例えるなら麗しを纏う美女でもあり、まつ毛に残った滴を見れば悲劇的だとも言えた。

 窓の外を眺めながら憂いを覚えるのはこの国が内戦の最中であったからだ。

 加えて、出ていった父のことを思えばそう悲観的になるのも仕方ない。

 

 この国の現状……もとい現在も続いている内戦は国力を削るだけの愚かな行為であるのだが。

 その間に他国が侵略しないのはリニエスタ王国が小国であり、最低限の労力で手に入れたいと願う他国の思惑があるからこそ。

 いや、今もなお内乱が続いているのは単に他国が中途半端な干渉をしているからかもしれない。


 ガサガサと木々が不自然に揺れ。

 フードを被る不審者がゾロリと道を塞いだ。馬車の中でその雰囲気を感じたメルはひと時の不安覚えながらも対面に座っている騎士を見た。

 その騎士は。


「お嬢様……」

「分かっています。盗賊ですね?」

 

 真剣な目でメルを心配し、真面目に護衛していた。

 貴族の旅というのは比較的に安全を考慮した旅となっている。

 というのも、この国が戦乱の時代で、かつ盗賊や魔物と言った脅威が多くいる旅というのはやはりそれなりの武装を整えてやるものだ。

 彼女のお供に騎士団と魔術師が付くのは当たり前であり。

 結果を言うなれば盗賊たちは簡単に捕まるものだ。



 金属音が鳴り止み緊張感を解いたメルは安心からか大きく息を吐いた。

 それなりに警戒していた騎士団や魔術師は少しのけが人を出しながらも勝利。

 たったそれだけの被害であったのは、盗賊は敗残兵もしくは盗賊へと身を落とした農民だったから。

 実戦経験の差もあるにはあるが、それでも普段の訓練を欠かさずにやっていた騎士団たちが勝つのはある意味当然であった。


「……終わりましたか?」

「はい」


 外にいる兵士に呼びかけ、一応の確認を取った後。

 メルは扉を開けた。

 外の空気を吸いに来たのと騎士たちの治療が目的でこの鬱蒼とした森林の景色を堪能したかった目的もあったが――。


「お嬢様!」

「へ?」


 金髪でドレスを着飾ったメルは不意を突かれた。

 盗賊の襲撃は簡単に撃退できるもの。

 けれどもそれによってメルは外に出て――転移魔法という罠に嵌ってしまう。


 これは盗賊の最後の悪あがきである。

 ロープで手首を縛っていたが、口の中に隠してあった転移結晶石を見逃してしまったのだ。

 それも仕方がないと言えるだろう。

 顔を見せないように目以外の場所を布で覆っていたからだ。

 そして油断していた騎士団と無防備にも顔を出したメル。


 結果は必然であったと言えるだろう。


「メル様!」


 赤髪の騎士団長の声は届かずメルは魔法によって飛ばされてしまった。




 〈短距離転移魔法〉。

 それは短距離であるが対象を転移させる魔法だ。

 難易度の高い魔法であり、使えるものが少ないそれは貴重な魔法なのだが――。


「うう、頭が痛いです……」


 如何せん短距離である。

 軍事的に利用するのは不可能であり、消費する魔力の割には燃費が悪かったのだ。

 目覚めと同時に頭の痛みを確認し。

 メルは状況の把握に努めた。


「あまり遠くに離れているとは思えませんが……洞窟?」


 メルが目を覚ましたのは森の中であり洞窟の近くであった。

 太陽が丁度真上を通ろうとした頃の時間で自生する草木が風によって揺れた。

 ゆっくりと辺りを見渡すメルはその発見した洞窟を観察しながら。

 骸や干し肉が飾ってある人工的なものだと断定した。

 暗くて奥が見えないのは当然であるが、不気味な気配が流れる。

 丁度太陽が雲によって隠れ、冷たい風が洞窟から吹き付けてきて――。

 

 ビクリ!


 条件反射した反応は洞窟を凝視するようメルに告げた。

 暗闇に支配されるそこから出てきたのは――。


「ん? なんじゃ? お主も盗賊か?」


 黒と赤の和服を着た少女であった。

 年はメルと同じくらい、いや少し下であるように思えるもその話し方は癖のある喋り方であった。

 東洋風な服――和服を着飾り。

 扇子をパシンと閉じる。


「え? あ! ち、違いますよ!」


 最初に困惑その次に必死に否定するメル。

 対して和服の少女は口元を扇子で隠しながらからかいを含める。


「ふむ? かかか、すまんのぅ。少しからかっただけじゃ。そのような華美ないで立ちのものが盗賊とは考えにくいのじゃが、ここは見知らぬ土地。

常識によって足元をすくわれる可能性があるので聞いてみただけじゃ」


 クスリと笑い、メルを上目遣いで見る。

 カランコロンと下駄が鳴り。

 黒い髪と紅い瞳が妖艶に揺れていた。

 少しの緊張に硬く体を縮こませるメルに少女はお道化る。


「というわけで、我も盗賊ではない」

「え?」

「お主と同じ――いや、それでもこのような衣服が盗賊の手に入るとは考えにくい。そして我は少女じゃ。“たった一人”で盗賊たちを御しきれるとは思えんじゃろ?」

「え……。ええっと、確かにそうですね」


 一般的に考えてこの少女が一人でこの穴にいた盗賊を討伐できるとは思えない。

 加えてこのような衣服を着られるのは限られた者たちだけであり。慰め者として連れてこられたとしても服に金をかける意味がない。

 よって彼女も盗賊に連れてこられたと推理できるが――。


「……お客さんがお出ましじゃな」

「へ?」


 森側から囲むように数十体の狼が飛び出した。

 現れたのはナイトウルフと呼ばれる黒い毛の魔物だ。

 闇夜のハンターその異名が付けられるくらいその毛皮と強さは轟いており。


「く! 誇りと名誉を守る者よ。今その力を求めん! 〈鎧天使(アーマーエンジェル)〉!」


 メルは一体の天使を召喚した。

 機械的に動くその天使は生き物。

 というより鎧を被った人形が動いているように見えた。

 シャープなホルムと磨かれた白い装備の数々。

 頑強な鎧に牙を阻まれナイトウルフたちは成すすべなく。

 その天使に葬り去られる。


 だが。


「っ!」


 一匹のナイトウルフがメルを狙った。

 それは頭のいい個体であり、術者がメルだと気づいたからだ。

 術に集中していたメルに防ぐことなど叶わず、目をつぶるのだが――。

 ザクリ。


「旅は道連れというもの……手助けさせてもらうがよいか?」


 呟いたベガは短剣を投げつけた。

 ゴボリと血を吐き出したナイトウルフはそのまま事切れる。

 〈スペース〉の魔法で取り出されたと思われるそれは何もない空間から取り出され、魔物の喉を貫いたのだ。

 背中をあわせ、互いの死角を補う。彼女たちは共闘を約束した仲間のように。


「あ、ありがとう……」


 短く言葉を交わした。

 と同時にメルは彼女の名前を知らなかった。

 口ごもるメルは気まずそうにするも……それに答える和服の少女。


「〈歴史と歩むもの〉ベガじゃ。通りすがりの召喚術士じゃよ」

「あ、ありがとうベガさん」


 かくして彼女たちは偶然の出会いを果たした。




 ナイトウルフという魔物に囲まれるのは少女と言うくらいに若い者達。

 互いに死角を補いながら、ナイトウルフたちを睨む。

 ゆるりと隙を伺うのはナイトウルフたちで。


「統制が取れていますね」

「リーダー格がいるか、もしくは――」


 メルに答えるベガ。

 それを好機と見たのか一匹のナイトウルフが襲い掛かる。

 けれど――。


 たやすく〈鎧天使〉の剣で惨殺される。

 舞う血しぶきは魔物たちの動きを鈍く、慎重にさせる。


「操っておるかの二択じゃろぅ」

「操る?」

「まあ、全滅させればいいだけじゃ」


 ベガはそう言うと腕を振り上げた。

 扇子で口を隠したままであるが、笑みを浮かべているのだろう。


「召喚じゃ」


 囲っていたナイトウルフたちの頭上に召喚陣が描かれる。

 そしてそこから短剣が降った。完全に死角からの一撃はベガを注視するあまり魔物達は気付けない。


「ギャオン!」

「オオん?!」


 知性の無さが仇となり。

 一斉に脳天を貫かれたナイトウルフ。一撃でこの場の脅威を払った展開になった。

 そんな状況に焦りを抱いたのかベガに向け矢が放たれた。森から放たれた武器の一撃は残念ながら

メルの〈鎧天使〉が防ぎ。


「……姿を現したらどうじゃ?」

「……生意気な!……」


 木の間から現れたのは無精ひげを生やした、腕に入れ墨を持つ男。

 府揃いな髪はそのまま不清潔感を出しそれでも真面な服装は彼の盗賊での立場を告げていた。

 対して目を大きく見開くのはベガで。


「……驚いた……。まさか本当に姿を現すとは……」

「あ?」

「だってそうじゃろ。このまま姿を隠したままの方がお主にとって有利なのじゃぞ?」


 警戒をあらわにした。

 魔物を扱う〈テイマー〉は姿を隠しておいた方が有利なのは常識だ。

 けれども彼が姿を現したと言うのは絶対の自信がそこにあるわけで――。


「ふ、ふん!いまさら怖気付いても無駄だ! 現れろ! ミノタウロス!」


 樹をなぎ倒しながら現れたのは牛頭を持つ二足歩行の魔物。

 白と黒のホルスタインが特徴的なその魔物は赤い殺戮の瞳をベガたちへと向ける。

 持っているこん棒は何かを潰したように血痕が残っており、まるで樹木をそのまま武器にしたような大きさだ。


「何? まさかこやつが……」

「今さら後悔しても遅いな! こいつはCランク相当に匹敵する化け物! つまり〈鎧天使〉を使役するお嬢ちゃんには倒すことが不可能であり――」


「お主は馬鹿か?」


 男の言葉を遮るようにベガの言葉が木霊する。

 一握の砂が何処からか舞い、空気が止まる。


 目に血を充血させ、口を開いたままの男、欠伸をしながらその話を待つのはベガ。

 メルはどうしたらいいのか分からない。

 だから取りあえずフォローをする。


「ミ、ミノタウロスですか~。大きくて怖いですよね……」

「止めるのじゃ……」


 沈痛な顔をするベガがメルを叱る。


「お主、大根過ぎるぞ?」


 その言葉が引き金であった。


「き、貴様ら~!」


 男は命令を下す。

 Cランクの魔物であるミノタウロスが突撃する。


「お、落ち着け。何を怒っておるのじゃ?」

「貴様!俺の魔物を侮辱しただろう!」

「な、何を言っておるのじゃ! がっかりしたとはいえCランクじゃ! 強いと言うのは……多分そうなのじゃろう?」

「それを馬鹿にしてるって言うんだよ!」


 嘲笑するベガと暴れるミノタウロス。

 けれども身軽にかわすベガには当たらない。

 そして疲れるのはミノタウロスだ。


「ブモ~、ブモ~」

「な、何をしている!ミノタウロス!」


 叱咤をする盗賊をしり目に。

 疲れ果てている間にベガはメルに作戦を伝える。


「お主、〈鎧天使〉より強い天使は召喚できるか?」

「え、はい。一応できますが、詠唱時間がかかります」

「なるほど、ではその間、我が引き付けておく。よろしくなのじゃ」


 そう言ってミノタウロスと相対する。

 未だに荒い呼吸のままのミノタウロスだが――。

 再び煽るのはベガだ。


「お主、なぜミノタウロスなのじゃ?」

「あん?」

「いや、普通チーターが戦う場合、強大な魔物やドラゴンと言った強者として相応しいものを初戦の相手として戦う者なのじゃが――どこで間違ったのか何故、Cランクの魔物なんかと戦わねばならんのじゃ!」

「う、うるさい!ミ、ミノタウロスだって強いんだぞ!」


 逆切れするベガに男は反論する。

 口喧嘩をする二人はさながら子供で馬鹿と罵り合うような低能なものであった。

 そして――。


「うるせーーーー!」


 逆上した男はそのままミノタウロにこん棒を振り下ろすよう指示する。

 不意な出来事であり、動かなかったベガの姿は消える。

 あまりの衝撃に土煙が舞い、ベガの死亡を確認できないがそれでも無事であるはずがない。

 そう思った男はそのまま笑みを浮かべる。


「ど、どうだ!見たか!これがミノタウロスの恐ろしs「馬鹿じゃのぅ」」


 再び聞くとは思えなかった声。

 土煙が晴れ、ベガはこん棒の上に立っていた。

 扇子で口を隠したままのベガはそのまましゃべる。


「煽り耐性が無さすぎじゃ。だからお主は負ける」

「は! 俺のミノタウロスが誰に負けるって――え?」


 眩い光に包まれるメル。

 瞳は何かを宿したように空色に輝き、詠唱する。


「白銀に降り立つ者よ。主の命を守るその剣と正義を我に……〈主剣の大天使(アルビオン)〉!」


 騎士然とした真っ白な天使が降臨する。

 羽が降るエフェクト、そして辺り一帯を真っ白に染める一本の剣はそのまま神々しさを演出する。

 シャープなフォルム、けれどもそれが振る一刀は――


「〈白き閃撃(しろきせんげき)〉」


 白い線がミノタウロを縦に斬る。

 それは抵抗なくミノタウロを一刀両断するのであった。




 騎士団はメルの詮索をしていた。

 短距離転移魔法で誘拐されたことで、それによる焦りが彼らの動きを機敏にする。

 そして――突然鳴り響く轟音を頼りに、もしかしたらメルがいるのではないかという危惧が彼らを動かした。

 悪い予感を誰もが感じ取る。


 すぐさま、直行した騎士たちが目にしたのは――。


「へ~。と言うことは私と同じ所に向かうのですね」

「ま、まあ確かにそうなのじゃが……」

「だったら私の馬車に乗った方が合理的で楽じゃないですか!」


 岩場に腰掛けている美少女たちを見つけた。

 辺りはミノタウロが流す血の海で、彼女たちの足元には盗賊が転がっている。

 盗賊は泣きながら「ミノタウロス……ミノタウロス……」と力なく呟いていた。


 状況が呑み込めない騎士。

 そしてやってきた騎士に気が付いたベガは尋ねる。


「我も護衛するのは面倒じゃろ?!」

「ベガさんも馬車に乗せて護衛してもらってもいいですか?!」

「……え、えっと構いませんが……」


 残念ながら突然の事態であり、騎士たちはメルの言っていることを半分も理解していなかった。それでも反応するのはメルの気迫に負けてのこと。それは突然彼女から同意を求められた行為に等しいもので。


「本当? やった! ベガさんは私の命を救ってくれた人なんです。だから、命を救ってくれたことに対する恩返しがしたいのです!」

「いや、我は時間稼ぎをしただけじゃ――」


 短絡的な思考のメルであるが、残念なことに彼女は箱入り娘であるのだ。常識が欠如していることがままあるのは仕方ないと言える。

 加えて。


「それに――もしかしたらお友達になれるかも……知れないので……」

「え?」


 頬を赤くするメル。

 それはベガがメルの初めての友達と言うことであり――。

 騎士たちにとってもそれは喜ばしいことでもあった。




 メルは強引な方法でベガを招く。

 早速と言ってもいいほど即座にベガを囲い込み、馬車へと乗せられた。


 高級な……とは言え貴族のしかも上流階級が持つ馬車に乗るのは持ち主であるメルとその客人であるベガの二人だけ。

 広くつくられたそれに二人は向かい合うように座りベガは着物を、メルはドレスを着ていた。

 赤と黒をベースとした着物を着るのはベガ。

 袖に金糸で、赤と黒の鯉が縫ってある。

 武器と言うには疑問が残るものであるが、ベガは扇を持つ。

 髪は黒く瞳は紅く、その長い髪は腰にまで届く長さであった。

 

 何か言いたそうなベガはため息をつく、その姿は美しく。天然の自然な美しさがそこにはあった。

 強引に連れてこられたベガはどうしようかと悩む。


 その一方、気まずそうな雰囲気をどうにかしようとしているのはメルという少女。

 彼女はこの馬車の持ち主であり、それにふさわしいだけの恰好をしていた。

 本名メーテル・ラ・シュレインゴール。大貴族の令嬢であり、見目麗しい美貌を持つ少女だ。

 金髪に若干の茶髪が混ざった髪は邪魔にならないように纏め上げていた。

 その瞳は金色で困惑気味な視線をしているが、それもまた美しさと言える。

 年は中学生程度に見えるものの、そのスタイルの良さは大人にも匹敵するほどであった。


 彼女たちの関係を簡単に説明するならば、命を助けたものと助けられたもの。

 半ば強引にベガを引っ張るメルは友人関係の構築に失敗し何を話したらいいのか分からなかった。

 だが取りあえずは。


「ベガさんは何をしにグッテンバルグへ?」


 グッテンバルグ。

 それは商業都市として有名な場所である。大きさはリニエスタ王国の首都に匹敵すると言われている。

 発展した経緯としては、そこに商人が集まったことによる交易という面が大きい。その歴史は浅く、できてから70年。けれど今も発展し続けている。

 「天下の市場」と、

 異名がつけられるほどにそれは有名であり人や物が集まる場所で。


「……ぶらりと訪れた次第じゃよ」

「?」

「かかか、我も何故かは知らぬが、期待はしてしまうというものよ」


 ベガは疲れたように、けれども遠くの何かに期待するように答えた。

 そして、今も困惑的な視線を送るメルはある意味仕方ないと言えるだろう。彼女はお嬢様であり――友達が少なかった。

 それによって生まれるのは話題が無くなり沈黙の時間。

 友であれば心地よい沈黙もメルにしては気まずい沈黙である。それにベガがメルのことをどう思っているのか、それすらも分からない彼女は質問してよい領分を判断できなかった。

 再び静かな空気が流れる。

 視線を下げ、気まずい雰囲気に耐えるメル。

 その様子をチラリと伺い微笑むのはベガであった。それはただ単にメルが可愛かったからだ。

 そして質問する。


「メルはこの大規模な”反乱”をどう見る?」


 それは抽象的でアバウトでファジーな質問であった。深いことに答えてもらおうとした意図はなく。ただ単純に話のネタとして話したに過ぎないそれであった。

 友達と政治や社会についての語らう、そんな感じの軽い質問だ。


「え! え~と~」


 困惑するメル。そして、混乱気味に考える。

 その様子を見て、満足するベガ。

 小さく笑う。

 これは意地悪な質問であったのだ。質問自体が誤りであり、抽象的。つまるところそれは質問自体を指摘するのがせいk――。


「――考えたのですが、これって本当に”反乱”なのでしょうか?」


 ピタリと止む、ベガの笑い声。

 独り言のようにつぶやくのはメルであった。


「反乱というには大きな、それこそ今の社会の在り方を壊すくらいの力を持っていると思います。うまく説明できないけど、反乱と捉えること自体が間違えじゃないかと――」


 そういったところでハッとするメル。

 ベガが驚き、目を丸くしているのに気付いたからである。

 思考の海に没頭し、間違いを言っていたかもと羞恥するメルは。


「あ、あのすいません……」


 無意識に謝罪の言葉が出たのはそういった理由だ。

 申し訳なさそうに視線をベガに向ける。

 ベガは扇で顔を隠しながら、笑っていた。

 大いに。

 寛大に。

 彼女はこれを反乱だと言わなかったことに。


「かかか!」


 ベガは笑った。

 それはメルの知らない言葉であった。誰も知らない言葉であり概念であった。例えるならば、宇宙というものを観測したときに初めてその存在を知るように。それはメルによって発見、観測されたのだ。

 誰もがそれを反乱という名で呼ぶがメルただ一人はそれを異なった見方をしたのだ。

 

「お主! なかなか面白いのう! 我もお主の旅に同行しよう!」


 かくして彼女たちは親睦を深め、共にグッテンバルグへ向かうことになった。

 そしてこれが後に語られる。

 黒の魔物と呼ばれる少女と英雄姫と呼ばれる少女の邂逅であった。


前に書いた話は消すことにします。

大変ご迷惑をおかけしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ