傭兵の言葉
さて、問題解決にはリスクが付きものです。
ノストは屋敷がやけに騒がしくなっていたことを。
買い物の帰り道。
馬車の中から理解した。まず初めにやけに騒々しい雰囲気に不快感を示し。くすぶる焼けた匂いに鼻腔を歪ませ。
「……おい、別の道から帰れ」
「で、ですが丁度進行方向にその匂いの発生源がありまして……」
「何?!」
「や、屋敷から……! 屋敷から煙が上がっているのです!」
怯える業者は困惑しながら正直に言った。
一旦窓から頭をのぞかせたノストは業者の反応とそれが真であるのか確認するために乗り出して。
「ど、どいうことだ!」
驚愕を口にした。
帰ってすぐにノストは屋敷の騒がしさに騒然と。
嫌唖然とした。
立ち込める煙で正確な情報を得ることが難しく。何が起こったのか周辺にいる者を捕まえて話しを聞いた。
そして。
「屋敷に火は起きていないと?」
「そ、そうです。確認したところこの煙は全て魔法によってたかれたものだそうです」
「何のために……? 盗まれたものなどはないのか?」
「今それを確認中とのことです。ただ気になる情報がありまして……」
詰め寄られた執事は事の詳細をあまり知っていなかった。
何せ彼は指示を受けて行動していた使い走りのような役割であり。
「詳しくは屋敷にいた傭兵が知っていると思われます……」
「……」
ギロリと睨むノストに対して執事は今も懸命にメイドや執事に指示を出している傭兵を指さした。
傭兵はこの屋敷の警備責任者で万が一を備えて配備された者だ。
こういった不測の事態に対して一応、メイドや執事に対して命令権を行使できるようになってはいるものの。
「は、はやく犯人を探し出せ! ノスト様が帰って来ない内に――」
「俺が帰って来ない内に……なんだ?」
「!」
背後からかけられた声に傭兵は顔を青白くさせ、恐る恐る振り向いた。
それは自らの失態を理解する者の顔でノストの残忍さも知っているものの顔だった。
膝をついて見上げる形で十五の少年に懇願する。
「なにとぞ……! なにとぞお許しを!」
「私はまだ貴様の犯した失態について理解していない。ただ……そうだな。メイドを手籠めにしていた件を含めて貴様には期待していた……とだけ告げておこう。期待していた分、失望する時の落差は大きいものだ……」
覚めた目で傭兵を一瞥したノストは彼の方の上にポンと手を置いて。
「それで……犯人は捕まえられたのか?」
「そ、それは……」
「では別の言い方をしよう。犯人を見たのか?」
「う……」
言葉を詰まらせた傭兵はその犯人……。
怪しいものについて心当たりはあった。あったのだが、それは己の失態を明らかにするものであり。
「心当たりは……あるのだな?」
「あ、あります」
「ならばなぜ、捕まえられなかった?」
「そ、それはその……」
なかなか言い出せない傭兵はメルに手を出そうとしていたことも含めて。
ましてやそのメルに気絶させられていたことも含めて職務怠慢だと言えた。
言い出せない状況で力を込めた手が、傭兵の方に食い込んだ。
「言え」
「き、気絶させられたのです。不意から襲われたので――「ガン!」!」
突然の痛みが傭兵を襲った。
それはとても固いもので頭部を殴打された証拠であって。
クラクラした頭でその得物を見た。
血の気が引いて怯えを奏でる。
「なにとぞお許しを!」
「安心しろ……鞘は抜かない。ただお前が本当に気絶していたのか。または記憶を取り戻すための手伝いをするだけだ」
「ひぃ!!」
鞘を付けたまま剣を振るうノストは憤怒に顔を染めながら。
許しを請う傭兵を何度も。
「ゆ、許して! ぐへ!」
何度も。
「お、おネガギシマズ!」
晴れることのない怒りを傭兵に振るった。
血にまみれ動かなくなっても執拗に剣を振ったノストは三つ編みと眼鏡という単語である程度のあたりを。
ノストは覚えるのであった。
それは正しくルメールとその仲間たちに関する言葉であり。
正しく敵としてノストはメルらを認識するのであった。
その日からだろう……。
メルに対して苛めが行われるようになったのは。
一応メルは鉄のメンタルを持っています。まあ大丈夫なのですが……。




