心もとない綱
アクションシーンを書きました。
傭兵を寝かせた後。
メルは一通り部屋の中を見回した。
そこは屋敷を警備している傭兵の寝泊り部屋も兼ねたもので。
簡単な窓と机が並べられていた。ただそれでも。
「あまり良い匂いとは思えませんね……」
異臭……というよりも性的にただれた匂いがしたのはこの部屋がどういった意味で使われていたのかを如実に表していた。仕置きも含めたストレスの発散はさきの男のような性格では当然と言える。
「傭兵……屋敷の警備を含める業務内容でしたら何処かに鍵があるはず」
そう予想を付けたメルはタンスやら机やらを懸命に探した。
探して意外と簡単な。
彼のポケットに入っていたのは省略した話で。
「部屋から出るにはどうしたらよいのでしょうか。出口は二階の大階段の近くですし、嫌でも目に付く可能性があります。う~ん」
ただ問題としてどうやって出るのかが悩みとなった。
しばらくメルは机の周りを歩き、何かないかと部屋の物色をもう一度行った。そして準備に取り掛かったのち
コンコンと。
「? ユリウスさん?!」
窓の外。
二階の部屋にノックをするユリウスを見つけるのであった。
メルが部屋に入って即座に行動を起こしたのは紛れもなくユリウスであった。
それは一緒に屋敷に入ったノエルの情報と現状を考えて動けるのはユリウスしか行かなかったからで。
「庭師の梯子を使えばなんとか行けるか?」
そう思いついたから。
間取りはノエルから得た情報によって粗方は把握しており。
凡その見当でどうにかメルがさらわれた部屋にたどり着けた。
風に揺られ梯子が軋み。
急ぎながらもその部屋に到着したユリウスは最悪を想定していたにもかかわらず。
「……元気そうだな」
「お、お陰様で元気ですよ?」
「大事には成っていなかったのか?」
「至る前に倒しましたので」
「……」
予想の外れた展開にユリウスは妙な冷静さを表した。
窓を開けて忍び込んだユリウスはスタリと部屋に入って。
少しだけあたりを見た。
そして、本当に大事に至っていないことを確認した。
「……傭兵もちゃんと縛ってあるし、手際がいいな」
「慣れればどうってことないですよ。それよりも早くリリィさんを助けないと」
「……そうだな」
若干の怪しさを感じたユリウスだったが。
それでもここに来た理由はリリィを助けるため。
メルの経歴やらが気になるところではあるけど目的を優先した。
「鍵も手に入れましたしこの窓から三階に伝って行けませんか?」
「行けなくはないと思うが……」
「危険を伴いますね。花壇に落ちれば大事には至らなさそうですけど……」
窓から下を覗いたメルとユリウスは。
それが如何に確率的に低いのか確かめた。
吹いた風は嫌に冷たく。
ゴクリとつばを飲み込む音が木霊した。背中に汗を纏う。
ただそれでも誰かが行かなくてはならないのは確かで。
「……ここは俺が行く。ルメールはこの部屋に誰か来ないか見張っていてくれ」
「分かりました。それと一応なのですが」
ガサゴソとタンスを調べるルメール。
早くリリィを助けるべきだけど。
それによってユリウスたちが取り返しのつかないことに陥ってしまえば本末転倒である。
故に。
「ここには大量のシーツがあります。心もとないものかもしれませんが、無いよりかはマシです」
「……ああ、そうだな。早くコイツを完成させよう」
できかけではあったもの。
それはシーツで出来た綱のようなものであった。
腰にそれをまき、ベッドにきつく結びつける。
簡易ではあるが、ユリウスに屋根の上を渡る勇気を与えた。
きつく結びつけられた綱と傭兵から入手した鍵を持って。
「よし」
「気を付けて行ってください」
気合を入れると同時に一歩。
窓の外へと足を出した。
幸い警備の者たち含め、この屋敷にいる者たちはユリウスに目を向けなかったので。
「思っていた以上にうまくいくかもな」
そう呟いてしまう。
窓枠に手をかけ背中を外気にさらす。湿った手は緊張を伝え、全身に駆け巡る風は不快感を抱かせる。一歩……牛歩の如く。横に。
カニを思わせる足取りで横へと進み。
「飛び……移るか」
壁面を沿って歩いたユリウスは行き止まり。
いや、少し離れたテラスに目を向けた。
それは個人の部屋に付随したもので、憩いの場とも言えるものだ。
現在は誰もおらず小さな机が置いてあるだけに過ぎないが。
「あそこを使って三階まで登れる……」
風にかき消されそうな声音で呟いた。
今も吹く風は確かな恐怖を伝えるが。
それよりも勇気が勝ったのはリリィに向けての愛があったからに他ならない。
ゆっくりと……だけど確かに真っ直ぐな瞳でテラスに行く呼吸を整えた。
そして。
「っ!」
思いっきり飛んだユリウスは何とかその手をギリギリテラスの手すりに引っ掛けた。
命からがら一息つこうと思ったユリウスは――。
ガチャリ。
「!」
その部屋……誰かが部屋に入ろうとする音を聞いたのであった。
手に汗握る展開になれば幸いです。
こういったシーンが上手く描ければよいのですが……。
くどい描写になってしまう。




