婚約破棄
平民の定義が曖昧だったのでボロが出ました。
一応光明を見つけ。
解散となったセルジスらをメルは見送った。
残ったメルは薄暗くなった王都に少し目を向けながら執務室に戻って部屋にいるベガに真意を尋ねた。
真意……この場で尋ねたのは新しい省を発足するにあたっての狙いについてで。
「ユリウスさんたちには黙っていましたが……この意図は平民を雇用するということですか?」
「正確に言うのなら、行政に平民出のものを迎えると言うことじゃ。平民の立場向上の意と改革の象徴……それを示す人材が必要じゃが」
かかかと笑うベガは誰もいない故に素のままメルと接していた。
快活に笑っているベガをメルは少し影を含めた笑みで返した。それは少しの嫉妬を含めたもので解決をベガに任せてしまったことに起因しているからだ。結局のところベガが全ての問題を解決しているかのように思えたが。
「とは言え、最後の詰めはメルに任せる結果になってしまうがのぅ」
「?」
「かかか、我は知っているが故に案を出すことは出来る。しかし、人との付き合いに関してはメルに任せっぱなしじゃ」
ベガもまたメルと同じ気持ちを抱いていた。
それは扇子で隠すその横顔から察せる事実で、歯痒く含んだ言葉だったから。
結局のところ、メルもベガも自分一人ではこの状況を打破できないものなのだ。
そんな気持ちを知ったメルは自分の嫉妬を笑い。
「任せて下さいな。こう見えても一国を背負う立場ですので」
「青春もままならぬ少女にこれ以上重荷は任せたくなのだがのぅ。貴族と平民の婚姻についても……法の整備を進める必要があるな」
「?」
「貴族と平民の仲を取り持つ者が必要じゃ。それを担うにはこういった者を大々的に取り扱うことが大切じゃよ」
上目づかいで微笑むベガは月夜に照らされ妖艶に映えた。
ベガがこの世界をどのように見ているのか分からないが。
それでもメルと共に歩む世界に、ベガは満足を覚えていたのだ。
故に。
「国の在り方も変わりますが兎も角」
「メルならばこの時代の波に捕らわれず、先に進めるさ」
変革を促す未来にメルとベガは光明を覚えるのであった。
翌日となり曖昧な天気にさいなまれる一方。
メルは着替えてユリウスらと会う約束をしていた。
それはこれから彼らと共にある取引をするからで。
「……本当に行くのか」
「ええ、勿論。リリィさんを奪い返すには両親の説得は欠かせません」
「両家の同意を基に婚約がなっているのです。破棄させるにも筋を通さなければなりませんからね」
整った服装で集まった彼らはいつもよりも気合を入れた格好だった。
彼らは共に噴水を眺めながらこれからの予定について話し。
「……確認だけど、書類の準備は大丈夫なのよね?」
「ええ、メル様のサインがある取引書……それは用意してあります。婚約の破棄の手続きとしては、まだ正式では無い分慰謝料を払う形で終わると思っています」
「慰謝料か……」
重く呟いたユリウスは貴族社会で動く金について想像できなかった。
ただ、それでも慰謝料を払うだけで終わるのであれば。
リスクは少ないように思えた。
しかし。
「婚約を破棄する分にはそれで十分なのですが、その後が一番問題です」
「その後?」
「信頼の問題ですわ。婚約という一大イベントに対して泥を塗ったのですから当然の結果となります。両家の関係的な意味でも、貴族のルール的にも許されないことなのですから」
そう答えるセルジスは貴族社会の暗黙の了解について十分に理解していた。
それは女として生きるためのルールで呪縛と言っていいほどの理不尽だ。
故に婚約破棄した家に婿が来ることなど望めず。
孤立していくことになる。現にそれは。
「私の家も昔は大きな家だったと聞いています。しかし、それは一人の男児が駆け落ちするまでといったところでしょうか……。貴族同士の繋がりが無くなった今では商人と結婚するのが最も良いと言われています」
「……」
「ふふ、下らないですよね。おじい様もその方の名前を知らないのに、その罰が未だに続いているのですから」
乾いた笑みを残したセルジスは貴族社会の窮屈さを嘆いた。
真剣に聞いているユリウスもそれほどまでに貴族のルールが厳しいとは思いもしなかった。沈黙が重苦しい空気を作る。曇天の空模様は彼らの安寧に影をおとした。
だが。
「? 嫁の貰い手に関してはそこまで気にしていなかったのですが……」
「?」
「ええ? ユリウスさんが貰ってくれるのではないのですか?!」
「「「「!?」」」」
いきなりの言葉にユリウスは勿論、セルジスらも驚きを表した。
それはリリィへの好意を見抜かれた故の驚きと。
貴族が平民と婚約すると言う二つの理由があって。
「セルジスさんの家は貴族同士の婚約ではなく。平民と結婚することで家を継いできたのですよね? だったら別に」
「……確かに平民……広義に捕らえて冒険者や商人なども含めたとしましょう。ですが、今落ち目であるカーズ家に……ましてゴレイン卿と敵対するその家に婿入りするものなどいるのでしょうか?」
「ユリウスさんでは役不足ですか?」
その質問には本人の前であっても当然と答えなければならなかった。
何せ。
貴族は国の為に平民の管理、領地の経営を行わなければならず。
「知識にしても実績にしても足りないわ。冒険者であれば武力を使って、商人であれば財力を使って領地を経営できるから」
「なるほど……そう言った意味では確かにユリウスさんは役不足ですね」
うんうんとメルも頷く。
うつむくユリウスは力不足なことなど重々承知している。
しているからこそ、彼は立候補しなかったのだ。
だけど。
「では、今からそれを作りましょうか?」
「!」
ここに来て再びの驚愕に彼らは上手に反応できなかった。
人口的には平民の中で農民……。それに類する人たちが大多数を占めています。
だからここでの平民は農民についてとさせてもらいます。




