状況変わって
遅れてすいません。
メルは馬車に乗り最短のルートでリニエスタに帰った。
行きには使えなかった陸路はモストロールが宣戦したからであって。
今であれば大した危険なく進むことが出来た。
そして。
「やっと帰れた~!」
無事にメルはリニエスタに帰るのであった。
道中、魔物やらに襲われることもあったけど。
一息ついたメルは夕焼けの空の下ウンと体を伸ばした。
宵の明星が……小さく輝いた。
執務室に制服を着た女性……赤毛の麗しい女性が書類を持っていた。
メルはまず初めにこの度の戦争……その被害についてレオジーナから聞かされるのだが。
「直接の戦闘は起こっていないので、戦死者はいません。しかし警羅団を動かしたことによって治安が悪化。その結果犯罪数が増えたのが被害と呼べるものです」
「要するに二次的な要因なんですよね? 他には?」
「武器や食料の需要が高まり、値上がりしたのもまた一つ……。そしてそれによって軍は余剰な武器と食料を得たのも問題です」
ペラリとめくったレオジーナは書類をメルへと渡した。
軽く目を通しただけのメルだったが。
みるみる顔が青くなっていき。
「……買いすぎでは?」
「要所での拠点防衛が主な戦略でした。籠城も考えればこれぐらいが妥当ですよ?」
ことも無く言ったレオジーナに。
メルは彼女の言が本当なのだろうと理解した。
一応戦争を回避できたもののその準備と割いた人員によって被害はもたらされたのだ。
「はぁ~、なんで戦争なんてするのでしょうか?」
「土地の拡大や資産を略奪できれば、利益もでるでしょう。防衛する側からしたら損しかありませんが」
「うぐぐ……。お、お金が~」
報告だけを聞いていたメルだったが。
国の未来に不安を覚える結果となってしまった。
奴隷解放や国庫の心配……加えて。
「つきましては難民についての問題もあります……」
「な、難民?!」
「はい……。モストロールやワナルなどに住んでいた住民がミラル奴隷国から出国する形で来たようです」
「ううう」
何せミラル奴隷国は出来たばかりの国で奴隷が建国したのだ。
治安や政治に対して不安を募るが当然で。
リニエスタに流れたのは予想できただろう。
頭を悩ませるメルは大きく、大きく息を吐き出す。
奴隷問題に、難民問題……加えて資金調達にも考えを巡らせないといけない事態は。
「とは言え、そんなに急を要する話でないのも確かです。それよりも今は二日後にある体験入学についてメル様は考えないといけないかもしれませんね」
「はい?」
レオジーナはクスリと笑って。
目を丸めたメルを可愛がった。
「覚えておられないのですか? 去年国策で学校を建設されたことを?」
「い、いえ……。覚えていますよ。ただ……」
いきなりの言葉で、こんな時期にと言う疑問があった。
メルは正しく多忙に追われるはずなのだが――。
「だからこそ……と言うのもあります。メル様は休養が必要で私たちには準備が必要なのです」
「……準備?」
その言葉が何を意味するのか分からなかったが。
レオジーナの表情と含む仕草を見れば教えてくれないと分かった。
兎も角メルは己の仕事……リフレッシュも兼ねた視察が必要であるのは確かだ。
「分かりました……。これらの問題は頭の片隅に置くことにします」
「ふふ、ありございますメルちゃん……」
最後の言葉は正しく。
レオジーナが我が儘を言った証でレオジーナとして感謝を述べるのだった。
かくしてメルは休養を計りながら学園への体験入学をすることになった。
制服を整え眼鏡を掛けたメルは。
髪を三つ編にして出来る限り雰囲気を変えるように努めた。
「……よし」
メルがこのように変装したのには訳があり。
「これで誰もメルだと思わないはず……体験入学とは言え皆さんに迷惑はかけられません」
フンスと息巻いたメルは。
己が学園に入学すれば大ごとになることを理解していた。
だからメルだとバレないように変装したわけで。
「準備は出来たかい?」
「はい、シフォンさん。準備は――」
そうメルが言って振り返った。
……振り返って一瞬メルは誰に話していたのか分からなくなった。
何せこの部屋から聞こえたのはシフォンの声であって。
「はは、どうしたんだい?」
「だ、だれですか?!」
シフォンのイメージからかけ離れた好青年がそこにいたからだった。




