最後の時
次で終わりです。
マルバスへの効果的な攻撃は。
メルの起こした風によってあらわにされた。
マルバスの肉体はナガリの物であり。
逆に言えば、ナガリに付けられた傷はマルバスの傷なのだ。変化する直前の傷は今も致命的なダメージを蓄積していて。
マルバスの唯一の弱点となる。
『ひ……人種がアアア!!』
叫んだマルバスは憤怒を叫びながら。
本気を出さざるを得ないことに気が付く。
知られたからには生かしておけない。加えて人に一撃受けた屈辱がマルバスに抑えきれないほどの憤怒をもたらしたから。
ただ。
「め、メル!」
「はぁはぁ……」
ジーンが倒れ込んでいるメルを発見して。
彼らの加護も時間の問題であることに気が付く。
今もメルの杖は光り輝いているが。
それはメルの意識がそうさせているだけ。
気絶すれば、その術も終わりとなるのだ。
『簡単には殺さぬからなぁ! 人ども!』
決戦の時は近づき。
マルバスが咆哮を上げる。
同時にメルの周りに集まったジーン、エドバンら、ダスクなども。
「うふふ、こちらこそただでは殺しませんので」
「討伐してやるよ……。悪魔!」
「この槍に誓って貴様を討つ……」
戦意を高ぶらせた。
各々に構えた武具は冷気を宿らせる槍や。
風を纏うデスサイズ。
人狼に変える魔剣などがその刃を鋭く光らせて。
『皆殺しだ!』
「死ぬのはお前だよ!」
先方をジーンに任せる。
魔剣によって素早さの上がったジーンは一瞬にして距離を詰めるも。
悪魔は反応してその一撃を――。
「〈黒狼の牙〉!」
『〈黒獅子の爪痕〉!』
黒の霧を纏った爪で応戦する。
魔剣と爪が交わって黒く閃光が放たれるも。
「〈黒氷の棘〉」
「〈風鎌〉……」
『!』
地面から生えた黒氷の棘とデスサイズから放たれた風の一撃が急所。
胸に残る十字の傷に当たる。
一撃を応戦する代わりにマルバスは二撃を貰って痛みに耐えるも。
『小賢しい!』
「〈スネーク〉……」
「〈ファイヤーボール〉!」
変化する斬撃と焔の球。
「〈スマッシュ〉!」
体勢を崩す斬撃が。
「〈王喰らい〉!」
ジーンの渾身に繋がる。
マルバスの唯一の誤算と言うものは彼らの。
『連携を加えた攻撃……! さかしい! さかしいぞ!』
息の合った攻撃と言うものだった。
彼らの心を繋げ、今なお共闘を実現しているのはメルと言う繋がりがあったからこそ。
メルの意思がその加護を持って彼らの心を繋げているからこそ――。
『あり得んだろうがああああ!!』
マルバスをここまで窮地に追い込んだのだった。
咆哮を怒りに任せて放ち。
一旦距離を取らせたマルバスは。
『人種がああ!! 〈業魔の呪詛〉おおおお!』
己の体から溢れんばかりの病……その霧を彼らに放つのだった。
これこそが彼の最後のあがきで必殺を冠したもの。
巨大な獅子の形をした霧が彼らを包み込もうとした。
一方的な殴打は鈍い音と共に蓄積……そのダメージをブラディに与えていた。
並の人であれば死を意味するその一撃は残念ながらブラディにとってはただの打撃程度の痛みにしかならないけど。
「っ!」
「『くひひ』!」
重なれば重なるほど意識の混濁と痛みを覚えさせる。
笑うベガもまた度重なるチートによってその意識を朧にした。
一方的な殴打はたった二分間しか続かない物の。
「!」
「なめるなよ……ベガあああ!!」
効かないと分かっていても尚。
彼の本能が一方的な蹂躙を拒否したのだった。
抗いでもあり拒絶でもあるブラディの行動は。
血反吐を吐きながらも……剣を握りながらも。
その開いた左手をベガの腹部に打ち込む。
「っ! 『無駄じゃ』!」
「知っているさ! だがなぁ」
ブラディの思いは幼少期に振るわれた暴力。
その数々であり。
「沈黙には血が必要なんだよぉ!」
蹂躙を許さない彼の姿勢でもあった。
フックがベガの頭部に当たるも見えない壁によって弾かれる。
ただそれでも衣服を纏う部位には衝撃が伝わり。
「! 効かぬが『衝撃は来る』か……!」
吹き飛びそうになる。
未だにベガが剣を握り続けるのはブラディを逃がさないためであり。
この機会を逃せば次はないことを知っているから。
殴打と殴打が重なり合い。
血が滲む箇所とノイズを覆う箇所が徐々に多くなっていく。
我慢比べを兼ねた連打と連撃は。
「『ぐ』!」
ベガがその両手を離したことによって終わりを迎える。
抜き取った剣を再び構えたブラディは景色がモノクロから岩山の色に戻ったことを確認して――。
「終わりだベガ!」
「ああ、そうじゃな……。終わりじゃよ……」
くひひと笑ったベガは。
両腕を広げた。
思ったより長引いてしまってゴメンです。




