奇跡を呼ぶ風
こじつけ感がすごい……。
伏線をもう少し書くべきでした。
ナガリはその身に業魔を宿し。
ブラディは神話紀に使われていた魔剣を装備している。
対してメルらは人数的な優位しかなく。
「皆さん大丈夫ですか?」
「いつつ……。応急処置は一応したんだが、腕の痛みは引いてねぇ……」
「魔力もそう残っていないわ……。モンドは?」
「矢筒に数本と言ったところです。後はこの短剣だけですね」
尋ねたメルは彼らが〈ニーズヘッグ〉と戦った後。
満身創痍の状態であると確認した。
負傷者もおり。
「クスリ、エインヘリヤルたるものが情けない姿ですね?」
「うふふ……。哂いたければ笑うといいわ」
「君たち……ではアイツに勝てない……。にげ……るんだ!」
半身を起こして強がりを見せるダスクと。
臆病に逃げを選択するエリスは。
目や耳などから出血を起こしていた。
通常ではありえない出血箇所はブラディの装備している武器が特殊な能力を持っていることを意味しており。
「領域系エンチャントデバフ……。出血ダメージを加える性質と特異な赤い剣……ですか」
珍しくカトリーナは苦笑を持って独り言を呟いた。
それはベガとしての観点で見て。
その剣が非常にベガと相性が悪く。
加えて。
「……」
全力を持って事に当たらなければならない事態だと理解したから。
苦い戦況にカトリーナはどう動くべきか計算しながら。
現状を待つわけだけど。
「カトリーナ……ここは私たちがブラディと戦うべきです」
「……ですが、メル様が……」
「行って下さい。カトリーナ……私がここで何とかします……」
イナバの言葉をきっかけに、メルがベガの背中を押す。
何とかと言う言葉に具体的な案がないわけだけど。
それでもメルがベガの背を押したのは、ベガが全力を出すには自分が邪魔だと知っているから。
それに、このまま守られてばかりでは埒が明かない。
故に。
「私がナガリさんを倒します!」
大きな宣言は目下の目標を表す。
一陣の風が吹き抜けメルの髪を撫で挙げた。
それと同時に露になる瞳は大きな決意を秘めたもので。
英雄としての才を見せて。
「ああそうかい……。なら、さっさと止めを刺さないとね……」
その瞳に恐怖を……いや、この場合は危惧をナガリは覚えた。
だから彼は全力を持って、メルらの周りに霧を集める。
黒い闇を凝縮したような暗さはその術の邪悪を教え、岩々を灰と化す呪いは恐怖を与えるが
それでも尚。
ジーンとエドバンはメルを信じた。
賭けに近いメルの判断には幾つもの映像……この状況を打破する記憶が存在し。
目を閉じるメル。
「墓につづられていた文面……」
呟いた言葉はメルが見た壁画の一つで、エリスを助けた場所。
そこには天使の墓があって。
“ラファエル”の名があった。
「風の魔法によって露散する体……」
思い出すのはマルバスの攻撃を止めた風の魔法。
唯一彼の弱点と成り得る風は正しく“治癒の能力”があるのではないだろうか。
「業病と冠していますが、その実は広範囲にかかる呪い……」
その結論は、治癒の呪文を使っても治らなかった故の発想。
加えて悪魔が得意とする術に“呪術”と言うものがあって。
「この杖には特別に強い“解呪”の力が宿っています。その力は正しく封印を解くことにも使えますが……」
一息ついたメルはこれらの結論に全てを賭けることにした。
ピクリと眉を動かしたナガリはその事実を悟られまいとしているが。
彼の全力を持っての攻撃が。
その真実の裏付け、その解への焦りを表していて。
「ラファエル様の名前と風に関する術……。この杖に宿る解呪の力を合わせれば――」
術の名前など簡単に分かる。
加えて、聖術であれば治癒能力のある風を“息吹”と呼称することが多く。
「〈ラファエルの息吹〉!」
力強く叫んだ言葉は。
灰色に染めていた世界に緑を吹き込んだ。
爽やかに吹くそれは灰の霧をさらい、朽ちた木々を蘇らせ。
負傷していたエリスやダスクに色を戻す。
それは息吹を題名するに十分な力を持つことを意味していて。
その霧を……ナガリの切り札に対抗できたことを示した。
故に。
「ぐがあああ! なぜその術を?!」
灰の病が消える。
それ即ち、マルバスの呪いが解けたことを意味して。
その霧状の体を蝕むことが出来たのだ。
身を削られたような痛みを叫んだナガリ。
彼の脂汗と隠しきれない憤怒の表情が、メルの解が正しいと伝える。
「っ! ズルい……。本当にズルい女だな!」
「どうやら賭けは私の勝ちのようですね。それでは宣言通り……ナガリさんをこの弱さを持って倒して見せます!」
杖を構えたメルの隣に。
ジーンやエドバンが並ぶ。
その後方をエインヘリヤルが控えた。
「あはは! 奇跡を前に団結したのか? これだから信者は困るなぁ!」
不敵に笑うナガリはメルを敵だと改めて認識する。
その奇跡を前にして、彼は計算違いを悟るも。
「まだボクの魔剣があるけど?」
ブラディという名の余裕があった。
それは神話紀の魔剣があることへの傲慢で。
マルバスよりも強い力を持っていると言う自信の表れだったが。
「!」
「この眠気……覚ましてくれるかな? 〈テレポート〉……」
魔剣を掲げたブラディの肩に手が乗った。
それは眠気を覚える少女のもので。
〈円卓の魔術師〉を冠する者の手だ。
そして、その呪文を聞き終えたブラディは鋭くカトリーナを睨んで。
「沈黙には血が必要だ……」
「残念ですが、貴方の歴史もこれでお終いです」
一言かわして彼らは別の戦場へと飛んだ。
クライマックスです。




