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竜鳴きの谷

結構迷いました。

メルたちで竜を倒すにはどうしたらいいのか結構迷いました。

 最後の滞在予定日となったメルたち一行は、簡単に朝食を済ませ会議室へと足を運ぶ。

 深夜まで焔竜対峙の作戦を考えていたメルは眠そうにしながらも、正座で円形に並ぶ席へと座った。

 メルの隣にはベガとシフォン。

 シュワルツの右隣はシュタイヤが座る。

 洞窟のように樹をくり抜いて作られた場所であるが、光の魔石が照らす。


「……わかりました。あなたたちの提案を受けたいと思います」


 答えるシュワルツにメルは頷く。

 ここまでは思い通りである。けれども肝心の……その次が難しいのだ。


「それで、焔竜を倒す手立ては見つかったのですかな?」


 尋ねるシュタイヤにメルは苦く笑う。


「それについてはまだ、めどが立っておりません」


 正直に答えるメルであるが、それは悪手であった。

 騒ぎ立てるのは人種を良く思っていないハーフエルフたち。


「ふん。だから人種などに……」

「倒せなければ意味がない。其れについてはどうお考えか?」

「そもそもだ。これも彼らの自作自演、森に毒を入れた王国軍と手を組んでいた可能性も――」


 そう騒ぎ立てるハーフエルフたちをベガの扇子が黙らせる。

 パシン。


「なんじゃ? お主らだけで焔竜退治をするのか?」


 その一言で彼らは黙る。

 分かりながらも彼らが騒ぐのはただの嫌がらせであるからだ。

 メルも苦く笑いながら里長であるシュワルツを見る。


「ですから、皆さんには焔竜についての情報を教えてもらえないでしょうか?」

「焔竜について……ですか?」


 知らないシュワルツは周りにいる者たちを見た。

 というのもやはり、それほど竜が恐ろしく知られており近づくものがいないからだった。

 生態系や弱点などを知らないのは当たり前であった。


「そもそも、焔竜って本当に退治なくちゃいけないの?」


 質問するのはシフォン。

 目的はあくまで『原初の竜樹』の治療である。わざわざ倒す必要は無いように思われる。

 苦く答えるのはハーフエルフたちだ。


「毒にかかった樹木を治すのにはそれ相応の時間と準備が必要です。伐採もあり得る事ですし、やはりそのためには焔竜退治は欠かせません」


 森全体を侵す毒が普通の毒であるはずがないのである。やはり治療には時間がかかるし、伐採するにしても簡単にはいかない。


「……一応聞いておくが、それに反対するものは少なからず居るのであろう?」


 質問したベガは反対派の存在……信仰の問題に気が付いた。

 というのもやはり、文化的に見て竜を守り神として信仰する彼らにその象徴たる焔竜を殺すと言うのは酷であり、反発することが起きる事態。

 いくら森を守るためだとはいえ、納得できない者も少なからずいるのは確かである。


「その件に関しては一旦保留……。というよりも私たちの問題です。いざとなれば手はありますのでご安心を」


 微笑みを携えるシュタイヤは問題なしと断言した。

 ベガも気になってはいたが、やはりそれは取らぬ狸の皮算用。

 焔竜を倒さねば始まらぬことであった。

 話を戻し、焔竜について語るのはシュワルツ。


「建国紀には王が倒した魔物として、悪役として書かれています。物語の中では王が一人で倒したと書いてありますが――」

「所詮は物語じゃからのぅ」


 誇張された可能性が高いそれに信憑性はない。

 若干むくれるのはメル、それはやはり物語を信じていたファンであったからだ。

 そしてメルはあることを思い出す。


「建国紀には倒した場所が書かれていましたよね? それって参考になりませんか?」

「”竜亡きの谷”での決戦……かな?」


 メルに質問に答えたのはシフォン。

 誰もが知っている有名な場所であり。建国紀に出てきた竜との決戦の場として書かれたその場所は聖地である。

 険しい谷で竜を倒した場所。けれども誰も知らない場所であった。


「ああ、それです。そのことです!」


 思い出すメルはパズルがかみ合ったかのような快感を得る。

 そして、キラキラした目で見つめられるのはシュタイヤ。

 答えは――。


「”竜亡きの谷”? いえ、私たちが知っているのは”竜鳴きの谷”です」

「え? 竜鳴き……ですか?」

「はい。細い谷に冷たい風が吹き抜け、竜が鳴いているような音を出すことからその名が付きました」


 メルはガッカリする。

 実在はしているだろうと信じていただけにそのショックは大きい。モデルとなった場所であるのだろうが。


 そっか……。実在しなかったのか……。


 ため息をつくメル。

 そして不意に頭を撫でられる。


「よくやったぞ。メル」


 慰めるベガと不可解な疑問を残すメル。

 何か思いついたような顔をするベガに対して信頼するしかないものの。

 嬉しそうに優しくメルを撫でられた。


「それ以外の情報は無いのかのぅ?」

「後は皆さんが知っての通りですよ。赤い鱗を持ち、真っ赤な炎の息を吐く。巨体でありながらワイバーンのように飛ぶ魔物の絶対者」


 シュタイヤのトーンが徐々に落ちていく。

 暗く沈むのはその絶対者に挑まなくてはならないからだ。

 ハーフエルフたちも倒すのは無謀ではないかと思っているのだろう。


「十分じゃ、やはりメルよ。お主は流石じゃな」

「どういう意味ですか?」

「倒せる。そういう意味じゃ」


 笑うベガに周りは理解できない。

 目星はついたのだ。だからこそ、ベガはメルにもう一度頼む。


「メルよ。力を貸してくれないか?」


 立ち上がるベガはメルに尋ねる。

 手を出し、握手を求めた。

 それはやはり、ベガ一人ではできないからだ。

 いくらベガがすごい作戦を立てられるからといってそれをやるのは一人ではない。

 震えるメル。

 それはもう一度頼られた故の嬉しさであり――。


「あ、足が痺れて立てない……」


 足が痺れていたからだった。



もう一つのプロットではベガが毒を飲むつもりでした。


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