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閑話 教国での一日 Ⅲ

ぜ、全力の厨二……。

詠唱と設定を練るのに一時間もかかっただなんて言えない……。

 イナバが技を披露するにあたって。

 それは一種のお祭り騒ぎになっていた。

 何せ、イナバは竜を使役する存在でこの世界では珍しい者。

 そうでなくとも。

 竜と言う存在に一定の期待や尊敬があったものも事実だ。

 困惑と後に引けないイナバ。

 そんな彼女と違いテンションが爆上げなメル。


「な、なんでこんなに人がいるのですか……?」

「それは当然だよイナバちゃん! イナバちゃんのダークネスジャッジは伝説に出てくるシャイニングソードと対となる技! 邪悪なる竜が使うとされる伝説の技なんですよ!」

「え……えぇ! じゃ、邪悪なる竜の技?!」


 ここに来てやっと事態の大きさに気付いたイナバは。

 後に引けない事態になっていたことと。


「イナバちゃん頑張って!」

「イナバちゃん~」


 子どもたちも見に来ていたことで冷や汗を流す結果となった。

 ここに来て大言壮語となると。

 イナバの株が急落するのは目に見えていて。


「わくわく」

「ええ、メル様?!」


 期待を裏切るわけにもいかなくなっていた。

 そして仲間だと思っていたメルもいつ間にやら客席にいて。


「大丈夫だぜ! イナバちゃん!」

「はは、たかが女の子が放つ技だぜ? 俺たちが出るほどかよ~」


 冒険者たちまで見に来る始末。

 ……。

 うん、一般的な中二病は正しく大言壮語であり。

 封印されたとか、邪悪だとか。

 むなしい嘘を重ねて作られる物だ。

 しかし。


「……」


 もしこれが“本当”であったのならシャレにならない。

 その病は正しく嘘であるからこそ。

 馬鹿にできるのだから。


「い、いきますよ」


 覚悟を決めるイナバと。

 ヘラヘラと笑う冒険者。

 冒険者たちも一度は通った道で、英雄の技……それを真似て練習した事実もある。

 殆どの場合は、例え魔法世界で生きる彼らであっても真似できないし。

 痛いと感じる場面でもあった。

 だが。

 説明するに中二病と言う概念は、この世界では“馬鹿にすることが出来ない”要素であったりして。


「え、詠唱します……。17の災いを統べる竜よ。シャナの鎖を持って、権限を許そう。誓うは私の偽らざる言葉と――」


 目をつぶるイナバの詠唱は何かに怯えるように呟かれる。

 神妙な趣でかつ、畏怖の混じった言葉。

 集中しているイナバの周りでは。


「な、何の曲だ?」

「さあ? と言うか、なんだこれは?」


 冒険者の呟きがエフェクト的な現象を示唆。

 つまり黒い空間から鎖が伸びる様子と狂詩曲……この世界には無い音楽を指した。

 異質な二つの現象は。

 恐怖を思わせる鎖と闇の空間、軽快で楽曲的な爽快感を演出して。


「――狂詩を混じりて祝詞を与える。偽りの名をかたりし虚名。災いの竜にして帝を冠する強者よ。現れよ――」


 イナバの詠唱が終わりに近づき。

 最後の名を呟く。

 不吉と楽観的音楽が混ざった空間で。


「悪名を語りしもの〈帝竜 ディアブロ〉……」


 詠唱したイナバの背後。

 まるでポッカリと開いた穴のような闇から。


「!」


 鎖を巻かれた巨椀……竜の鱗を纏ったそれが現れた。




 その巨椀は異空間より現れた。

 鎖に巻かれ、勝手できないように処置。

 制御された腕ではあったが。


「ぎゃあああああ!」


 まず初めに叫んだのはイナバだった。

 何せ、その巨椀は同じく鎖を纏わせたイナバを狙ったからだ。

 目を疑う光景に意味の分からない事態。

 誰もが尊厳な音楽が鳴り止むと共に、イナバが襲われるとは予想できなかった。

 ポカンと周りの者たちが口を開く中。


「早く! 早く助けて下さい!」


 一人懸命に、その腕から抗うイナバがいた。

 伸ばされた巨椀は依然として鎖に巻かれ、イナバを掴もうと伸ばされているけど。


「ひいいい!!」


 イナバがいつの間にか持つ鎖。

 それによって抗うことに成功していた。

 まるで手綱で操るかのように。

 暴れ腕を律しようとするが。

 その賢明さについて行けるものがいない。何せ“冗談で言ったこと”が本当におきているのだから。

 ともあれ、流石に事態の異常さを危惧したのか冒険者が動いた。


「……取りあえず、あの腕を切り落とすか?」

「……そうだな。それが一番手っ取り早い」


 事態を見かねた冒険者はその巨椀を切り落とすことにした。

 今も状況を掴めずにいるけど。


「結構太いぞ?」

「二、三撃で切り落とす算段だ!」


 斧を担いで飛び掛かる冒険者。

 その腕の太さは正しく大樹に例えられるほど。

 加えて根を張る樹木の如き血管、筋肉は只の人たちでは永劫切り裂けないものだと断言できる。

 だがしかし。


「〈パワースラッシュ〉!」


 冒険者の彼は闘気を乗せた斬撃……スキルによってその巨椀を断つ“道理”を得ていた。

 大上段から飛び斬る。

 一番力の入る大ぶりな一撃は岩を砕くほどの剛撃と呼べた。

 ……この場合の“道理”とは彼ら冒険者たちが持っている“常識”に当てはめた場合の道理だ。

 つまるところ。

 イナバたちのような者たちの“道理”とは、かなり異なる。

 故に。


「! 馬鹿な!」


 上段からの一撃は傷つけることすら叶わず。

 結果的にその斧が粉々に砕ける結果を残した。

 異常の事態に冒険者の男は苦い表情だ。


「た、助けてーーーー!」


 イナバの叫びが木霊する。

 事態の好転に何ら影響を与えていないことを叫ぶ。

 苦い顔の男はそのまま下がり。


「俺がやる。まったく、こんなもの魔法で一発だろう」


 杖を持つ冒険者が躍り出る。

 彼らの常識では。

 物理的に強いものは魔法的な攻撃が通りやすい。

 両立する硬さは存在しないと言うものだ。

 だから、物理が効かなかったら魔法に頼ると言う論理。

 “正しくもある”選択肢だと言えよう。

 しかし。


「! 次は少し強い魔法でやる……」


 炎の球……〈ファイヤーボール〉が意味をなさない。

 属性的な問題も考慮して違う魔法使いが氷柱を放つけど。


「ぞ、属性的な弱点がない?!」

「そんなバカな! あれはただの――」


 ただの……何だ?

 巨椀?

 竜の腕?

 だとしたら、そうであったのなら。

 彼らの剛撃、魔法で傷つかない“道理”はない。


「おいおい……これって……」

「……馬鹿なことを言うなよ。物語じゃないんだ。まして伝記にあった竜の存在なんて――」


 そう、断言したかった。

 望んだ。

 だけど、彩る魔法の攻撃が。

 重なる剣戟が巨椀の存在を明確に提示、現実であると告げる。

 いつの間にか見守っていた全ての冒険者が参加して。


「くそが! あり得ないだろう!」

「〈ポイントアロー〉! ちっ! 矢が尽きた! 持ってきてくれ!」


 事態が大きく。

 不安へと傾いていた。

 今も懸命に抗うイナバは、まだ巨椀から抗えていた。

 だけど。


「無理です! 無理です! 無理ですーーー!」


 いつまで持つのか。

 しびれを切らし始めていた。

 ズルズルとイナバの持つ鎖が緩み。

 黒の空間が広がって。


「狂い兎ぃーーーー!」

「ディアブロさん?!」





イナバとベガの技は凝ってしまいます……。

モチーフとなる像がある以上、かなり設定を詰め込んでいます。

ちなみにですが、ディアブロは響きがカッコいいのでこの名にしただけで。

元となった竜の名前はちゃんとあります。

……もし、モチーフとなった竜の名が思い浮かぶのでしたら私と同じくらい末期ですね……。

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