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彼の話し Ⅵ

次で最後かな。

更新は明日? 

にする予定です。

すいません。マーリンが”ベガちゃん”と呼んでいたので”その子”に変えました。

誠に申し訳ありません。

 第三者の登場によって俺は視線を寝間着の少女に移すことに成った。

 俺たちを見下ろす屋根の上、白い肌に紫と黒が混ざった長い髪。

 最も、特徴的と言えるのはその瞳の下にある濃い隈と青い黒い瞳だ。


「ふぁ~、邪魔だったかな?」

「いやいや、遅すぎるくらいじゃよ」

「それはゴメン~。とは言え寝坊はどうしようもない物なんだよ~」


 ゆったりとした口調で気の抜ける声が簡単にコイツの仲間だと伝えた。

 二対一……、姿からしてこの寝間着娘は……魔術師か?

 静かに俺は今近くにいるコイツを盾にして――。


「おっと~、その子を盾にしようたってそうはいかないよ~。ボクの方もそう言うのは“用意”しているんだ~」


 目を擦りながらアイツは指を鳴らした。

 まるで余興を楽しむかのように現れたのは俺が最も見知った者たちで、共に生きてきた者たちだった。

 つまり。


「お前!!」

「やっぱり知り合い~? 残念なことに~、この子たちを監禁していた主犯格には逃げられたけど~。この子たちは無事に連れ出すことが出来た~」


 ヒラリヒラリと手を振る寝間着女の傍らに子供たちが並ぶ。

 何かの魔術にかかっているのか意識がハッキリとしているようには見えなかった。

 術にかかっていることは確認済みで、なおかつ俺が今どうにかできる状態でないことも分かった。

 ……。

 とにかく俺もコイツと同じく人質を取っているんだ。

 こいつらの関係がまだ把握しきれてはいないけど、この躊躇と人質を見せてきた時点では。


「お前こそ、勝手に動くなよ……」

「へぇ~、それは脅し? それにしても……眠いねぇ~」

「っ! 仲間がどうなってもいいのかよ……!」

「……性分でね~。例え親しい者が刃に掛けられていようとも。例え猛毒で体が蝕まれようとも――この眠気は覚めない」


 欠伸を噛み殺しながら見つめてきた瞳は。

 ゾワリと。

 得体の知れない恐怖を俺に覚えさせた。

 それは人ではない何かに思えたからだ。


「く! 人質を……一人ずつ開放しろ!」

「ふあう~、うん。分かった」

「かかか、我もそれで構わん。今は身動きを取るつもりがない」


 パチンと鳴らす。

 ……よく見ればこの女も人外の雰囲気を持っている。

 何がとは言えない。

 それは俺の直観がそう判断しただけでそれ以上に理由は無い。

 油断をしてはならない。メルと子供たちを守るために今は慎重にしなければ。


「一人ずつ開放するね~」


 そう言って寝間着女は子供たちに泡で包み込んだ。

 人一人を丸ごと包むそれは俺も見たことがない……。いや、魔術に関する知識がないだけで一般的なのかもしれないけど。


「幻想的じゃろう? 魔法とはそう……実用的であり美しくなくてはならぬ」

「……」

「かかか、我も具体的なことは分からぬが〈マーリン〉はそう思っておる」


 子どもを浮かし、一人ずつ地上へ下ろす。

 俺の後ろ……戦闘に巻き込まれない位置で子供たちは解放されていって。

 最後の一人……!


「あ~、手が滑った~」


 運んでいる途中泡が弾け、妹が空に放り出されることになった!

 あの高さから落ちたのなら助からない……!

 だけど――今の体ならばギリギリ間に合う!


「うおおお!」


 獣のような足に力を込める。

 “コイツ”を自由にさせるが今は妹の命が優先!

 一瞬、一瞬を駆け。

 頭から落ちる妹を――!


 ズザザアアアアア!


 砂煙を上げ、一直線に向かった俺は腕に確かな重さがあることを確認して。

 一息ついた。

 何とか……何とか間に合った。

 だが。


「かかか、人を救うことに一切の躊躇もなし。加えてメルを守るため、その身に魔を宿すことも、いとわないとなると……」

「ふぁ~、信頼はできますね~。ですが“不用意な情報”は伝えるべきではない」

「そうじゃな。我は“保険”であるが故、伝えるべきではない。それに」


 小道具で遊ぶ少女と〈マーリン〉と呼ばれた存在は屋根の上で可笑しく笑う。

 なぜあんなところ“アイツ”がいるのか知らないがここは一旦構える。

 ……。

 戦闘継続はアイツらの出方次第。

 今も意識を乗っ取ろうと飢えは襲うけど。


「そのような瞳で睨まれては……。かかか、今さら仲直りとはゆけぬじゃろうて」

「あ~、眠い。遊びすぎだよ~。すれ違いを直すには時が必要だからね~。という訳で――今は引いてよいかな~」

「そうじゃな。今が引き時かのぅ」


 うわずった眠い声と上品にお道化る声。

 霧が現れ彼女たちの輪郭を薄くする。包み込むその霧は何処かに繋がっていた。

 ……。

 できるならこの得体の知れない彼女たちを始末したい。

 だけど相手の力を知る由もない今は引くことが優先だ。それに子供たちを巻き込むわけにはいかない。


「……分かった。最後に一つ言っておく……お前の名前は覚えたぞ、〈マーリン〉」

「! へぇ~、最後に眠気を覚ますような一言を言うなんて~」

「済まぬな。我の名は少し有名であるが故、〈マーリン〉の名だけは伝えておいたぞ」


 クスクスと上品に笑うアイツと半睨みで答える〈マーリン〉。

 ため息が俺の耳にも確かに聞こえた。

 そして。


「名乗りは騎士の作法に合わせてやりたいところだけど~、ふぁ~。ボクは見ての通り魔術師。〈円卓の魔術師 マーリン〉と言うことだけで終わらせてもらうよ」

「色を付けて欲しいのぅ。もう少し語ったらどうじゃ?」

「お色気は〈ジャンヌ〉の仕事~。最も彼女は色に出ず……な態度を取るけどね~」


 からりとした会話は仲間が暗にもう一人いると伝えていた。

 油断なく俺は辺りを見る。


「というわけでさようならじゃ」

「またね~」


 警戒している俺を後にパチンと言う音と欠伸一つを残してアイツラは居なくなった。

 霧はそのまま彼女たちといなくなって静寂が訪れる。

 ……。

 ……。

 ふぅ。

 一息ついて魔剣を鞘に納めてから――。


「う……ん……?」


 いしきが――あんてん?

 ちっちゃな……子たちが呼ぶ声もするけれど……。

 今はからだがうごかない。

 全てがおもくて瞼も――。



う~ん。

教国とリニエスタに文化的な差異が感じられない……。

独自の風習や伝説などは確かに存在するのですが。

ジーン君の視点ではそれが書けない。

一人称は一人称の情報しか書けないのが辛いところですね。

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