彼の話し Ⅰ
一人称で書いてみました。
しばらくこの視点での話が続きます。
孤児として生を受け、裏街道で生きることを義務付けられた少年がこの街にもいた。
痩せた体躯で青の髪。
擦り切れた衣服と藁で作られたサンダルを履いた少年はひた走る。
今回は彼の視点で書かせてもらう。
「はぁはぁ!」
「おい待て! クソガキが!」
朝帰りの酔った男を標的にして、すれ違いざまに手を伸ばして盗む。
飲んだ後の財布の中は寂しい限りだが、俺たちが生き残るには――こう言う奴らから拝借するのが安全だ。
酔った足取りと、ごみの散らかった通りはそのまま俺の助けになり、すぐに男は諦めてくれた。
楽な仕事と見るべきか。
いや、俺たちみたいな浮浪児は人であると見なされていない。
捕まればどうなるかなど言う意味も無い。
そこに転がっている死体を見れば明らかだろう。そんな最後はごめんと財布の中を確認するが。
「ちっ!」
まあ、当然と言えば当然だ。
だから次は少し大きな獲物を狙う。
「♪~」
口笛が弾み、一人の男が表から裏道に入った。
細い道を通りしばらく尾行を続ける俺は獲物が誘導されているのを確認する。
「う~ん、今日の俺も決まっているねぇ~」
膨らんだ財布と緩んだ顔。
微かに香水の匂いが漂う。
裏通りに来る人間は主に三つの目的でここに来る。
一つ目は酒。
二つ目は賭博。
最後に女だ。
「♪~」
上機嫌な口笛と決めたつもりの髪型。
香水も付けて女の喜びそうな花を一輪持っていれば決まりだろう。
こいつが何処に向かって何をしようとしているか。
そして、こんな街で女に手を出せるほど金銭に余裕のある奴らとなると――。
「あ! 手前!!」
「!」
直ぐに気付かれた。
腰に差してある武器と鍛えられた肉体を見て、こいつは冒険者であると推測で来た。
リスクは高く、子供と鍛えた大人。
土地勘はこっちに分があってもうめられない差がある。
だから。
「っ! おい! どけ!」
「いけないな~。例え冒険者であっても俺のシマで悪さする奴は~」
「アシッドさん、こいつ来たばかりの新米じゃないですかい? ならここいらのルールを一度教えてやりませんと」
こういった腕の立つ連中とつるむ。
確かな大金は強者の存在と許しによって得られることを俺はこの街で知った。
シマと言うそれぞれの場所。
地域で俺たちの活動は制限され、住むことを許されている。
国が管理しているにも関わらず、ここは特定の人物が所有している場所であるのだ。
逃げ切った俺は少しの笑みを浮かべ追手が諦めたことを悟ったが。
「おい待てお前……」
「……何ですか? アシッドさん」
男を既に片付けたアシッドは俺の方を見る。
蹲り血を流すさっきの男は既に死んでいるのだろう
血の匂いが路地に広がった。
「……今月の集金が……まだなんだが?」
「っ!」
俺は咄嗟に金を隠した。
弱者が強者に搾取される世界で、俺たちが生き残るためにはこうやって強者の駒になりながら強者の目を欺くことだ。
事実こうやって安全と利益を生み出しているのだが――。
「おいおい、誰がお前たちの安全を守っているんだ? 分け前は十と一で決まっているだろう?」
「で、ですがアシッドさん。俺たち子どもは――」
ぐは!
言葉が詰まり、体が浮いたことを理解する。
首にかかる力は強まり嗚咽が響く。
ああ、そうだった。俺がアシッドから金をちょろまかしたことなど一度も成功していなかった。
だが。
「い、妹の体調が――「知らねえよ」」
そして返されるいつもの言葉と目。
虫を見るように道具のように俺を見るこいつは何の感情も映していなかった。
使えなかった道具を捨てるように首を絞める力が強くなった。
「知らねぇな。お前らがどうなろうが……。どうせ替えが効くんだよ。お前らがどうなろうと俺たちの関するところじゃねぇ」
「ぐ! がは!」
「おめえは俺の何だ? いつも訪ねていることなんだが……。お前たち孤児は俺たちの何なんだ?」
持ち上げる片手に対して全力の抵抗を示すが意味がない。
体躯もそうだが、地力が違う。
締め上げる腕と同じように絞り出した。
いつものように壊れた声で。
「ど、道具! 消耗品です!」
「おお、そうだよ。お前たちは道具で消耗品だ。死んでも替えが効く存在。そうと分かったんなら、早く金を出せ。後死んだ妹は犬のエサにしろ」
無機質につづられる言葉は俺の心を壊していく。
明日には。
明後日にはと。
幾度となく願った普通の生活はこうして奴らの日常に食いつぶされていった。
例え妹が翌朝冷たくなっていたとしても俺は……俺たちはこの悪夢から抜け出せない。
死んだ方がましと死を選ぶ奴もいるが俺は、まだ守らないといけない者がいた。
奴らと同じアジトで供に生活する血の繋がっていない兄弟たち。
人質兼奴隷の弟と妹は俺に少ない料理と笑顔を分けてくれる。
かびたパンと臭い肉の入った汁が、俺たちの夕飯だった。
俺たちに朝と言う概念は無い。
たたき起こされ直ぐに仕事へと移るからだ。
例えそれが深夜の時間であったとしても区別はない。
酒を入れる相手や暴力を振るわれるおもちゃ。残念なことにここでは物としての仕事が沢山有るからだ。
外に出たとき、すれ違うように鏡を見た。
青あざと目の下のクマはいつもの傷。
腹部にある鈍痛は……ああ、昨日生意気だと言われて蹴られたものか。
固まった鼻血と切れた唇は哀れさを誘うには十分な化粧だ。
いつも通り。
この惨めたらしくてボサボサとした少年はいつも通りの物なのだ。
他の誰でもない。物である俺なんだ。
だから……。
「ぐ……えぐ」
泣いているのは物だ。
俺じゃあない。物が泣くことなど許されない。
だけどこの温かい涙が、伝わる心の苦しさが物であることを全力で否定していた。
妹が死んだときも、未だ流れる温かい幸せな記憶も全て全て――忘れたかった。
だからなのだろう。
普段俺が狙わないようにしていた獲物を狙ったのは。
う~ん。
孤児にしては知っている言葉に違和感があったり、哀れさを誘うには悲しみが足りないような気がします。
筆者の癖も抜けてないですし、かなり微妙な出来ですがご了承を。




