幕に潜む者たち
かなり短いです。
明後日には投稿します。
黒の円卓と青い炎が灯る周辺の壁掛け松明。
ジメジメとした空気が地下……もしくは洞窟の最深であると告げる。
扉に待機している布を被った大男は死刑執行人のように大斧を装備して頑強に……強固に会議の場を守る。
首輪の跡と幾多の傷が彼の……大男の身分を示した。
そして。
顔を照らせない松明は腕にある赤い竜のマークと服装のみを映す。
その中一人、腕に入れ墨を入れていない者がおり聞き覚えのある声だった。
「いち、にぃ、さん? あはは、一人足りないようだけど?」
「すまないわねぇ。もう一人は忙しいのよ~」
「ふん! 一人いなくても問題無かろう!」
「ですな~、“憎悪に満ちて”だけが出席していないですね~」
入れ墨のある者以下三名。
娼婦のような声音が一人おり。
美声であることに変わりないが怪しさのつまる悪意に満ちた声と細腕を持つ者と。
武闘家。
武術を嗜む野太くて大きな声と腕の持ち主と。
金銀光る指輪。
もう一人の男と違い彼に力強さは無く、ただその強欲にまみれたかのような下卑た声と肉の付いた腕があった。
そしてもう一人の声は〈天使の血〉……ブラディと呼ばれる者の声で。
「あはは、まあ欠席者がいるけど……契約したことは確かだし――約束通り“業魔の灰”と“聖人の血”を渡そうか」
「うむ……これがあの病の元か……」
「綺麗な色ねぇ。本当に血で作られているのかしらぁ」
肉の付いた腕が小鬢をとり。
細い女性の腕は“聖人の血”と呼ばれる薬を取った。
しばらくそれらを眺める二人にかわり。
「それでだ! 俺たちはあんたの言う通りにすればいいんだな!」
「はぁ……もっと音量を下げてくれよ。ボクは静かなのが好きなんだ……」
「誘拐する者は一人で後の子たちは!」
「……はぁ。好きにしていいよ……」
耳を塞ぐ〈天使の血〉と相も変わらず音量を下げない筋肉男。
嗜虐的な笑みを浮かべる筋肉男に蠱惑的な笑みを浮かべる娼婦、欲に溺れ下卑た笑みを浮かべるのは司祭服に身を包んだ聖職者。
取りあえずこれで〈天使を喰らった者たち〉と〈ニーズヘッグ〉取引は成立したのである。
リニエスタ王国の草原、星明りが東から昇り始めた時間。
「戦の準備は順調かな? リングウッド」
「ああ、シフォン。民は国の半分、山脈を挟んだ王都側に避難させている最中さ。三方向から攻められる北の防衛よりも山脈の入り口と大森林を戦場に絞るのは当然だろう」
「勝つための戦では無いからねぇ。時間稼ぎについては?」
「勝手に連中が争ってくれるさ。竜の鱗は殺してから数えろって格言があるんだがな……」
びゅうびゅうと吹く風は少し強い。
シフォンの緑の髪が揺れて、リングウッドの茶の混ざった短髪も揺れる。
戦を望む凶悪な笑みを浮かべるリングウッドと違いシフォンは知を彩る緑の瞳。
「メル様は元気かなぁ~」
「元気だろう。嬢ちゃんの近くにはあいつがいるんだからな」
「そうだね~。でも」
「?」
不安が無いと言えばうそになる。
何せ。
「グラム教国には五人のエインヘリヤルがいる」
「敵対することなんてないと思うが……神の武器を持つ者たち……その戦闘能力は単独で都市戦略が出来るほど」
冷たく沈んだ風が死体の冷たさを伝える。
不運をはらむそれに目を細めるシフォンは遠い異国を見つめた。
「頼んだよメルちゃん、ベガちゃん」
カツンと杖が鳴り、シフォンは踵を返して闇へと溶けた。
平原の夜風が草と爽やかな星の光を運び、一人の……少女の……クリコの軍服をバタバタと鳴らす。
「重畳、重畳。戦は始まり軍靴は鳴る。いつの時代も争いを求めるのが人の業。何せ『……人は学ばない……ですよね?』」
耳に掛けてあるイヤホンからクランクの声が響いた。
舐めている飴をしゃぶり、ニヤニヤと笑うクリコは平原の奥。
明かりを持って進む人の行列に目を向ける。
「人の愚かさは今なお止まらず、さりとて愚かでなければ蛮行は行えない」
クルクルと踊るようにクリコはしゃべり酔う。
自らが立つ時が待ち遠しく、かつ。
彼女はその蛮行を心待ちにしていた。
それはまるで子供が無邪気に暴力を振るが如く無垢で残酷な物。
「“神の不在を証明”しよう。人の未来に……可能性に限りなど無いのだから! 未来を邪魔する者がいれば蹴散らすまで……。理に縛られた未来はクリコの“ズル”で壊すまで」
何せ彼女も学ばない。
それは正しく、神に逆らう魔王の如く。
何処までも我が儘で“ズル”さを秘めた者であった。
私のお父さんは最凶で。
と言う作品がお勧めです。
かなり物語を読まなければ面白さは伝わらないと思いますが……。
暇でありましたらぜひ読んでください。




