閑話 走れメーテルⅣ
明日も投稿します。
川を渡り、彼らはもう一つの試練である渓谷へと足を進めていた。
死角となる場所が多く、盗賊に襲撃される恐れが最も高いその場所は。
「盗賊? 残念ですが、彼らはここにいません」
「? どういうことですか? オリエスタ殿」
「ここは翼竜の住処と呼ばれる場所で、盗賊と言った弱き者がここに住めないからです」
「ああ、なるほど」
馬を進めた三人はクゼンの納得する声で上空を見つめた。
岩に囲まれた狭き場所。
上空をハービーやワイバーンといった存在が旋回している。
確かに強力な魔物が多くいるその場所だが。
「竜などは図体が大きく、この渓谷に入ることがありません。ただ、それらから逃げる魔物が巣を作り繁殖しています」
「ハービーやジャイアントバット……彼らがその類ですね」
「しかし問題なのはその数です……一体どうすればよいのでしょうか?」
フランシスの疑問に彼らは頭を悩ます。
数の多さは確かに問題で、馬が襲撃されるのは目に見えていた。
悩む三人はしばらく時間を浪費して――。
爆撃を受けることになる。
臭くて、白いそれを。
「「「……」」」
男たちは浴びてしまった。
何たる不運と誰もが叫びたくなるが。
「いやまて……これは逆に幸運かもしれない」
「竜の糞にやられたか、クゼン」
「酷い匂いだ……幾つもの魔物を合わせ、発酵させた匂い。加えて少しのべたつきがあるのが」
「いや、これで良いのだ」
即ちワイバーンの糞や小水はワイバーンの匂いがすると言うことなのだ。
ワイバーンに捕食されるハービーやジャイアントバットなどは確実に。
「この匂いを警戒するだろう。ただ問題なのは」
クゼンが後ろを振り向き、森の奥に見えた茶色いスライムを指さす。
つられる形でフランシスとオリエスタも口にする。
「“アイツ”か……。森の掃除屋と呼ばれるマッドスライム」
「魔物の糞尿を食料とするアイツから逃げないとな」
普段は無害な存在なのだが、今は非常に不味い状態であった。
馬を走らせ、彼らは渓谷を抜けるよう最短距離を走った。
さて、最後の難関と言うのは国王リニエスタを最も苦しめたとされている砂漠地帯。
照り付ける太陽が、砂漠に住まう魔物が彼らの行く手を邪魔するのだが。
「水は魔法でどうにかなる」
「魔物についても、ワイバーンの糞のおかげで襲ってくるものなどいない」
悲しいかな。
そこまで試練と呼べる場所では無かった。
バフで〈遮光の帳〉を付ければ暑さ対策は万全である。
脅威はない。
後はお互い、どちらが早くゴールするのかという勝負になるわけだが。
「先を急がせてもらう」
「どうしたんだ? そんなに慌てて……」
「先頭は多分、私たちですよ? そんなに焦る理由が――」
「あの方々がこのまま、黙っているわけがない」
「「……」」
オリエスタは遥か後方に目を細める。
渓谷から大分離れたそこから確認はできないが、彼らは迫ってきているのだろう。
それは正しく、大会で最も“ズル”いあの二人のことだ。
川を渡る方法が思いつかず、項垂れている集団がいた。
強大な魔法を使って渡ることもできれば、誰かと協力して渡ること出来るはずのそこで、彼らが未だに先に進めていないのはただ単に勇気と実力がなかったから。
「ああ……良し。行くしかないか!」
誰かが決意してこの川を渡ろうと足を踏み出した。
魔法を使ってとなると川を凍らせる方法や橋を作る方法など、手段はあることにはあるが、並の人間ではマネできなのも理解できる。
しかし、かすかに見える。
先人たちの足場を見れば、渡れないことも無いのだ。
技術は必要であるし、渡るだけの冷静な精神も必要だが。
バサリ。
「?」
男は何かが羽ばたく音が聞こえた。
巨大な鳥が羽ばたくようなとても大きな音が――。
「クスリ、お先に失礼しますね」
美女が白馬の幻獣に乗っていた。
一瞬目をこする彼の後ろから。
更なるスピードで川を――水上走行する者がいた。
ゴオオオと何かが猛烈な勢いで走る音が――。
「さてさて、どこまで巻き返せるかな?」
エルフの魔術師が――この国最高の魔術師がゴーレムの馬に乗って走り去った。
残った者たちは常々、いや。
口々に呟いた。
「「「あれ、反則じゃね?」」」
爆走する二人を追い越せるものなど存在しなかった。
さらっと流しました。
次で決着です。




