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少女への期待

ストックが無いのでしばらく投稿は無しになります。


 それは初めての試みと言ってもよかった。

 地竜やワイバーンが“兵器”として運用されたのはここ最近の出来事だ。

 それ以前は武器や防具の材料としての需要しか無く、“聖術で癒す”といった試みは無かった。


「せ、聖術で癒せるんですか?!」

「原理的に不可能ではないはずじゃが? 聖術とは所謂、生命力の回復じゃからのぅ」


 驚くメルに説明するベガは地竜を見つめた。

 それでもそれは、はじめての試み。

 緊張するメルはゴクリと唾呑む。

 しかし。


「大丈夫じゃ、メルなら出来る。我の言葉をメルは信じぬのか?」


 うっ動揺するメルはゆっくりと首を横に振った。

 その答えに笑うベガはメルの頭を撫でた。

 聖術は通常、ロッドと呼ばれるものを装備して癒す。それはメルの半分ほどの長さで、先端部分に丸い宝珠が飾ってある。


 私の力がシュワルツさんたちを救う唯一の力だ。皆の期待を背負っているし、失敗するわけにはいかない!

 でも――。


 そう硬く決意すればするほど、失敗した時のリスクを考えてしまう。

 メルは生まれてこの方、頼られると言うことは無かった。それはメルがお嬢様であり、頼るほどの力もないからだ。

 頼ることが合っても頼られることが無い、初めての経験であるそれは肩に余計な力が加わる。


「か、かの者を癒す聖なる光よ。その命を照らしたまえ〈セイクリッドヒール〉!」


 空から落ちる黄色い光が地竜を照らす。

 地竜を包み込むように温かい光は確かに地竜を照らし――。


「っ!〈セイクリッドヒール〉!」


 治すことはできなかった。

 再びコダマするのはメルの聖術。

 何回も何回も、その光は照らす。


 最初の内はハーフエルフたちも治るのではないかという期待があった。

 けれどもメルの聖術が地竜を照らすたびに、その希望は暗く影を落としていった。


「はあ、はあ、せ〈セイクリッd〉「もう……十分だ」……」


 メルの肩を掴み、止めるのはシュタイヤ。

 手に持つロッドは震え、肩で息をするメルは諦めてはいなかった。


「まだ、まだ……です」


 意識が朦朧とするメルは歯を食いしばりながら無茶を通そうとする。

 薄れゆく意識に待ったをかけ。

 朧に立つ足が着かれを見せるも。


 せ、成功させないと……。そうしないとハーフエルフの皆さんが……


 聖術は精神的な疲労があるのは勿論、“限界”もある。

 それでもメルは唱えようとしているのはこれが里にとっての死活問題であり、ベガに――


 ――期待されているからだ。


「メル、こっちを向くのじゃ」


 声をかけるのはベガ。

 けれども懸命にまたも聖術を使うメルは反応が鈍く、息も絶え絶えであった。


「ごめん……ベガちゃん。後に――「ちゅっ」!」


 視線だけをベガに向けようとした刹那、ベガの手がメルの肩に乗る。

 身長が若干低いベガは背伸びをするようにメルの身長に合わせる。


 柔らかい感触が、ベガと同じ場所が、くっつき接吻の形になる。


「ん!」


 メルは驚くと同時に口の中に甘美なものが流れ込む。

 口をこじ開けるのはベガの舌だ。

 飲まされた液体が甘いのかベガの唇が甘いのか分からないが、それでもそれは味わったことのない甘さだ。


 ……。


 ファーストキスを奪われたメル。

 驚きよりもキスの味を堪能するのはそれが予想よりもはるかに甘かった証だろう。

 小説や物語では甘いと書かれることが多いそれは、実際に置いて甘いと言う味はしない。

 けれどもそう表現されるのはやはり、気持ちがそうさせるのだと思う。

 事実、メルはベガのことを嫌いではなかった。


 流し込まれる液体は甘さと同時に眠気を誘う。

 披露していた体は徐々に微睡んでいく。

 ポーションと睡眠薬を混ぜたそれは確かに効果を発揮しメルを心地よい眠りへと誘った。




「よく頑張ったぞ。メル」


 そう小さく呟いたベガはもたれ掛かるメルを支える。


「ペガシウス」


 何処からともなく現れたペガシウスにベガはメルをあずけた。

 臨んだ結果にならないことは誰が見ても分かる話。

 呆然とするハーフエルフたちを置いて、ベガは頭を下げる。


「すまん……。少し我も休ませてくれ、……それと望みはある。少しの間でよいからもう少し、信じてはくれぬか?」


 力なく笑うベガ。

 さりとて、責める者は誰もいない。少女に勝手に期待し託したのだから。

 しばしの沈黙が痛くこだまし、シュタイヤは頷く。


 ハーフエルフたちがメルやベガに失望はしたものの騎士団の解放は叶えることにした。


「わかった。こちらも騎士団の解放をする。こちらこそ、大人げなかった」


 一人の少女に里の問題を解決させようとしていたのだ。

 文句があると言う者もいるが、それでもその真摯な姿勢は彼らを信じるに至る根拠になった。


いつ再開するかはまだ決めておりません。

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