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建国記念日の宣言

すいません。

流れが拙いです。

次の更新は明後日にします。

 三すくみの関係はしばしの膠着と思考によって止まっていた。

 三者が三者、相手の様子を見て伺い。

 ベールによってその瞳を隠す女性、神父服を悠々と着こなす少年、それから扇子で口を隠す少女と。

 見ざる――着飾る――言わざるを体現した。

 機を伺い、相手の綻びを探す。

 様子見と同時に相手を見定める距離の取り合いは。

 意外にも彼女によって破られる。


「自己紹介が……まだであったの。我の名はベガ、この国では“犯罪者”の肩書を持つものよ」

「うふふ、私はダスク・カマエル・スカーレット。一応〈審問官〉の役に付く者です」

「う~ん。この流れだとボクも自己紹介をする必要があるのかな? 名前はブラディ。見ての通り神父――ではないけど、まあこの場で言うなら“泥棒”と言った方が適切かな? それよりも」


 一通りの紹介が終わり、また更に奇妙な状態になる。

 勿論彼らが全てを語らず表立ったことだけを告げたに過ぎない状態なのが原因なのだが。


「はは、やっぱり君はアイネが言っていた“あの少女”だね?」

「“あの”と言うのが分からんが、それでもお主らのせいで我は“犯罪者”に成ったのは事実よ。同じ犯罪者同士、仲良くは成れぬが……まあ、ゆるりとしよう」

「うふふ、貴方も彼と同じく浅からぬ“因縁”があるようですね。私も彼に大事なものを奪われたので」


 クスクスと笑うダスクは未だにベールで素顔を隠したまま、されどその奥にある瞳は憤怒と強い正義感に彩られていた。

 先ほど言った“因縁”と“泥棒”と言う言葉から想像できた。


「どうです? 同じ被害者として手を組みませんか?」

「確かに同じ被害者として手を組む理由はあるのじゃろう。しかし、お主の言を考えるに〈審問官〉と言う言葉が気になる」

「“神器”回収、警備が彼女の目的……〈審問官〉の仕事だからね。教国の〈エインへリアル〉さんは暇な人が多いんだよ」

「うふふ、そうですね。そういう貴方も帝国の悪だくみに忙しいですからね」


 つまるところ、彼らとの関係次第では帝国を相手にするのか。

 教国を敵に回すのかが変わってくるのだ。

 面倒なことになったベガは取りあえず。


「これは何じゃ?」

「「……」」


 是とは即ち、チートを生み出した〈死王の宝珠〉。

 是とはつまり、彼女たちに何処まで知っているかと言うこと。

 ベガとダスク、ブラディの間には明確に価値観の違いと言うものが存在していた。

 ただのゲームに登場した武器、あるいは神が授けた“神器”と。

 この質問に対して理解した各々は。


「何って決まっていますわ。これは“神器”と呼ばれる物で“神に選ばれた者”以外振るうことを認めない神聖なものです」

「なるほど、やはり齟齬があるか……」

「……ハハ」


 クスリと笑いブラディは嘲る。

 彼らの言葉は確かに正しいのだが、どれも的を射たものではなかった。

 結局のところベガもダスクも“本当の意味”を分かっていなかったのだ。


「ハハ、やっぱりそうか。君も君たちも“この世界が何か”分かっていなんだね?」

「もったい付けるのぅ。まるで全てを知っているかのように振る舞うのは傲慢じゃぞ」

「以下に全てを知っていようと、貴方がやったことは許されないことです。――さっさと屍になって正義を築かせて下さい」

「焦るねぇ。早まるねぇ。だけど……嗚呼、実験と検証が主な目的だから。それはあげるよ」

「「……」」


 ベガとダスクは同じようにブラディを睨んだ。

 意味が分からなかったこともあるが、全ては彼が諦めと憐れみをこちらに向けたからに他ならない。


「沈黙には血が必要だ。“神の箱庭”を壊すのがボクたちの目的さ」

「「……」」

「君を手に入れるのが手っ取り早いのだけど……。運も悪く今は敵対する身だね」

 

 そう言ってブラディは一個のクリスタルを砕く。

 ガラスのようにもろく砕けたそれは〈転移〉の魔法が込められており。

 徐々に体が透け始める。


「早く体が“適応”することを祈っているよ」

「貴様……」


 ケラケラと笑いながら少年は消える。

 残った二人は沈黙を携えて、黙ったまま動かなかった。

 曇りの空が雨に匂いを運ぶ。




 バキっと杖が折れる音はバッカスの耳にもシフォンの耳にも届いた。

 魔杖が壊れ、光が爆発する。


「うわ!!」


 投げ捨てたメルはその光に驚き顔を下げ、思わず慌てる。

 未だに杖の力で生えたその蔓はメルを絞めたままだったが。


「?」


 光を浴びた瞬間。

 それらは弱弱しく枯れ始める。

 魔法が解けたかのように、無理に生まれたそれら全ての植物は枯れてゆき遂には。


「ウゴオオオオ!!」


 レオジーナとスレインが対していた巨人の顔が悲鳴を上げて。


「か……ヒッ……!」

「バッカス……」


 人外と化したバッカスの体は徐々に……いや、確実に朽ちていった。

 先ほどまで動いていたのが嘘であったかのようにその生き物――植物たちは茶色く枯れていく。

 壁に這っていたその蔓も。

 兵士たちに襲い掛かっていたその蔦も。

 全ての緑が濁っていく。

 脅威が去り、最後にメルは彼の元へと向かった。


「栄枯盛衰は必衰の理です。それでも流石は魔杖……。貴方の魔力が尽きなかったのはこれのお陰だったんですね」

「は……はぁ……。寄る年には……勝てぬか……。ゴホゴホ、それでも……メル様、一つ尋ねたい……ゴホ」

「何でしょうか」

「この世界に……悪意があるのは……事実じゃよ。貴方は……貴方様はこの先……世界を敵に回す覚悟があるのか?」

「……」


 杖の支えもないバッカスは膝を屈してメルに尋ねる。

 その姿は死を待つ老人その者で天の迎えを待つものでもあった。

 ただ、弱り切ったその体とは別に彼の瞳は――奥底にある眼光には陰りなどなかった。


「私は世界を敵に回すつもりなどありません。ただ、変えたいだけです」

「……ほう」

「王や貴族の存在が全て悪いとは言いません。ですが、民を思わないことは間違いです」


メルはバッカスに宣言するように、建国記念日に誓うであろう言葉を紡ぐ。


 この世界では“自分が変われば世界が変わる”と言う言葉が有る。

 だけどそれは“世界に従順する”と言う意味では無いのだろうか。

 諦め、諦観の意味を持つその言葉はメルにとって相応しくなかった。

 いや、メルは変われなかった。“英雄が英雄たり得る”我が儘が邪魔をするから。


「私は変わりません。この世界が変わるまでは。それが私の目指す英雄譚ですから」

「……」


 この革命宣言は所詮、バッカスや警羅団の人間にしか聞こえていないもの。

 だが、それでもメルは高らかに微笑みを返していったのだった。

 天使の像が静かにメルを見守った。

 朽ち果てるバッカスとその下に咲いていた花はゆっくりと優しさに包まれた。


久しぶりにメルに救われました。

やっぱりメルは強いですね。

芯の強さに関しては作中一だと思います。

まあ、だからこそ彼女は英雄に成り英雄たり得たのですがね。

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