決着の時
流石メルです。
明日も続けて投降します。
蔦の緑は城を森へと変えた。
壁面は飾ってある絵を押しのけて蔓が伸びる。
咲き乱れる花は白く、太陽の届かない式場で元気に咲いた。
「〈烈火の嘲笑〉!」
「〈凍死の哀叫〉」
うねる蔦をレオジーナは女性の形をした炎が燃やし、スレインは女を象った冷気が凍らせる。
叫び哂う魔剣にバッカスは確かにダメージを与えるが。
「ほほほ、そう言えばこの体には痛みが無かったのぅ」
「異形な……魔に落ちてまで地位や財を望むのか?」
「ほほほ、考えれば分かる事よ。人を求めたところで何が変わる? 国を救ったことで何が変わる? この世界はお主らが思っているよりも残酷でどうしようもない物じゃぞ」
コツンとバッカスの杖が鳴り響く。
「人の権利は未だ軽く、捨てられる命に価値は無く。故に望むは価値のある地位と財(現実)じゃよ」
苛烈にバッカスは体の一部となった緑を振り回す。
それと同時に魔法を詠唱して地面から棘を出す。
メルたち、各々回避行動をとり距離を開ける。
「……確かにこの世界は未だに戦争もあれば貴族たちが定めた歪んだ法律があります。ですが」
叫ぼうとしていたメルをシフォンは手で押さえる。
白熱するメルを押さえるためと。
「君には分からないよ。所詮は英雄に成り損ねた者なのだから」
「囀るのぅ。シフォン・グランハード」
「現実しか見ないものに英雄譚は語れない。夢を謳えないものが夢を描くなんて滑稽だよ」
「……」
端的にそう切って捨てたシフォンは杖をバッカスに向ける。
それと同時にバッカスもまた杖を向けていた。
「〈ギガースの礫〉」
「〈水心抗うが如し〉」
巨大な岩がバッカスの背後で持ち上がり、投擲される。
対してシフォンの魔法は……地割れから水で触手を象りそれらを打ち落とす。
手数はほぼ同じ、なれど。
魔力量の違いはある。
魔法が尽きるのはどちらが先かなど聞くまでもないこと。
だけど、その隙にスレイン、レオジーナが動く。
しかし。
「相手をしてやれ。〈ヨトゥンのドルイド〉」
「「!」」
杖を手放したバッカス。
杖が宙に浮かび緑を生やす。
バッカスの背後に回っていたスレイン、レオジーナの進行を邪魔した。
蔦が網目状に結ばれ、ゆく手を阻む。
まるで動物のようにうねるそれらは、結ばれ結合して遂には。
「オオオオオオ!!」
緑の巨人を生み出した。
顔面だけで彼女らの進行を塞ぎ、その髪の毛――丸太ほど太い蔦がしなる。
人外なそれは正しく“魔”そのものであった。
「面倒な!」
レオジーナとスレインは共に巨人と対した。
形勢は不利で、シフォンも今は手が離せない状況だ。
バッカスはいやらしく笑みを浮かべ風を巻き起こし、シフォンがそれを同じ魔法で打ち消す。
消耗戦を望むバッカスと徐々に魔力が削られていくシフォンは相反する表情で式場を彩る。
「〈エリアヒール〉、〈セイクリッドヒール〉!」
そんな彼らの中でメルが出来ることなど傷を癒す……それくらいしかなかった。
この戦場で最も最も冷静であったのは誰であろうか?
魔剣を振るうレオジーナとスレインか?
必死に魔法を唱えるシフォン、はたまた愉悦に浸るバッカスであろうか。
いや。
「……」
最も無力で最も戦うことを知らないメルである。
「どうしました? メル様」
スコットとその周りにいる兵士たちは現在城中に生えまわる蔓と戦っている。
蔓延るその魔の植物は正しく脅威であり、切ってもその傷を再生させる厄介な生き物であった。
メルを守るようにスコットとその周りの兵士が戦う。
「……スコット、やっぱりあの杖こそバッカス様の力の根源であり諸悪の根源……ですよね」
「ええ、そうですね。今は巨人の核としてその杖は戦っていますが……」
レオジーナとスレインは魔の杖と戦っている。
蔓や蔦を纏い戦うその魔杖は自我があるように振る舞い暴れる。
バッカスの使い魔であるそれは確かに戦力的にも強大だが。
「思いついてしまいました。閃いてしまいました。無茶は承知で頼みますけど……」
「ふふ、心得ておりますメル様。英雄を無視した罪、咎めてやりましょう」
未だにバッカスはメルを戦力として数えていなかった。
勿論、先の会話でヘイトを稼いだシフォンのお陰と言うのもあるが。
「支援は止まりますが……」
「道を作るのが私たちの役目です。だろう?」
スコットは目を配り隊員たちに合図を送った。
誰もがコクリと頷くと同時に笑う。
戦場は未だバッカスとその魔杖が支配する。だけど、だからこそ彼らは考えていなかった。
奇跡を起こせる存在がこの場にいることを。
「頼みました。そして――〈主剣の大天使〉!」
羽の大剣を持つシャーペなホルムの天使が現れる。
確かに強力な天使であるのだが、バッカスやシフォン。そんな者たちからしてもそれはただの人形であった。
ことごとく人形、されど人形。
使う人間次第でそれは如何様にも化ける。
「ではいきます」
トンと。
天使の背に乗り、メルは戦の中心へと向かった。
途中、蔓が生えメルを捕まえようと伸ばすが防ぐはメルの騎士たち。
主の邪魔は許さぬと彼らは懸命に戦う。
道中、バッカスの広範囲の魔法〈火山の巨椀〉が――炎の塊が空より降り注がれるが。
「〈水仙の池〉」
「む?」
「危ないなぁ」
炎の拳を受け止めるように水仙の池が生み出される。
花の形をした無数の水がそれらを気化。蒸発させて熱を奪う。
バッカスが疑問に思ったのは何故、そんな広範囲に術を発動させたのかと言うことだが。
「まさか……お主ら……」
「反撃開始だよ。悪いけど付き合ってもらうから」
気化した水が雲となり雷を宿した。
紫電を操るシフォンは続いての技、〈紫立ちたる雲の竜〉を唱える。
対してバッカスもその術と拮抗するように〈灰を纏う大嵐〉を繰り出した。
灰色の風と竜はぶつかり、轟音――竜の叫びと風の抗いを響かせた。
「わわ」
その衝撃波でメルは体制を崩し落下する。
土煙を上げて転がる様に衝撃を逃がしたメルはいつの間にか〈ヨトゥンのドルイド〉がこちらを向いていることに気付く。
人など簡単に喰ってしまうほどの大きな口がメルを襲おうとして。
「〈烈火の嘲笑〉!!」
「〈凍死の哀叫〉!」
炎の女性が爆発すると同時に冷気が巨人に襲い掛かる。
顔面の半分を失う巨人から魔杖が見えた。
「あれです!!」
メルは手を伸ばしその杖を握る。
抗う巨人であるが、冷気によりその傷の修復が遅い。
だがそれでも抗うように蔓を伸ばしメルに絡みつくが。
「〈主剣の大天使〉!」
空中に杖を放り投げたメルは命令する。
それに応えるように天使も剣に光を集める。
抗うのはその魔杖で怪しい光を放ち、蔓を伸ばす。
だが。
「〈白き閃撃〉!」
光を纏う閃撃がその蔓ごと魔杖を切り裂いた。
すいません。
主人公補正が結構入っています。




