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卑怯者の器

すいません。

一日遅れました。

次の投稿は4日後あたりになるかも。

 結界内の荒野に言葉が響く。


「うむ、三対一か?」

「万全を期すにはこれくらいの人数は必要だと思ってね」

「なるほどのぅ」


 結界術で作られたその戦場はドーム状に作られた見えない壁で構成されており、逃げ道は無い。術者を倒すか力で破るしか脱出の方法が無いと理解しているバッカスは。


「少し――遊ぶとするかのぅ」


 髭を触りながら唐突に地面から棘の岩を出す。

 射出されたそれは質量で相手を押しつぶすと同時にその体を貫く鋭利に尖った殺傷力を秘めており、ただの人間がそれを向けられたらどうなるか想像に難くないだろう。

 ただし、そこに“ただの”と言う形容詞が付くのであればの話しだ。


「〈一閃・線火〉」

「〈一閃・氷道〉」


 凍る刃と烈火の一閃がそれを打ち砕く。

 余裕を持って切り払った二人だが、この攻撃は所詮ジャブのようなもので本命のストレートは今しがた詠唱した〈迷宮の霧〉である。

 空気よりも重い霧は這うように広がりを見せる。

 しかし。


「〈嵐〉守りはボクが引き受けよう」

「了解しました。シフォン様」


 風の魔法で露散させられる。

 感謝の言葉を述べたスレインはそのままレオジーナと共にバッカスとの距離を詰めた。

 戦法としてはスレイン、レオジーナが距離を詰めて戦いそのバックアップをシフォンが担当すると言うものだった。

 バッカスは魔術師であり接近戦は得意でないのである。そうでなくても自分を巻き込まない為に魔法を制限するのはバッカスとしても嫌な手だ。

 とは言え。

 バッカスの強みはその多様な魔法と。


「〈巨人の息吹〉」

「っ!」


 息を吹き出し暴風がバッカスを中心に巻き起こる。

 距離を詰めていた二人はその風に耐えきれずシフォンのいるところまで吹き飛ばされた。

 パンパンと土を払い立ち上がるスレインと舌打ちを一つ入れるレオジーナがバッカスを警戒する。


「流石に定石通りにはいかないですな」

「ふぉふぉ。伊達に二百年は生きておらぬからのぅ」

「ふふ、確かにバッカス様の経験もそうですが――」


 最も警戒すべきは彼の経験ではなく。


「〈王国最強〉を名乗ることはあるね。その圧倒的魔力量はボクよりも遥かにしのぐ……か」

「地力が違う。ふぉふぉ、前にお主と話した時もそう言わなかったかな?」


 苦く笑うシフォンに対してコツンと杖を突くバッカスは軽やかに笑うのであった。




 式場は混乱に包まれながら確かな剣戟が聞こえた。

 舞台は天使像の前、王が宣誓を行う神聖な場所。

 数は二十数名の小規模な衝突であるが。


「メル様を守れ!」

「メルを捕らえよ!」


 守るものと捕らえるものの闘争は未だ続く。

 兵たちの練度に差は無いが、指揮官の方に若干の差異があった。

 一人は回復を得意とする少女、片方は敵をなぎ倒す偉業な男だ。


「メル様……」

「分かっています」


 ほぼ拮抗した戦いはメルが少し押され始めていた。

 士気の高さはメルたちの方が上なのだが、如何せんラグーンと言う騎士が他の兵士よりも優れていたために勢いを止められなかった。

 守りに徹するメルたちは現段階で敗北は見えなくとも勝機もまた見えないでいた。

 回復をさせながら戦闘を継続させていたメルたちだったが。


「いい加減諦めろ」


 ラグーンが斬り捨て数的不利は開いてゆく。

 誰もラグーンの相手をできない。

 ジリ貧な状況は扉に殺到する貴族――それを飛び越えて躍り出た者によって解決される。


「ラグーン様!」

「っ! グム!」


 彼らの目はメルに向いていた。

 故に背後から来た彼の存在を気付けなかった。

 それでも気配を察した一人の兵が声を上げたが遅い。

 既に彼は斬られた後。


 振り返ろうと半身になったラグーンと一撃で勝敗を決めた一介の警羅団員はすれ違ったのちに。

 

「がああああああああああああ!!」


 お互いを視認することなくラグーンが首から血の花火を打ち上げることで決する。

 ラグーンの血を振り払った剣士は剣を収め敵がいるにも関わらず頭を下げて主人を迎える。


「遅れて申し訳ありません。メル様」

「避難経路の確保をしていたのでしょう? 私は大丈夫ですよ。スコット」


 青さは実り、そこにはメルを守る一介の騎士がいた。

 スコットの茶髪の――短い髪が懐かしさを覚えさせた。




 そんなこんなでメルは一旦、客たちを逃がすように行動した。

 退路は先も言った通りスコットが確保しており、問題の――荒立った会場に関してはと言うと。


「うふふ、皆さま一旦落ち着きになって賊は討たれました。外までの案内はこの騎士様にやってもらうそうよ?」


 凛と響いた声がイブニングドレスを着飾るダスクから聞こえた。

 ダスクの声はその見た目に合った声で落ち着きを持たせる不思議な魅力がある声であった。カリスマ……と言うのは語弊かもしれないが演説に置いて混乱に置いて美女の声は良く響くものであるのだ。


「ダスク様、ありがとうございます」

「構いませんわ、メル様。私もそろそろ場所を移そうと思っていたところなので」


 鶴の一声に助けられたメルは一息ついたのちに客たちを案内した。

 恙なく終わり何とか避難させることが出来たメルは。


「スコット、兵を集めて下さい。もしもの時の備えと残党を捉える為に」

「心得ましたメル様」


 小さな反撃から始まった混乱は徐々にメルが収束させていった。




 世界のひび割れが緊張を伝える。

 不気味な霧は辺り一帯を包み、不安を加速させた。


「〈死者の都〉か。くひひ、懐かしい技よな」


 目を配り、口を三日月のように曲げて笑う。

 扇子を広げ表情を隠すが意味は無し、ただベガは楽しんでいたのだ。

 霧が闘技場を包み込み、一段と寒さを伝えた。

 太陽が輝いているにも関わらず尚暗く。

 日光が大地を温めているにも関わらず尚寒く。

 有視界戦闘を是としているベガは確かに霧を煩わしく思いながら“耳を澄ませた”。

 即ち。


「見えず。されど聞こえておるよ」

「……」


 不意から霧を纏った一閃はベガの首をはねるように側面から。

 見えず。

 その言葉が示すように背後からの縦切りを。


「視覚聴覚を使い戦うのは基本じゃよ。感覚器官も使えれば良いがそこまで鍛えておらぬ」


 半身でよけ、耳からの情報――強化された聴覚情報で敵の位置を把握した。

 基本ベガたちはその三つの感覚を使って戦闘を行っている。

 ゲーム時代に培われた経験はそのまま戦闘技術として応用でき、それらを使った戦闘こそ。


「PVPの基本。お主の場合プレイヤーであるのか疑問ではあるが」


 バキンと世界が割れた。

 騎士の恰好をしたガタイのいい〈スケルトン〉が顔を出す。

 洗練された動きは正しく訓練された騎士の動き。

 骨格良くできたその身体は並の〈スケルトン〉よりも丈夫で力もある。

 正し上記のことなどあまり重要ではない。


『〈一閃〉』

「かかか」


 ベガの斬られた髪が舞う。

 簪が砕けて下ろす髪。

 横一線のそれをのけぞるベガはギリギリで躱し、続いてくる剣に。


「〈自己召喚〉」

『!』


 闘技場の地面を剣が叩く。

 見失う〈スケルトンナイト〉は微かな魔力を感知して上空を見る。

 気付くのが少し遅かった。


「〈星霜の記憶・死竜の魔刃〉」


 空から禍々しい風が〈スケルトンナイト〉を一刀両断する。

 おもむろに振られた一刀。

 ベガの〈星霜の扇〉が変化して死者の武器を具現させた武器だ。


「“ズル”は『あまり』したくないからのぅ。『終わらせてもらうぞ』?」


 ジリリとベガの左目にノイズが走り、声が掠れる。

 空中――遥か上空で振りぬいたままのベガは体制を整え再び斬撃の構えを取った。

 黒い風が刀に巻き付く。

 抜き身の一刀は黒く、持ち手の部分は包帯のようなものが巻かれた不気味な一太刀。

 戦国の一振りが霧を切り裂き、その先にいた仮面の少女を襲い。

 斬と――パキリとも言った。

 欠片が舞い、ラグが起きる少女は疼きながら感嘆と。


「嗚呼、憎い。憎いよお兄ちゃん」


 仮面にひびが入りその奥から覗く瞳が言った。

 仮面の能力が効果を落とし中途半端な力の行使がラグと言う形で現れたのだ。

 不気味に佇む少女は。


「何を奪おう。どうやって奪おう。切に願うは――貴方が奪ったように私があなたの全てをうばうことだけ」


 “古代妖精の仮面”が本来の姿――ノイズにぼかされながら現す。

 貧相な身なりはその痩せこけた体を包むボロな衣服を見れば。

 ぎらつく瞳は少女の孤独を映し、戦争の悲惨さを宿す。

 直接相対したことなどない。初対面の彼女たちは正しく――。


「アイネのせいにするつもりなどない。結局我もこの戦争に加担したものじゃからのぅ」

「黒の魔物ベガ。わたしのお兄ちゃんを……私の家族を返して」

「……」


 少女は発言の通り戦争孤児である。

 家も財産も愛する者すら失った彼女はただ燃え盛る復讐の炎しか残っていなかった。

 少女の全てを奪ったのが誰であるのか分からない。

 だけど、それはバッカスの洗脳によってベガになっている。

 いや、アイネによってベガは“そう言ったもの”を背負わされたのだ。

 だから――ベガは。


「かかか、恨め憎め。全てを背負ってこその“チーター”じゃ」

「〈死王の宝珠〉――〈召喚 屍の双頭竜〉」


 地位も名誉も捨てた。

 世界に嫌われているベガは今さら少女の一つの恨み。

 背負って見せると豪語する。

 何故ならば、ベガは“チーター”だから。

 そして。


「残念じゃが、『お主の歩む』歴史もこれで終いじゃ」


 着地してノイズを走らせたベガは〈屍の双頭竜〉と対峙した。



さて、問題はこの後に登場する化け物です……。

その異形がどこまで伝わるのか微妙です。

RPGのボスキャラをイメージしたのですが、まあ化け物ですよ。

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