企ての後ろ
ワクワクして書けました。
獲物を取り出す音が海賊たちから聞こえた。
たかが女と侮るのをやめ、冷や汗を流す彼らだったが。
ズシン!!
それは船を揺らす程の衝撃だった。
“砲撃”と勘違いして彼らは一瞬海へと目を向けようとしていたが理解する。
デッキの中央、海賊たちの中心でピクピクと頭を失った身体が動く。
頭部を砕いたのは跳躍して海賊たちの中心に躍り出た〈御旗の乙女〉。
またの名を。
「ジャンヌ・ダルク。今から貴方たちを殴殺する者の名です」
レオジーナと違いジャンヌは作業の如く無表情で殺戮を開始する。
背後から来るものも正面から来る者も例外なくその御旗によって吹き飛ばされ潰れたトマトのようになる。
数人の犠牲者をだして海賊たちはやっと一計を考えた。八方から一斉に――。
ギン!
八方から武器を振るう彼らをジャンヌは――彼女は一旗で受け止める。
片手で安々と、まるで傘をさすように。
「あ、ありえない!!」
「人の身では無いので――」
魔術師の紅蓮の炎が仲間ごと焼き払うように包み込んだ。
海賊たちの中にいる魔術師が放ったその技は確かにジャンヌを燃やし尽くすはずであったが。
「!」
「ぬるい。火刑の炎と比べれば遥かにぬるいなぁ」
盾にした男は既に息は無く。
灰と化しているそれを投げ捨て、残ったジャンヌの瞳は無を示しながら。
そこから覗いた顔を旗で半分隠しながら。
「傲り昂ぶりは許してください。その代わり一撃で殺しますので」
死神の微笑みは海賊たちに恐怖を与えた。
炎が上がり、女性の嘲笑が響き、旗を振る音が木霊する。
かなり離れた場所で見物している町民たちだが、はっきりと戦闘音は聞こえていた。
月が明るく松明を持つ町民を照らし出し。
「さて、皆さんに一つ質問したいのですが?」
「? 何でしょうか?」
「“ここにくる船”についてお尋ねしたいことがあります」
「ここに来る船……ですか?」
見物客に尋ねるメルは情報収集も兼ねて彼らとの会話を楽しんだ。
助けた少女の話――彼女の姉からすると“マリウス領襲撃事件”の犯人は誰であるのか分かった。問題はなぜそんなことをしたのかに関してだが。
「船については領主様の認可、札で判断しておりますが何処の船かと言われると……」
「分かりませんか……。でしたら港の開発については?」
「それでしたら丁度、半月ほど前になります。ある日領主様が港を開発するとおっしゃられて……。漁船しかないこの港でしたが、徐々に開発が進むにつれて大型船が停泊できるようにまでなりました」
「大型船?」
メルはその資金源について怪しく思った。
現在リニエスタ王国は復興の為に全力を尽くしており、港町の開発と言った優先順位の低いものを行う余裕などない。
まして領主であればそこに投資する意味――リスクが大きすぎるように思えるのだが。
「はい。大型船が入れるように開発をしました」
「……」
大型船などと言う高価な物を所有できるのはそれこそ大商会や“国”といった限られた者たちだ。加えてこの港町を“開発”できるほどの資金を与えられるものなど――。
「なるほど……つかめてきました」
未だにベガが手を離せない状況とこの街の状況を考えれば推理は出来る。
ただそれは推理であるからして証拠が無い。
だが。
「それもこれもこの戦いが終われば確信に変わります」
船にぶつかる波音と海賊たちが海に飛び込む音が混ざる。
蹂躙は炎を従えるレオジーナと御旗の乙女の異名を持つジャンヌよって行われた。
頬に付いた血も鎧を汚す煤も血も彼女たちは気にしない。
競うように犯罪者たちを処刑してゆき、遂に。
「騒がしいな。てまえら」
「お、お頭!!」
グビグビとボトルを煽る音が聞こえる。
長髪の彼はバンダナを巻き、その“大槍”を肩で担ぐ。
隆々な筋肉が月に照らされ黒光り。
パリンと酒瓶が割れる。
口の端から零れた酒を手で拭い彼はデッキの上に上がった。
「せっかくの酒が不味くなる」
仄かな赤みが酔いを示すが、それよりも目に行くのが彼の身長――2mを超えるその大槍だ。
研磨された刃は鏡の如く反射してレオジーナとジャンヌを映す。
「手前ら……立った二人に苦戦しているのか?」
「いえ、そういうわけじゃあ――」
一番近くにいた男が弁解しようとして頭を掴まれる。
小柄な彼を片手で掴んで船長――ゾルは投擲した。
「……」
今も戦闘中であるジャンヌは煩わしそうにそれをよけて、偶然射線上にいたレオジーナは。
「〈一閃・線火〉」
一閃のスキルと魔剣の技を組み合わせたそれで投擲された男は真っ二つにされた上に蒸発した。灼熱がゾルの頬を掠れ、示された力に舌なめずりと確かな強さを覚えた。
「楽しめそうだな。お前たちはあの女を殺せ」
「は、はい!」
次がハイライトの戦闘シーンです。
マスとの上でのシーンなのですが、伝わるのかどうかが……。




