後日談 復興に向けてⅠ
明日も投稿します。
それはまだ二人が再会を果たす前のお話。
「う~ん」
執務室で悩むのは一人の少女。
昼下がりの太陽が窓辺から顔を出す。
少し爽やかな花の匂いが運ばれ、春の――五月の季節を少女は感じとる。
しばし仕事に熱中していた少女は喉渇きを覚え。
「……」
マグカップを持ち上げた後、それが空であることを理解した。
席を立つメルに春にしては少し冷たい――風が哀愁を思い出させた。
「ベガちゃん……。元気にしているかなぁ?」
豪華展覧なその一室で会議は始まる。
財務大臣と復興支援団体、加えて商人連盟。
数十人の有識者が集まり、今後の課題と議題を議論した。
「と、言うわけで金が足りないのは事実だ」
「……具体的にどれくらいでしょうか。リングウッドさん」
「う~ん。ざっと金貨70000枚だ」
「な、70000枚……」
財務大臣を担当するリングウッドは書類をメルに渡した。
それは復興に必要な木材や鉄、人件費など――食料も含めた復興に欠かすことのできない費用の一覧だ。
パラパラと書類に目を通すメル。
その書類に不備がないことを確認したのち。
「そ、それで具体的な支援と言うのは何をしているのでしょうか? シュタイヤさん」
「仮住居の建設は勿論、その間の食料や設備建設を主に。義援金も貰いましたが差し引いても60000枚……となるでしょう」
「わ、分かりました」
復興支援団体とは主に貴族とハーフエルフによって創られた団体。
その名の通り支援を主とする団体であり当然ボランティアに近いものだが、その作業に関して何ら不備があるわけでもなく。義援金を懐にしまうような不届きものなど――今は存在しなかった。
「商人連合を代表ヴァリエルさんに聞きたいのですが……」
「すいませんが、これ以上の譲歩は無理です……。運搬費も考えてこれ以上の値下げは……」
「そ、そうですよね。……すいません」
打つ手なしに項垂れるメルだったが。
バタン。
「す、すいません。失礼します」
「イナバちゃん?」
春であるのに防寒服を纏う獣人が登場した。
名前をイナバ。
ベガの従者をしており、今はベガとメルの手紙の配達をしている。
先の戦争の功績もあり今は小さな領地を持つ貴族なのだが。
「カ、カトリーナさんからです。えっと何か大切なことが書いてあると言われたので……」
「え? まさか!!」
この会議をする前からメルはベガに相談していたのだ。
いつか国庫が空になると言うことを。
だから先うってベガに相談したのだ。
「すいません。すぐに読ませてください」
「ど、どうぞ」
封を破りすぐに目を通したメル。
そこには丁寧な挨拶を含めて、近況報告がされていた。
何があったか。何処に行ったのか書いてあるそれにメルは喜び驚いたりもした。
そして、最後の方に小さく書かれていた。
というわけで、国債というものを作ればよい。
利子はかかるが、それでも足しにはなるじゃろう。
簡潔な説明で国債というものを理解したメル。
その手紙を懐にしまい込んだメルは新たな対策を彼らに教える。
「国債というものを作ります。リングウッドさんはその手伝いをお願いします」
「了解」
「ヴァリエルさんにはこれから国債とうものを説明しますので、その宣伝と説明をお願いします」
「はい」
「シュタイヤさんも同じく」
「了解しました。メル様」
かくして彼らは金貨60000枚に向けてその対策を練るのであった。
街は未だ復興の最中である。
崩れた建物を直す大工やその手伝いをする復興支援者。
戦時中では見られなかった笑顔が少しずつだが増えているのを感じた。
「……」
怪しい。
見るからに怪しいフードを被った少女が街を見渡している。
少女は別に悪いことをしに来たわけではない。
ただ、少しの息抜きがてらここに来たのだ。
やらないといけないことはまだ山積みであるのだが。
「このリンゴ、もう少し安くならねぇか?」
「ちぃ、仕方ないなあ」
「あら、このお花綺麗ね」
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 今から始まるのは魔法絵師の立体絵画!! 見なきゃ損、損!」
活気が賑わうのはメルの支援が少なからず功を奏しているからだ。
勿論、未だに地方はその回復にしばらくの時間がかかっているが。
それでも復興の兆しを肌で感じることが出来た。
「せいが出るね。お嬢ちゃん」
そう言って、メルに話しかけたのはその様子を見ていた果物屋の主人。
「ええ、皆さん。良い顔をしています」
「そうかい、そうかい。ほら、いつもの奴だ」
「えっと……」
これはいつも市場調査に出かけているメルに与えられている“おまけ”だった。
少し困り顔でフードを被ったメルは尋ねようとして。
「――少し形が悪いんだよ」
「え?」
「まあ、捨てる品だ。ただ捨てるよりも食べられた方がリンゴも喜ぶだろうよ」
「……」
確かにいびつな形をしているが、それでも味に変化はない。
それに店主が言っていたことも一理あり。
「すいません。いつもありがとうございます」
「いいってことよ」
かく言う店主も全ての客にそういったサービスをするわけではない。
ならばなぜ、メルだけにそれがもらえるかと言うと店主は勿論、ここにいる露店の商人たちはフードを 被った少女が“メル”だと知っているからだった。
「ほらほら、これもやるよ」
「え? いいんですか?」
「このお花、すこ~し色が悪いけどあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
こうして、メルはいつも両手いっぱいの貰い物を持って城に帰る。
……そして、メルが城に帰るのは正門からなので当然と言えば当然の推理に至る。
「ただいま戻りました」
「「「おかえりなさい。メル様」」」
メイドと執事がメルの帰宅を迎えた。
城の第二玄関に当たるそこは来客用とは違い少し小さなつくりの場所。
それでもシャンデリアや高そうな壺が高級感を――ここも城の一部であると主張していた。
「あ! レオジーナ!!」
「お久しゅうございます。メル様」
そこへ丁度、レオジーナに会った。
手には手紙が一枚握られており、これから出しに行くのだろうと見受けられた。
今は警羅団の長という立場もありレオジーナはメルに対して敬語を使っている。
加えて、レオジーナの言ったお久しゅう。
という言葉も彼女の多忙もあり中々会えないことを如実に示していた。
ところで話は変わるが。
「警羅……という仕事について、皆さんも分かって貰えたでしょうか?」
「ええ、市民の皆さんも“騎士とは違う”と言うことを理解してもらいました」
「そうですか。良かった。良かったです」
警羅団というものが出来た経緯について書こうと思う。
騎士――という存在は先の戦争に置いて王国軍側にいた存在だ。
それは即ち民の敵であった者たちで、市民たちにあまり良い印象を与えなかった。
王の命令で敵にも味方にもなる存在を今一度、民たちが信用するかと言うと。
「信用の回復は一番の課題です。これからも“民の為”の警羅団を」
「勿論です。メル様。この警羅団、民の為の団を約束しましょう」
名称が変わったこともまた一つの違いである。
だけど本当の違いは彼らが民の為の団であること。
信用回復の為に彼らは日夜、盗賊の退治や警備……それから復興の支援を頑張っている。
「今はまだ、騎士団にいた者たちをそのまま起用していたこともあり、完全な回復とはなっていませんが、それでも。理解してくれる者たちが現れています」
「うん、うん」
これにより、警羅団は騎士と違った仕事ができるようになった。
冒険者との衝突も減り、加えて――。
「そういえばレオジーナ」
「? なんでしょう?」
「その手紙は?」
おもむろにメルはレオジーナの手紙について尋ねた。
別段興味があったわけではないのだが、それでも気にはなった。
「ああ、これですか。これはベg。ゴホン。カトリーナさんに尋ねようと思いまして」
「何か困りごとですか?」
「些細な問題です。どうしたら、“お転婆お嬢様”に外出を控えてもらえるか? という内容です」
「……え……っと」
「では、失礼しますね。メルちゃん」
目を泳がせるメル。
レオジーナは微笑みながら最後の言葉を耳元で小さく言った。
立場上レオジーナはメルの部下であるのだが、関係上は姉でもある。
私的な立場では“メルちゃん”と呼ぶのだ。
メルも頑張っています。




