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我が儘な奇跡

ああ、一番好きなキャラが……。

 アイネ・クライネ・クリークの目的は今なお変わっていない。

 英雄になるため彼女はベガを利用した。

 世界を壊す力を使い、ベガを悪に仕立て。

 〈スケルトン〉を使い、人心の心を奪った。


 後もう少しであったのだ。

 あと少しでベガが完全な悪となりアイネの思い描いた絶対の英雄譚が完成するはずだった。

 それを――この少女は。


「うふふ、今さら何の用でしょうか? 無力なあなたに何が出来るのですか? 依然として私の優位は揺るぎなく、増えた死者の数をあなたは知っていますか?」


 そうだ。その通りなのだ。

 未だにアイネのシナリオは崩れていない。

 その根幹はこの戦場を闊歩する死者たちである。


「戦場を支配しているのはこの私です。未だにこの正義は滅びない。物語は私の手中にある」


 死者たちは〈天使の骸〉によって踊らされる。

 戦場を包み込むその術はベガをもってしても解けない。

 成す術は無い――と思われた。


「確かに……確かに私は無力な少女です。人を殺す覚悟も無ければ、人を痛めつける覚悟も無い」


 俯くメルは確かに己の未熟さを知っている。

 レオジーナやスレインのように剣を振れなければ、シフォンのように強大な魔法も使えない。

 だけど、だから。


「私はここにいる。私は英雄だからここにいなくてはならない。そして――」


 地響きが聞こえた。


「な、何だあれは?」


 地平線にある人影。

 だけどそれは想像を超えた莫大な人数の影だ。

 地響きと共に現れた者たちは。


「うおおおおお!! 英雄姫の後に続け!!」

「敵はあの〈スケルトン〉でいいわよね?」

「ららら~♪ 華々しく戦う姫の姿~~♪」


 一般庶民、この王国の民たちがその正体だった。

 数十万にも及ぶ大軍は〈スケルトン〉と衝突し。


「うおりゃああああ!」

「?!」


 粉々に粉砕していく。

 農具を武器に戦場を駆け巡り、それが無ければ拳で戦う。

 勇敢で蛮勇な民たちは幸運なことに。


「カラ……カラ……」


 メルの術によって――歌によって彼らの動きは鈍くなっていたのだ。

 鈍亀の如く歩む死者に雪崩のように彼らは突き進む。

 予想外の展開にアイネは狼狽えながら叫ぶ。


「なぜ? なぜこんなことが?!」

「私が弱いからです」

「?!」


 理解に苦しんだ。

 アイネにとって英雄は強く有らねばならないからだ。

 たとえ一人でも己の正義を信仰する孤独の戦士で悪と対する使命を抱く者。

 なのに。


「弱いからこそ――皆さんが来てくれた」


 みんなはメルの弱さを知っている。

 と同時にメルの優しさを知っていた。

 メルがいつも兵士たちのことを気にかけていたことも。

 メルが困った農民たちに食料を分けていたことも皆が皆知っていたのだ。

 微笑むメルは意地の悪い笑みで返す。


「私は弱くて――“ズルい”女です。そして、皆さんの力を借りて巻き込む“我が儘”な少女です」

「っ!」

「こんな形だけでしか私は奇跡を起こせませんけど、それでも――アイネさんの奇跡を上回って見せます」


 堂々とメルはアイネに言った。

 己の方が英雄に相応しいと。

 そして、終戦は目前と迫った。


「ふふふ、確かにあなたの弱さを認めましょう。その“ズルさ”も“我が儘”も全て“認めましょう”」

「……」

「ですけど――この勝利は譲れませんね」


 〈スケルトン〉は数の暴力によってその数を激減された。

 弱体化された〈スケルトン〉はもはや戦力としてはその数のみだ。

 壁と変わらぬそれに最早期待などない。


「やはり、信じられるのは己の身。喰らおうではありませんか」


 ペロリとアイネは唇をなめた。

 そして次の瞬間。


「な、何をするつもりですか?!」

「うふふ、骨の身ではありますがそこに残った魂は未だ健在。腐りかけではありますが矢無負えなし」


 アイネは〈天使の骸〉に手を突っ込み、その胸にある紅い球を握り取った。

 崩れる〈天使の骸〉。だけどアイネは構わずその紅い球を食べた。

 ぐちゃぐちゃと。

 生ものを食べるような咀嚼音は不快に響き渡り、遂に。


「うふ、うふふふふふふ」


 アイネの髪色は灰色へと変わり、その背中には二対の翼と――。


「これこそ、神が与えた奇跡の具現……。わが身に宿る奇跡にひれ伏しなさい」


 アイネの頭に浮かぶ天使の輪―――黒い輪が光を放った。

 瞳には十字の光が宿る。

 強大な力の出現にメルは冷や汗をかいたが。


「我を『忘れて貰っては』困るのぅ」


 ズイとメルの前に出るベガ。

 未だにその左目にはノイズが走っているが、それでも正気を保っていた。

 世界のひび割れは既に収束されている。


「メルの登場によって『お主の敗北』は決まった。時間をやろう。『慈悲をやろう』。その間にお主の『運命を受け入れよ』」

「うふふ、何を言うかと思えば……。あなたは既に限界ですよね?」


 アイネは知っている。

 これがベガの限界であると。

 先ほどのように暴走するのが当然であると高を括るアイネだったが。

 メルはベガの手に触れて囁く。


「私はベガちゃんを信じます。だから…………ここにいてもいいですよね?」

「勿論じゃよ。メルのお陰で我は『限界を超えられる』」

「……」


 アイネには分からない。

 彼女は人との絆を信じないから“限界を超える”という現象を信じていなかった。

 人は人である内は奇跡を起こせないと思っているから。

 それでもアイネはメルを殺す理由を持っていた。


「私は物語に狂いを許さない。だからここで貴方を殺します」

「……」


 限界を超えたにしろ、越えなかったにしろ。メルを殺せば再びベガが狂うのは必然。

 物語は恙なく進む。


「今度こそ……今度こそ、この正義を侵攻させましょう」


 アイネは一目散にメルへと向かう。

 その手にある爵を振りかぶり神罰を振るおうとしたが。

 ガキン!!


「今……」

「あなたはメル様を殺す……とおっしゃいましたね」

「誰ですか? あなたたちは誰なんですか?」


 その攻撃を防いだのはレオジーナとスレインであった。

 ボロボロの装いで騎士の役目を果たす忠実な兄妹。

 意表を突かれたアイネと違いメルは笑って。


「スレイン、レオジーナ!!」


 赤い髪とスポーツ刈りの短い短髪が靡く。

 幼くメルの面倒を見てきた兄と姉。

 彼らが窮地のメルを放っておくわけがなかった。


「かかか、済まぬが今は手が離せん」

「はぁ……分かりました。その間の時間稼ぎは」

「私たちの役目ですね。レオジーナ」


 ベガとその従者たちは祈りと詠唱をしていた。

 ベガが今、出来る最大限の“チート”。

 その準備は。


「〈円卓の魔術師〉マーリン。たった今推参しました~」

「悪いが、お主は数合わせじゃ。“出席”するだけでよい」

「了解~」


 そう言って新たに召喚した〈マーリン〉を祈らせる。


「何ですか? 何をするつもりですか?」

「ベ、ベガちゃん?」


 アイネもメルも共に困惑する。

 それは新しく出した従者を活用しなかったから。

 心配するメルであったが。


「『時間が無い』。だから一撃で決める」

「わ、分かりました」


 メルがいるとは言え、ベガは無理をしている。

 加えて戦闘時間が増えると言うことはそれだけメルを危険にさらすことにもなる。


「邪魔ですよ!!」

「っ! しまった!」


 レオジーナとスレインから距離を取ったアイネは唱える。

 遠距離からの攻撃、天使の力を使った神罰は魔法とは異なり自然の現象。

 神の暴力がメルを襲おうとした刹那。


「〈火鉢の大蛇〉」

「〈風の大竜巻〉」


 二人の――エルフとハーフエルフの魔法が神罰を打ち消す。


「一体、一体誰なんですか?! 私が主役であるのに邪魔をするわき役たちは?!」

「はぁ~、一体誰が主役何だい?」

「言っても無駄ですよ。シフォン様」


 シフォンとシュタイヤが杖を鳴らしながらため息をつく。

 メルヘンチックなその思考に呆れはて。

 そして。


「メル様、助けに来ましたよ」

「あらあら、スレインやレオジーナまでいるわ」


 レオジーナとスレインの兄と姉。

 リリーナとガエリオが登場する。


「おうおう、メル。随分苦戦しているよだな?」

「リングウッドさん! それにフランシスさんたちまで!!」


 メルの元に彼らは集結する。

 周りにいる兵士たちや死者たちを倒しながら彼らはメルの元に集まったのだ。


 完全に己の不利を悟ったアイネ。

 それでもその握る拳は力は衰えない。それどころか。


「やはり……やはりこの世界は間違っているのですね」

「……」


 メルはアイネに何も言うことが出来なかった。

 メルはアイネの全てを知らない。

 けれども苦労は窺い知ることが出来た。

 見れば微かに残った首輪の跡やギラついた瞳の炎など。

 彼女の苦労は知れる。

 だから。


「同情はせぬよ。『お主は最後まで』“お主のまま”じゃ」

「ええそうです。同情など必要ない。私は最後まで――私の正義を信仰しましょう」


 全てを亡ぼすべくアイネは天に祈った。

 集約する天の光はアイネの爵に集まり。


「清浄なる光よ。私は果てなき信仰を約束する。理由も無き信仰に身を捧げ、かの者たちを打ち払う力を授けたまへ」


「円卓会議にて三人の承認をもって命ずる。魔を払う絶対の剣よ。無垢(むく)清浄(せいじょう)に全てを薙ぎ払え」


 空に巨大な骸が現れる。

 その骸は神の――と題されるアイネが呼んだもの。

 天の輪を輝かせる高貴な骸は無造作に手を伸ばす。

 対してベガは光を集約させる。

 眩しく光るそれは確かに剣の形をした光の集合。少女一人にしては大きすぎるそれをベガは“メルと共に”持つ。


「〈神の骸〉」


 骸がその質量で王都を壊そうとした。

 全てを消し去れんとする絶対の暴力は。


「残念ですが」


 メルはベガと共にその剣を振り上げ――。


「「あなた(お主)の歩む歴史はこれでお終い(じゃ)です!!」」


 二人は剣を振り下ろした。



アイネ・クライネ・クリークは最後まで変わりません。

悟る敵キャラもいいですが、彼女は変わりません。

悪を貫いてこそのアイネであり、我が儘なのです。彼女の成り上がり外伝も書いてみたい……。

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