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回復縛りで行こう!

作者: 白夜 零


 戦闘も中盤。

 ここが山場といったところか。

 最初から全力を出したつもりだったが、向こうもそれは同じ事。そう簡単に倒れてはくれず、打撃、魔法、飛び道具と、ありとあらゆる攻撃手段が交わされている。


 ご丁寧にターン制なのは、そういうルールだから仕方ない。

 それを捻じ曲げるには特殊な魔法とか、特殊なアイテムが必要なのだ。


 剣を交わし、魔法を交わし、よくよく見ればこちらのHP(体力)もそれなりに削られてきている。

 ごり押しというのはスマートじゃないし、認めるのは癪だが難しい。

 しかし大丈夫だ。

 いざHPが、ヤバイ!と思う程度に削られても敗北せぬようにと策は打っている。

 回復魔法は強力なのを1つ覚えている。

 毒や麻痺、混乱、幻覚などなど。あらゆる状態異常を回復した上に、HPも大いに回復するという、覚えるのに苦労はしたが協力安心な魔法だ。

 回復アイテム(ワイン)だって万全で、念の為蔵に備えてあった分を大方持ち出して臨んでいる。


 今のところは状態異常も発症していないし、HP回復だけでいいだろう。

 そう思ってワインに手を掛けようとしたところで。



 ぴんぽんぱんぽーん。



 緊迫した戦闘の場には不似合いな、間抜けで、底抜けに明るい電子音が響き渡った。

 睨み合い、攻撃を交わしていた両者共にきょとんとして動きを止め、互いに思わず間抜けな顔で見つめ合う。

 しかしそれも一瞬で。


「あー、ごめんなさぁい。警告?報告なのかなぁ。まあどっちでもいっか!お知らせに参りましたぁ!」


 これまた底抜けに明るく、緊迫した空気を弛緩させるような声が響いた。

 目の前にいるのは長い銀髪にゴテゴテと装飾を纏い、これまたゴテゴテとした装飾のドレスを着た、キラキラ光る女。


「勇者ギルドからクレームが来ましてぇ。今回の世界戦からぁ、魔王軍の回復魔法及び回復アイテムの使用を禁止とさせて頂きますぅ!」


 その女はオレに向かって朗らかに言い切った。



 ……え?何の事だ?


 いまだ事態が飲み込めずきょとんとするオレとは対照的に、対戦相手であった勇者の方はガッツボーズさえ決めながらはしゃいでいる。

 先程までの世界の命運を背負った真剣な顔や、一瞬の油断も見せまいと隙を窺っていた顔はどこへやったのだ!

 まるでもう、オレのHPを削りきったかのような喜びようだ。いや待て、回復魔法とアイテムの禁止?

 オレはゴテゴテ女の言葉を思い浮かべながら、もう1度ワインに手を伸ばそうとする。

 するとまた。


 ぴんぽんぱんぽーん。


「だからぁ、魔王軍の回復アイテムはぶっぶーです!バツです!回復魔法も駄目ですよぉ。勇者側からクレーム多いんですって。回復してんじゃねーよ、敵!って」

「……じゃあ問うが。勇者の回復はどうなんだ?」

「それはオッケーに決まってるじゃないですかぁ。まあ、強い魔王様なんですからぁ、それくらいなしでもいいでしょ?それにもう、クレーム対応に女神疲れましたぁ!だから勇者のかつてからの要望、敵の回復禁止を通す事にしたんですぅ!私ってばてんさぁい!!」


 ゴテゴテ女、もとい自称女神は上機嫌にはしゃいでいる。勇者ももはや勝った気でいるのか緩みきった顔を浮かべ、女神に感謝の言葉を口にしている。

 ふざけるなと言ってやりたい。

 オレだってこの魔法を覚えるのに努力した。そして漸く身に付けたのだ。

 ワインだって資金繰りに励み、民を鼓舞し、時には彼等の手助けをして、そうして地道に集めてきた物だ。その中には親父から譲り受けた大切な物もある。本当に困った時だけ詮を開けなさい、と。


 ……それらが全部、水の泡、だと!?


 しかも一切のHR回復なしで伝説の勇者を討て、と?

 回復技やアイテムを万全に用意していても、歴代魔王が散った伝説の勇者を相手に!?


 何この無理ゲー。


 しかしオレはこの程度では挫けぬ。

 女神が報告に来たと言う事は絶対であり、特別な抜け道や魔法でも用いらなければ変えられない。ターン制の戦闘と同じだ。

 無論、急に報告された予想外の事態である為、抜け道も対抗魔法も用意していないが。


 1つだけ、手段はある。


 オレの最も強い魔法を使えばいい。

 それを使えばMP(魔力)も切れる。どうせ魔力回復アイテム(ステーキ)も使用禁止になっているだろう。そうなればもう、必死に覚えたのに無意味になった回復魔法は勿論、簡単な攻撃魔法さえ起こせないだろう。

 しかし構わぬ。

 このターンで仕留めてしまえば良いのだから!!



 呪文詠唱。

 強力な魔法が勇者を襲う。轟音と土煙に勇者の姿は見えなくなるが、煙が晴れる事には横たわった姿が見られるだろう。

 先の魔法はHPが満タンであっても、防御の成長を疎かにしていては凌ぎ難い魔法だ。代々魔王が取得する強力魔法のその上を、オレは手にしてみせたのだ。



 しかし。

 そんな魔法であったにも関わらず、煙が晴れた先にいたのは、立ったままの勇者だった。


 おかしい。

 どんなに防御力を鍛えていても、防御に極振りしていても、あの残りHPで凌ぎきれる威力じゃない筈。

 そんなオレの疑問を読み取ったかの様に、勇者は誇らしげに笑い、自分の盾を仰々しく翳してみせた。


「この盾は1度きり、致死のダメージからも身を守る盾だ!」


 成る程、そんな便利アイテムでHPを1残して生き延びたらしい。

 勇者はそう言い放つと掲げていた盾を下し、腰のポシェットから薬ビンを取り出して、口に含んだ。


 たちまち残り1だった勇者のHPはほぼほぼ満タンまでに回復する。

 顔にも疲れは見られず、むしろこの部屋に乗り込んできた時よりも元気になっているのでは?と思えてしまう。


 さあ覚悟しろ、魔王。

 勇者がそんなお決まりの台詞を吐くよりも先に。

 オレは思わず絶叫していた。




「回復してんじゃねぇよ!敵!!!」





ゲームで敵が回復すると「回復すんなよ!」って思うけど、これ相手側から見ても同じだよね。

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