導く者
傷ついたその身を治すことは出来ても、深く負った心の傷は一切癒せない。
それをわかっていても、かおりは悔しくて泣いている槇の傷を魔法という形で治していた。
「なんだよあれ。勝ち目ねぇじゃんか」
かおりは小さく頷く。
「なんだよ。どんなに頑張っても、無理なもんは無理じゃねぇか」
治療は終わった。それでも動く気になれなかった。
動いたところで、無駄。
圧倒的な力の差にそんな感情が2人の中で交差していた。
「どうしたらいいんだよ。教えてくれよ!」
絶望の果てに行く道を失った。
そんな時に今まで導いてくれていた人が、今ではどこにもいない。
かおりは暗い表情を落とした。こんな弱気な槇ははじめて見た。だからなおさら強くいなければと思った。
「行こうよ」
そう口にするかおりの表情には迷いがなかった。
まっすぐと槇を見る。
「天凱の中央。勝てないかもしれないけどさ」
立ち上がってこの場所から外へ出た。
おかしな行動に槇は何も考えず、かおりのあとをついていった。
何も無い場所。この場所には無数にあるそれ。
その中心でかおりは神器氷槍を取り出し、天に掲げる。
「やらなきゃ。皆が預けてくれた私の命だもん。絶対に諦めたくない」
槍を振る。まるでキャンバスに色を塗る筆のように。
神器氷槍から出た氷の粉は星の用に輝き、そして消えていく。
「ねぇ、槇。槇がやらないと、アイツは止められないから。だから、絶対に諦めないで。絶対に生きて帰ろうよ」
槇はうつむく。
「オレが……いけるか?」
「いけるよ。槇なんだからさ」
根拠もない言葉にふっと笑う。
「そうだよな。ここで飽きてたら、あいつに申し訳ねぇよな」
急に自分の頬を思いっきり殴った。
其の反動で倒れるくらいの力で。
「えっ」
「いってぇ」
その光景に少し引くかおりを気にせずにまっすぐかおりを見た。
ゆっくりと立ち上がり最後に気合を入れる。
「おし、やってやる。やってやるよ!」
「その言葉を待ってたんじゃい」
声の主。聞き覚えのある語尾に気持ちの悪いフォルム。
「かめきち!」
「よしじゃい!」
「生きてたの!?」
ゆっくりと近づくかめ吉に安堵の声を漏らす2人。
「長老に助けてもらったんじゃい。お前らを天凱の中央に連れていく案内人として」
かめ吉の言葉に続く力強い鳴き声。
それはキメラ体であった。
「ありがたい」
「時間が無いんじゃい。早く乗れ!」
2人は見つめ合って強く頷く。
キメラとかめ吉。2体と共に最終決戦地、天凱の中央へ向かう。
それが、本当の最後であると確信を持って……。