勇者
讃夜まで、残り3日。
2人は最後にとガザナで休息を取ろうとしていた。
康貴の死。それをまだ受け止められてない2人は船内でやりきれない気持ちを必死に堪えていた。
槇は剣を振り、かおりは本を読む。
これが最期と、絶対に帰ると誓って。
ガザナに着いたのは讃夜の前日だった。果てしない山を飛んでいくことも出来ず、ただひたすらに一歩一歩進む。
頂上にたどり着いたのは夜の事だった。
「……やけに静かだな」
槇が呟くと、かおりは頭を縦に振った。
「なにか嫌な予感がする」
2人は足を止め、いつもは明るい長老の家、洞穴を見る。
「オレ知ってる。この悪寒」
そう言って取り出した剣は戦闘を拒否するように赤く燃え上がった
かおりは銃を取り出しいつでも撃てるように神経を研ぎ澄ませる。
忍び足でゆっくりと進むみ入口の前に着く。
「オレが行く」
小声で伝えると剣を構える。
扉を蹴破る。
剣の灯りが見せたものは、あまりにも悲惨なものだった。
「長老!!」
切り刻まれたような傷。
焼かれた様な腐敗臭。
飛び散り壁を染めている血。
その姿に生命という文字は既に似合わなかった。
「槇! 逃げて!!」
声に反応して振り返りながら剣を振る。
巨大な威圧。
それと共に金属がぶつかり合う音が鳴り響く。
それと同時に槇は奥の壁を突き破った。
「あぁっははは!! 愉快だ!」
顔を覆いながら笑うその姿は、もはや勇者でも何でもない。
「このやろう!!」
かおりの放つ氷の弾幕は帽子の男が持つ大剣を振り下ろすだけでないものと化した。
「ウソ……」
「さて、五宝珠、渡してもらおうか」
大剣を肩に担ぎ、片方の手をかおりに突き出す。
「いやよ」
「あぁ、つまらないオンナだな、お前は」
楽しそうに微笑むと突き出した手に力を込める。
かおりは違和感をすぐに感じ取った。
「うっ……!!」
胸を押さえつけ苦しそうに口をパクパクする。
しかし体から力がどんどん抜けていき膝をつく。
「苦しいだろう。……どうだ? 二酸化炭素の味は」
そのまま倒れ込み、地面をのたうち回る。
「うがっ!!」
意識を保つことさえもはや不可能だった。
自ら喉を握り締め、その苦しみを和らげる。
「ほら、出てこいよ!」
意識を失う瞬間だった。
かおりの懐が七色に光ったのは。
「やっと来たか!」
五宝珠が2人の間に入り強く輝き放つ。
それと共にかおりは大きく息を吸う。
まるで溺れていたかのように息を吐き出すと意識が一瞬で元に戻った。
「さて、頂くぞ。」
「そんなことさせるかよ!」
大きく口を開けた外から飛んできた槇が燃え盛る剣を振り下ろす。
男は巨大な剣を振り上げる。
再びの金属音。
熱波が室内を覆うと紙は燃え上がり始める。
「やるじゃねぇか」
帽子の奥に隠れている口はニヤリと笑った。
「てめぇだけは許さねぇ!!」
槇を覆っていたオーラが急に爆発的に増殖し、それが燃え盛る翼と化した。
翼を羽ばたかせて剣に力を込める。
剣からミシっという音がする。
「ぬるいな。」
巨大な剣は砕け散る。
それは破壊ということではなく、進化という事だった。
紅く燃え上がる。
それは間違いなく、英雄の証、聖剣であった。
「これが、本当の力ってやつだ!」
次の瞬間、槇は剣と共に地面に落ちた。
「…………つまらん」
力を使い果たしたのか、五宝珠は地面に転がり落ちる。
それをじろりと見るとゆっくりと拾い上げる。
「女、天凱の中央で待ってる。返して欲しけりゃ追ってきな。」
そう言うなり男は炎に包まれ消えていった。