真実
「なぁ、1つ聞いていいか?」
崩れ去る遺跡。動揺もせず、ただただ2人は睨み合っていた。
「あぁ、いいだろう」
大きく口を開ける地面に吸い込まれていく光り輝くステンドグラスの破片たち。
「五宝珠、揃った。やっとな。でもよ、願い叶わねぇんだろ?」
『魔王』は微塵も動かず口だけを動かした。
「あぁ。そうだ」
地響きを起こしていると錯覚させるような低い声は今までの旅を無惨にも否定するものだった。
「じゃぁ……、じゃぁなんで、あの2人は宝珠を集めさせたんだ? 帽子の男と長老と!」
言葉を強めると遺跡の崩壊は更に強くなっていく。
「1つじゃなかったのか?」
冗談を混じえて鼻で笑うと言葉を続けた。
「まぁいい、願いは確かに叶う。だが、それはそれに見合った代償が必要だ。世界を平和にしたいと願うなら、平和ではない原因を根源から壊す。そうこの世界そのものをな。それを知らないだけだ。長老は」
康貴はここまで聞いて驚きをあらわにした。
「なら、あの男は!?」
「……知っている」
お互いの雷が共鳴する様に、行き場のない怒りをぶつけ合うように、2人の雷電は崩壊するこの場所で交わった。
「じゃぁ! あの男は何なんだよ!」
「かつて英雄と呼ばれたもの。それが今では、殺戮者だ」
『魔王』が康貴を押し飛ばす。
康貴は脆い壁にぶつかると瓦礫の下敷きになった。
「知っているか? あの男は、エデレスメゼン軍をたった一夜にして全滅させたんだ」
闇が足場のない『魔王』を浮かせる。
「あいつは、勇者なんかじゃない。本当の『魔王』だ!」
闇が覆う。
その場にいなかった。
そう嘲笑うかのように、微塵もなく消えていった。
崩れ去る。
全てが。
瓦礫に埋もれたその身は、もうどこにも見当たらなかった。