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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第10章〜〈空への蝶〉
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残酷な蝶



 槇とかおりは走る。


 さっきいた場所は既に瓦礫の山。


 あいつの安否を考えている暇などなかった。



 このままだと全滅。

 槇はもはや戦意はおろか生きる気力もないかおりの手を引いてT字路を左に曲がる。

 その後にT字路なんて消えていた。


 ミスは許されない。

 覚えている限りの道を進む。



 右。



 真っ直ぐ。



 左。



 すると広場に出た。ここは間違いなく通ってきたあの場所。

 だかこの場所には、倒したはずの泥人形が起き上がって道を塞いでいた。



「邪魔だ!」



 槇は剣を抜きながら目の前の泥人形を叩き斬る。

 だかしかし、当然の如く復活してくる。

 行く手を阻まれ二度足を踏んだ感覚に奥歯を噛む。



「畜生!」



 揺れがより酷くなる。ヤバイのはわかっていても進めない。



「まだ、終われねぇのに!」



 その時だった。



射舞(いむ)氷護(クリスタル)不知火(フレア)



 中二病チックなルビがふられている技が泥人形たちに襲いかかり凍らせ、中で燃え尽きる。



「かおり……!?」

「はやく……行こ……、はやく……」



 そう言うかおりの足は間違いなく戻ろうとしていた。戻る道は既にないのにも関わらず。



「ムリだ!」

「ムリじゃないよ!」

「なんでだよ! ゲームだって捨て駒はあるだろ! そんな感覚でで」

「わかってるよ! そういう作戦だってあるの。ゲームなら簡単に出来たよ。でも、ムリだよ! 康貴だもん! 置いてけない!」



 現実は違う。むせび泣くかおりの言葉を返せない槇。

 それでも、アイツの言葉を守ってあげたかった。



「ダメだ。出るぞ」



 槇はかおりの手を引く。



 左。



 真っ直ぐ。



 左。



 左。



 右。



 曲がった瞬間明かりが見えた。それは間違いなく外である。

 しかし、この場所もあと数秒で崩れ去る。間に合うのかは運次第だった。

 すぐに横の壁が崩れる。槇は地面を強く蹴る。


「間に合え!」

「やだ……」



 すれ違う想いは無惨にもどちらかに軍配を挙げた。



 外は虚しくも晴れ渡っていた。



 外に出た瞬間に、遺跡は崩れる。


 槇はかおりを引いてはなるべく離れ、遺跡の最後を見た。



「康貴……」



 それと共に、大事な人を失った。

 ずっと一緒だった。

 笑顔の素。

 なにもかを失った。

 泣くしかなかった。

 他になにもできず、考えも出せず、ただ崩れるだけ。



「先を急ごう。立ち止まれない。あいつのためにも」



 槇は見た。

 空に、太陽に向かって羽ばたいていく蝶を。

 まるで魂の昇天。誓うこともせず、見送る。


 残酷な蝶。


 友のために泣くのは、これが始めてだった。

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