『月の雫と焔の暴虐』
「失礼します」
「ゴホゴホ……」
「大丈夫ですか!」
「大丈夫よ、むせただけ。……で、なにかしら?」
「メリー様。3番隊から電報が届いております」
豪華な一室の真ん中で優雅に紅茶を飲んでいた緑髪をみつ編みで束ねた、メリーと呼ばれた美しい女性に、鎧をまとった、まだ若々しい声を上げた兵士が手紙を持って来た。
「ありがとうございます。こちらに持ってきて下さいますか?」
兵士はメリーの近くにより、手紙を手渡した。その手紙の内容をすぐに確認する。
「やっと顔を見せましたね……。皆さんに伝えてください。マール経由で王都に向かいます。その途中にゲゼアルで1番隊と合流します。『奴』を捕まえに行きます、と」
「は!」
兵士は急いで部屋を出ていった。
「4年もどこに行ってたのですか」
メリーは立ち上がり、卓上の錠剤を取り、窓辺で穏やかな外を見る。
「3人の男と共に行動。
3人はマール方向の森に逃走。
マールに向かったと思われ。
3番隊は『奴』によって壊滅。
残ったのは2番隊と1番隊。
……あなたはなにを考えているのですか?」
メリーは悲しそうに空に問うた。
しかし、答えてくれるはずもなく、はち切れそうな精神をムリヤリ保たせていた。
華奢な手を胸に当て、深呼吸する。手の上の左鎖骨辺りには、不思議なタトゥーが刻まれていた。
鳥の翼を思わせるようなタトゥー。
「ジギタリス、あなたはあの人を貫けますか?」
そう呟き、どこからともなく槍を出した。白く輝き、青く澱んでいる矛先は神のような重圧を放っていた。
「私は貫きます」
メリーはそう言い、錠剤を飲み込んで部屋から出ていった。