幸せと悲しみと約束と
槇たちは下山し、町に戻ってきた。
あまりにも暗く、淀んだ空。まるで4人の感情を映しているようにあの明るい雰囲気の町が、今はとても憂鬱な雰囲気を醸し出していた。
そのなか、ディグロの帰りを待っていた少女が、ディグロの姿を見て、その表情を変えた。
「ディグロ!!」
駆け寄り、そのまま抱きつく。
「バカディグロ! 死んだらどうするのよ!」
「……ごめん」
「バカ! バカ……! 死んじゃったら……私、……私!」
泣きじゃくるパージャ。
ディグロは優しく、それでいてしっかりと抱き締めた。
数分、パージャが泣き止むまでそのままだった。
「なぁ、パージャ。これやる」
腕を緩め、パージャの目の前にその紅く輝いている宝石を出した。
「これ……、マルメリア……!?」
沈黙が起きた。その宝石の意味。ディグロがそれを呟いた。
「結婚しよう」
パージャはまた涙を浮かべる。
色んな意味の混ざった涙がとめどなく溢れている。
「ずっと待ってたよ、その言葉。大好きなのに、大好きだから、ずっと待ってたよ」
パージャはまたディグロを強く抱き締めた。それを妨げるようにディグロがパージャの顎を指で上げる。
お互いの顔が近くなった。見つめ合う2人。お互い真っ直ぐな視線を感じ、パージャは目をゆっくり閉じた。
ディグロは少し戸惑ったが、同様に目を閉じ、顔を近づけていった。そして交わる唇。
時が止まったようだった。
「なぁ、オレたち邪魔だから先戻ってようぜ」
康貴がそう言う。
「確かに、邪魔者は退散しましょ」
「つうか、なかなか今更だろ」
槇の一言に2人は口を揃えて言う。
「確かに……」
3人は先にダグラス家に戻り、アルシャにダグラスが死んだことを告げた。
不思議と泣き崩れず、涙を浮かべてありがとうと3人に言った。
頑張って持ってきた遺体はその日の内に埋めた。
翌日。
ディグロとパージャの結婚式が行われた。町中の人が集まり、お祭り並みの盛り上がりをみせた。
しかし、ダグラスのいないお祭りにはやはりなにか欠けていた。
町の協会の中には町中の人でも来ているのか、入り切らないほどの人が集まっていた。
誓いの言葉の後に行われる指輪交換。
マルメリアのはめられた指輪がパージャの指につけられているのを見て、かおりは純粋に、いいなぁ、と呟いたのを康貴が茶化していた。
パージャの笑顔。
ディグロの恥ずかしそうに目をそらしている顔。
これが、この2人の人生の最初の顔である。
2人と槇たちは、ダグラスの墓標の前にいた。
2人はダグラスの前で永遠を誓う。そして、かおりが墓標に書いてある謎の文字を詠むのだった。
━━━━英雄ダグラス、ここに眠る。彼、望みは汝の幸せと自信である。幾時も己の手で切り開いていけ。もし、負けそうになったならば、隣にいるものと共に歩むがよい━━━━
この先は詠まなくていいと判断し切り上げた。ふと、ディグロを見ると空を見上げ涙を流していた。
「なぁ、パージャ。今だけ……今だけ約束破っていいかな?」
パージャは小さく頷いた。
声を出して泣きわめく。
みっともなく、泣きわめく。
これが、最初で最後だと誓って。




