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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第9章〜〈ジンドゥム〉
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幸せと悲しみと約束と



 槇たちは下山し、町に戻ってきた。

 あまりにも暗く、淀んだ空。まるで4人の感情を映しているようにあの明るい雰囲気の町が、今はとても憂鬱な雰囲気を醸し出していた。

 そのなか、ディグロの帰りを待っていた少女が、ディグロの姿を見て、その表情を変えた。



「ディグロ!!」



 駆け寄り、そのまま抱きつく。



「バカディグロ! 死んだらどうするのよ!」

「……ごめん」

「バカ! バカ……! 死んじゃったら……私、……私!」



 泣きじゃくるパージャ。

 ディグロは優しく、それでいてしっかりと抱き締めた。


 数分、パージャが泣き止むまでそのままだった。



「なぁ、パージャ。これやる」



 腕を緩め、パージャの目の前にその紅く輝いている宝石を出した。



「これ……、マルメリア……!?」



 沈黙が起きた。その宝石の意味。ディグロがそれを呟いた。



「結婚しよう」



 パージャはまた涙を浮かべる。

 色んな意味の混ざった涙がとめどなく溢れている。



「ずっと待ってたよ、その言葉。大好きなのに、大好きだから、ずっと待ってたよ」



 パージャはまたディグロを強く抱き締めた。それを妨げるようにディグロがパージャの顎を指で上げる。

 お互いの顔が近くなった。見つめ合う2人。お互い真っ直ぐな視線を感じ、パージャは目をゆっくり閉じた。

 ディグロは少し戸惑ったが、同様に目を閉じ、顔を近づけていった。そして交わる唇。

 時が止まったようだった。



「なぁ、オレたち邪魔だから先戻ってようぜ」



 康貴がそう言う。



「確かに、邪魔者は退散しましょ」

「つうか、なかなか今更だろ」



 槇の一言に2人は口を揃えて言う。



「確かに……」



 3人は先にダグラス家に戻り、アルシャにダグラスが死んだことを告げた。

 不思議と泣き崩れず、涙を浮かべてありがとうと3人に言った。

 頑張って持ってきた遺体はその日の内に埋めた。



 翌日。



 ディグロとパージャの結婚式が行われた。町中の人が集まり、お祭り並みの盛り上がりをみせた。

 しかし、ダグラスのいないお祭りにはやはりなにか欠けていた。


 町の協会の中には町中の人でも来ているのか、入り切らないほどの人が集まっていた。

 誓いの言葉の後に行われる指輪交換。

 マルメリアのはめられた指輪がパージャの指につけられているのを見て、かおりは純粋に、いいなぁ、と呟いたのを康貴が茶化していた。


 パージャの笑顔。

 ディグロの恥ずかしそうに目をそらしている顔。


 これが、この2人の人生の最初の顔である。


 2人と槇たちは、ダグラスの墓標の前にいた。

 2人はダグラスの前で永遠を誓う。そして、かおりが墓標に書いてある謎の文字を詠むのだった。


━━━━英雄ダグラス、ここに眠る。彼、望みは汝の幸せと自信である。幾時も己の手で切り開いていけ。もし、負けそうになったならば、隣にいるものと共に歩むがよい━━━━


 この先は詠まなくていいと判断し切り上げた。ふと、ディグロを見ると空を見上げ涙を流していた。



「なぁ、パージャ。今だけ……今だけ約束破っていいかな?」



 パージャは小さく頷いた。

 声を出して泣きわめく。

 みっともなく、泣きわめく。

 これが、最初で最後だと誓って。

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