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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第9章〜〈ジンドゥム〉
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英雄の死




 ……ひた。




 手に温い感触。粘土の高いそれは間違いなくそれだと感じさせた。

 ディグロは目を開けた。


 腕に少しの毒がかかっていた。ヘドロの様な臭い、侵されるのがわかる感覚に吐き気を覚えた。


 だが、それよりも、そんなことよりも大変なことが起きていた。

 実の父が自分を庇ってジャダンジェの毒を大量にかかっていた。



「ぶ……じか?」

「オヤジ……なんでだよ……オヤジ!!」



 ダグラスは地面に倒れた。

 その身を顧みずに大男を揺さぶるディグロ。

 その悲痛な叫びに3人は顔さえ向けることができなかった。


 槇は振り返らずジャダンジェを見る。また口を開けているその姿を見て嫌な予感を口に出す。



「かおり! また来る!」



 かおりは槇たちに近寄りバリアを張った。

 毒を辺りに飛び散り、地面の岩も溶かしていく。



「やるしかねぇか……」



 槇のひと言に康貴もかおりも頷いた。



「飛んだら私が攻撃するから、地上は任せるわね。補助にまわる」

「よっしゃ、倒そうぜ。このバカでかいバケモノを」

「いくぞ!」



 バリアが消えると槇と康貴は走り出す。

 その後でかおりは槍を振り回す。



「こういうのも必要だと思うのよねっ!!」



 真上に放ったのは光の玉だった。



「命名、イカの輝き!!」



 その玉は弾けると共に激しく光る。それは周りのものさえ消してしまう程の光だった。


 ジャダンジェは不意を打たれ怯み声を上げる。



「おんどりゃぁぁあ!」



 光が消えたと同時にジャダンジェはひっくり返る。康貴の強力な一撃が巨大な竜を飛ばしたのだ。


 最後の一撃と言わんばかりに槇は剣を目に突き刺した。


 堪らず悲鳴をあげるジャダンジェはその状態で激しくのたまう。

 押しつぶされそうになった康貴と槇は距離を取る。

 するとジャダンジェは起き上がり飛び上がった。



「飛んで火に入る夏の虫!!」



 槍を横に降ると雷の玉が明後日の方向目掛けて飛んでいく。



「何してんだよ!」

「バカは黙って見てなさい!!」



 上空で雷の玉は弾け雷電が無造作に裂ける。

 それが順番に上空に出来た氷の破片に反射しながらジャダンジェを捉える。


 一瞬、竜の動きが止まる。

 康貴が喜びを口にしようとした瞬間だった。


 ギロりと敵を睨みつけたのは。



「かおり! バリア!」

「むり! 間に合わない」



 上空から吐かれた毒の玉は放物線を描きながら落ちてくる。

 それを見守ることしか出来ない3人。


 幾度となく味わってきた死の前兆。

 それを覆してくれる人は必ずいた。

 そんな、淡い期待を背負って。



 毒が弾けたのは早い段階だった。

 それは溶岩の熱によって蒸発し、緑色の雲に変わった。



「まだ……、オレがいる!!」



 ディグロだった。

 その手に持たれているのはダグラスが持っていた巨大な斧。それを軽々しく持ち上げ飛び上がる。

 上空で振り下ろされた斧はジャダンジェを地面に叩き落とす。

 さらに高速回転しながら、ジャダンジェの首の鎧を剥がす。



「あ、すごい」



 その華麗な流れにかおりは感心する。



「あほ、応戦するぞ」



 槇はかおりを追い抜き立ち上がろうとする竜に炎を纏わせた剣を突き立てる。

 それは首を露出させるには完璧だった。



「康貴!」

「わかってる!!」



 一閃。それがジャダンジェの腹部に入れば浮かび上がる。



「ディグロぉ!!!」



 飛び上がる。バンダナの下の瞳を光らせて。



『ジャスワランド』



 首を両断する程の一撃。



 火山の王は地面にゆっくりと落ちていった。



「どう?」



 ようやく近づいてきたかおりは様子を伺う。

 竜の瞳は大きく開かれ、まさに死の兆候のひとつを確認した。



「大丈夫そうだね」



 唸る様に喜ぶ槇。



「やるじゃんか!」



 ディグロの肩を叩いて喜ぶ康貴。

 ボーッとしていたディグロは今起こったことをその痛みで感じた。



「うそ……だろ……」

「嘘じゃないよ。ディグロがやったんだ!」

「なぁ、オヤジ! 見てくれよ! オレ……」



 遠くにいるダグラスを見て、現実に戻される。



「オヤジ!!!」



 ディグロは走り出す。それを見て槇も走り出した。



「危ない!!!」



 ディグロの真横で口を開けているジャダンジェが今にも溶岩を吐こうとしている。

 距離にして10メートル。絶対に避けれなかった。



「間に合え!!」



 加速に加速を加えてもディグロまでは行けそうになかった。



 雷が落ちるときのような轟音が鳴り響き。

 ジャダンジェの頭が吹き飛ぶ音。



 それをやったのは、闇を纏う黒い甲冑であった。



「ま、魔王!!」



 康貴は斧を持つ。


 ジャダンジェから落ちた最後の宝珠を魔王は取る。



「テメェ!」

「小僧ども! これが欲しければ約束の地で待っている!!!」



 魔王は闇に飲み込まれる。

 康貴の斧が通ったのはその後だった。



「師匠……、貴方の英志、見届けました」



 消え去った。

 石と共に。





 ここに来たことは、ほぼ無意味に終わった。

 いや、失うことが多いのかもしれない。

 4人はダグラスにかけ寄る。


 悲惨だった。


 ダグラスは体全体が紫に腫れ上がっていた。息も弱々しく、そこに魂が辛うじて残っているように見えた。



「オヤジ! オヤジ!」


 ディグロも腕が紫に変わっていた。



「とりあえずこれ飲め」



 槇はいつかの蓮華を取り出し、ディグロの口に突っ込む。

 それと同時にダグラスの口にも入れる。



 ディグロの毒はすぐに綺麗さっぱり消えた。


 しかしダグラスはまったく変わらなかった。



「嘘だろ」



 もう1つ飲ませる。

 よくならない。

 もう1つ飲ませる。

 かわらない。



「くそ!!」



 もう1つ、もう1つと飲ませていくうちに、蓮華がなくなった。



「くそぉ!!!」

「槇……ありがとう……。だが、……もう…………遅いみたいだ……」



 かおりも治癒魔法で手当てを始めるが、よくなるどころかどんどん悪くなっていた。



「ディグロ……、葬式はするなよ。…………するなら結婚式で………………見送ってくれ。……いや、お前らを見守ってやる」

「ふざけんなよ!! こんな……こんな……」

「お前の…………晴れ姿……を見れないのは……ちと残念だが……」

「みてくれよ!! オレはお前になんにも見せてやれなかったんだ! 優勝もできなかったし、」

「いいんだよ……。それでもお前がここまで育ってくれただけで…………嬉しい」

「ふざけんなよ! ふざけんなよ!」

「ディグロ! 泣くな! パージャの前で泣くことは許さん! 男なら笑え! 苦しくても笑え! それが、オレの血を引くもののサガだ!」



 そう叫んだ瞬間、かおりはダグラスの心臓が止まったのを確認した。


 関係ない。


 関係ないのに、かおりは泣いていた。

 槇は目を反らし、康貴は叫ぶ。

 ディグロは、ディグロだけは泣かなかった。

 泣けなかった。

 最後の、自分の目指していた背中との誓いを守るために。泣くことはしなかった。

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