黒き選手
すぐに決勝戦を行いたかったが、槇の治療に時間がかかっていた。場のボルテージは上がったままで今にも暴動が起きそうなほど不安定だった。
その予想が当たるとは誰も想わなかっただろう。
会場が爆音に包まれた時、かおりは槍を持った。
「おら! 槇ってやつ出しやがれ!」
ステロイド兄弟であった。無意味に叫んでは爆弾を投げていた。かおりは指をパチンと鳴らし、爆弾を全て凍らせ不発化する。
「雑魚は引っ込んでなさい」
「うるせぇ! メスは黙ってろよ!」
そう言った瞬間、背後に回る影。次の瞬間にはステクは吹き飛んでいた。
「うっしゃホームラン!」
「あれ? 康貴キズは?」
「ん? もう治った」
ケラケラと笑っている。裏でかわいいお姉さんに治療でもしてもらったのだろう。
「このやろう!!」
ドロイがナイフを振り上げる。その瞬間に彼に冷気が触れた。
「ねぇ? 冷たいのは……好き?」
かおりがドロイの頬に触れる。するとたちまちに凍りつき動かなくなった。
「てめぇら! 許さねぇ!!」
そう言い放ってドジャルガは巨大な爆弾を取り出した。
「これに火を入れればここに風穴が開く! がははは! 参ったか?」
「じゃぁつけてみるか?」
槇が導火線に火を入れた。
「え? ちょっ! 何してくれてんだよ!!」
「いや、入れるんでしょ?」
「普通入れないでしょ!」
慌てふためいているドジャルガをかおりが爆弾ごと突き刺す。次の瞬間には氷像と化していた。
一瞬の戦闘。まるで劇を見ているようだった。
まわりの観客は拍手で3人を称えた。
「なんか、場外乱闘があったみたいだが、本番はこっちだぜ!! 槇選手! 上がって上がって!!」
「おっ、わりーわりー」
舞台上に2人が立つ。
「まずは!
期待の新星!
炎を纏うその姿は、精霊イフリートの如く猛々しい!!
槇!!」
大きな拍手と歓声。槇の人気はこれでもわかった。
「そして!!
黒いマントに全てを隠し、対戦者を闇に引き入れんとする、地獄からの使者!!
ハリナ!!」
こちらも大きな拍手と歓声。槇はしっかりと相手を見ていた。漆黒のマントを頭から被り足まで隠していて見えているのは口元と細く小さいであろう体格だけであった。
慎重に行きたかったが、長期戦に持ち込めるほど体力はなかった。剣を抜き、始めから剣の形を変えた。
槇の本気をとらえたのか、ハリナもマントから腕を出す。左手の白い剣。右手の黒い剣。2つで1つのようなその剣心は美しかった。
「いくぜ! 最後の戦い! ジンドゥム!!」
ゴングが鳴り響いた。
『悪魔の囁き』
ハリナは黒い剣を舞うように振り回すと、その斬道に沿って黒い斬派が槇を襲う。槇はそれを上手く避けながら接近する。
『悪魔の怒り』
刹那、槇は宙を飛んでいた。
黒いマントが華麗になびき黒い剣の先は空を向き、その軌道が地面から黒い閃光によって導かれていた。
『円舞』
その剣を回転しながら地面をすりながら落ちてきた槇を貫こうとする。
火炎が散る。
黒い剣と炎の剣が交わる。
その瞬間の波動はぶつかりあった2人を吹き飛ばした。
ハリナは上手く着地し、槇は柵に背中をぶつける。
「っんだよ!」
痛みに抗ってすぐに飛び出るとハリナは白い剣を突き出す。
『破創︰叢雲』
白い剣が光り出す。
槇は嫌な気配に咄嗟に飛び上がる。
舞台上に黒い雲が立ち込める。
「おしまいだ」
フードの奥で瞳が黒く光ると雲はハリナの回りに集まる。
「あれって……!」
かおりはあの魔法を知っていた。
そう、あの男のよく使う魔法だ。
「やばっ」
黒い雲は2人を埋め尽くす。
瞬間目の前に現れた殺気に剣を振る。
それは実態もなく消え去ったと思えば今度は右から。
今度は左から。
上から。
下から。
「くそやろう!!」
溜めていた魔力を一気に解放して巨大な爆発を生む。
それにより雲は晴れた。
爆炎で見えない領域を康貴は眺めて溜め息を吐く。
「あれに……勝たないとダメなのか」
舞台が叩かれる音がする。その数秒後にスタッという音も響いた。
爆炎は次第に消えていき倒れている者、立っている者を示す。
「勝者!! ハリナ選手!!!」
醜くそこに倒れている者を見て恐怖する。
「まだ……勝てないの?」