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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第9章〜〈ジンドゥム〉
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ディグロの本気



「康貴くん強い!!」

「パージャ、あの司会の人と一緒にやったら」



 康貴の瞬殺劇を熱狂的に盛り上げているパージャは楽しそうであった。あまりに熱くていい加減嫌になったかおりは毒を吐き始めていた。



「お! パージャちゃんとかおりちゃん!! ディグロの番はまだかい?」



 そんな2人のところに仕事から脱け出してきた汗だくのアルシャがきた。



「あ! アルシャさん! 初戦は終わってしまいましたね」

「そうかい」



 残念そうな顔をして溜め息をついた。かおりはなぜか、アルシャに付けられた、左手薬指の紅い宝石が埋め込まれている指輪が気になった。



「あの、その指輪って?」



 アルシャはその指輪をみせながら、笑いながら語り始めた。



「これは、マルメリアの指輪よ。夫から貰ったのよ」



 ふーん。かおりはなんとなく首を振った。



「マルメリアの宝石は結婚を申し出る際に相手に渡すものなのよ。でもねぇ、貴重なのよね。あの山の奥にしかないのよ」



 さらにふーんであった。

 特に意味もなくパージャを見た。その話しを明後日の方向を見ながら聞き流していた。



 その後、3人とも第2回戦を勝ち、グループ内決勝戦が始まる。


 今舞台の上にいるのは槇とディグロである。お互いがお互いをある程度知っているからこそ生じる、張り詰めた緊張感が会場を静かに盛り上げていた。


 槇はディグロの小さな動きも見落とさない気で見ていた。勝てなくはない。ただ、負けたほうがいいのではないか。そんな八百長染みた行動をとるのが、ディグロのためになる気がした。

 そんな考えを積み上げていたら紹介が終わったようで、槇は剣を抜いた。



「行くぞ」

「来い」



 そして響くゴング。先制したのはディグロであった。速攻をかけ、槇に斧をふりおろす。槇は剣で軽く斧の軌道をずらし、隙が出来た体に蹴りをかます。

 その勢いにディグロは跳びながら下がる。



「やっぱ、一筋縄とはいかないな」



 ディグロは腰を落とした。

 力を溜めているのか、ディグロが気を纏い始めた。



「させねぇよ!」



 槇は阻止するため、剣に火を宿して振り、火の鳥を数体ディグロに放つ。

 全てディグロに直撃し、火に包まれる。普通ならこれで決着がつくはずだった。



「……いくぜ」



 火が一瞬で消え、ディグロの姿もなくなった。

 次の瞬間、目の前に現れたディグロ。すごい衝撃が槇を襲う。

 そのまま後方に吹き飛び、痛みを感じた次は背部に激しい衝撃。

 空中に飛ばされる。何が起こったのかもはやわからない。意識を辛うじて保ちながら剣を振る。

 しかし、それは少しだけ早かった。



「終わりだ」



 ディグロが槇の目の前に現れ、斧を振り下ろす。

 一瞬で舞台に叩きつけられる。

 槇の意識はすでにとんでいた。



「負けないで!!」

「負けちゃいや!」

「頑張って!」



 外野の声に反応を見せない。司会も恐る恐る判断する。これは間違いなく……、



「しん!!!」



 負けた方がいいのは確かだった。何かがあるのはわかってる。そこは察せる。

 だけど、どうしても譲れないこともある。




 かおりの声は、槇を本気にさせるには十分過ぎるエネルギーだった。咳き込み血を吐きながら立ち上がる。会場はそれだけで盛り上がる。



「さすがに効いたぜ」



 口についた血を拭うと剣を構える。

 ディグロは再び腰を落とす。



「でも、悪いな。勝たせて貰う」



 槇は剣の刃を鍔の方からさすっていく。その瞬間に槇から溢れ出る魔力がディグロの体を震えさせた。

 剣はより細く、より熱く燃え上がり、長さを二倍にする。ディグロは焦り瞬間的に近づく。

 槇は静かに目をつむる。明鏡止水とでも言うのだろうか。槇は思うほうに剣を振った。金属と金属が激しく交わる音。それと同時に柵に叩きつけられたディグロ。



『緋に滅せ』



 槇は剣を突き立て、ディグロに向けて地面を蹴る。

 剣先はディグロの顔をスレスレで外していた。



「そこまで!!」



 わざと外した槇の耳に入ってきた声。それは勝利した証であった。

 槇は剣を鞘にしまい、足早に舞台を降りる。



「くそっ!!」



 負け犬の遠吠え。ものすごく惨めだった。

 槇はかおりのもとに向かった。そこでは、複雑な顔をしたかおりとアルシャだけがいた。

 それだけで、なんとなく状況は読めた。やはり、負けたほうがよかったかもしれない。

 そんなことを思いながら、康貴の勝利をしかと見届けた。

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