鳳凰の威光
本戦第1グループ。2戦終了。次は槇の番であった。
会場は槇コールで埋まっていた。期待の新星レベルに捧げる様な叫び声は、もはや異常であった。
舞台に上がると、すでに先に出ていた男が不機嫌そうに座っていた。
「槇選手の勝ちでいいかな!?」
司会がそう呼びかけると、いいとも、と返ってくる。
「お昼の決まり文句か」
ついついツッコむ槇。
「まだ負けてないから!! まだ触れてもいないから!」
「ダイア選手黙って下さい」
ダイアと呼ばれた相手に対する野次が激しく、思わず笑ってしまう槇。
「おい、そこ! 笑うなっつうの!」
「いや、もうなんとなく負けとけって。ホーム過ぎるだろこれ」
槇は笑いながら剣を抜いた。
「あぁ、ムカつく!」
ダイアは手品のようにナイフを出した。ゴングが鳴り響く。
「一発で片付けてやるよ!!」
『千本蛾』
その言葉を叫んで両手を振り上げる。すると避けられないほど幅広く弾けないほど大量のナイフ槇目掛けて飛んでくる。
その威圧に怯む。出来る限り弾くが、やはり数本はかすっていく。ナイフの猛攻が終わり、槇がお返しにと地面を蹴ろうとした瞬間だった。
その意思とは裏腹に足は動かず、むしろ倒れていった。
「槇!!」
かおりの叫び声など聞こえないほど会場全体のガンバってコールが激しかった。
「降参しろ。ナイフには毒が塗ってある。知っている人は知ってるツボクラリン」
「くそう」
「殺す気はない。はやく……」
槇が燃えあがった。それを見て観客は悲鳴をあげる。
「なにしてる!!」
その火は、縦に高くなり、消し飛び、槇の立ち姿を見せる。
「ツボクラリン? 骨格筋弛緩作用を持ってる、矢毒に使われるやつだろ」
「どうして立てる!?」
「そんなん、燃やしちまえば関係ねぇよ」
槇が地面を蹴り、斬りかかるが飛んで上空に逃げられる。
槇はダイアを追って飛び上がる。
「くそやろう!」
ダイアが手を振ればナイフが飛ぶ。それを弾き、躱しダイアより高く上がる。
「仕返しだ」
火が剣先から灯り段々と剣を喰らい、手を伝って体全体に纏わせる。その姿はまるで鳳凰であった。
クチバシをダイアに向け、真っ直ぐ落下していく。
舞台上に当たると火柱が立ち、強烈な熱風で観客さえも吹き飛ばす。
全てが収まると、その場にたっていたのは槇。その剣先はダイアの首を捕らえていた。
「あんたさ、舐めすぎ」
拍手喝采。鳳凰の威光に心酔する人々は轟々と吠え、そして怯えた。かつてこの国を征していた王の力だと。
「勝者! やっぱりシーーーン!!」
そんなことお構い無しの盛り上がり。
槇は剣を収め全ての火を消しきった。帰り際に片手を上げながら舞台を降ると歓喜と卒倒が起こった。
どこかでまた舌打ちを打つ音が聞こえた。