怒りの意味も
2日目。
勝ち上がり戦となる本戦は4グループに分けられており、1グループに8人が分配されている。
槇は第1グループ。
康貴は第2グループ。
ディグロは第1グループ。
運命というものは時に残酷な問題を仕掛けてくる。
「なぁ、オヤジ」
ディグロが舞台に上がる直前、ダグラスに聞く。
「優勝したらマルメリアの宝石でもくれるのか?」
ダグラスは静かに驚いたが、小さくあぁと呟いた。
「なら頑張れそうだ」
ゆっくり舞台に向かっていった。
「さぁ始まりました!
本戦!!
明日に駒を進められるのはグループで一番の4人のみ!!
この本戦を盛り上げてくれるのは!!」
ディグロが緊張した面持ちで舞台に上がった。
相手はディグロと同じくらいの歳の、ディグロよりは体が一回り大きい男であった。
「よぉディグロ。元気かよ?」
完全に舐めた口調で喋りかける。ディグロはバンダナの下の目をそいつに向けるが、黙ったままだった。
「そうそう。君のお父様が優勝したらなんでも好きなものくれるって言うからよ。オレはパージャを貰おうと思うんだよ」
その言葉が会場に響き渡ったその時、ディグロの斧がその男の首間際に迫っていた。その大きな斧を止めたのはダグラスであった。
「まだ始まってない」
「ひっひぃ。まったくカッカするんじゃねぇよ。ま、ディグロがオレ様に勝てるわけないけどな」
粘りつく言葉に、ダグラスの斧が少し押される。
「ディグロ。下がれ」
ダグラスの言葉にディグロはダグラスの斧を突き返し、男に背を向けて対角線上に向かっていった。
「さぁ!
始めから心理戦が行われているようだが、そろそろ本番に移ろうぜ!」
ゴングが鳴り響くと、ディグロは真っ直ぐ男の首を狙う。
「へへへ! だからお前はオレ様に勝てないんだよ!!」
男が指をパチンと鳴らすと、ディグロの進む真下から炎が沸き上がり、ディグロを消す。
「おーわり」
男が再び指を鳴らすと炎が小さく弾け出した。次の瞬間、炎は大爆発する。その場にいる全員がしゃがんだが、パージャだけは舞台上を見つめたまま立っていた。
「ディグロ!!」
爆発した辺りにはその姿はなかった。パージャの側にヒラヒラと、赤いバンダナが落ちていく。
「ほら終わり! 情けねぇぜ!!」
男は腹を抱えて笑った。
勝利を確信して笑った。
その刹那だった。
男は前に吹っ飛ぶ。
「だれが情けないって?」
柵にぶつかった男は地面に這いつくばりながら吐血していた。ディグロは男の前で斧を高く振り上げた。
「パージャはやらねぇ。つうか、オヤジのものじゃねぇ」
「そこまで!」
ダグラスの叫び声が響いた。
「これ以上の戦闘は不可能と判断。よって、勝者は……」
「……ディグロ!!」
油断していたのか、司会がタイミング遅れで叫んだ。男が担架で運ばれて行くなか、ディグロはゆっくりと舞台から降りていた。
そこにはパージャがいた。
「あんなムチャなことしないで!!」
「す、すまん」
半泣きの目でしっかりと見つめているパージャから目をそらした。そんなディグロにバンダナを投げつける。それは力なくディグロに当たり、地面に落ちていった。
「でも、よかった」
「……ん?」
「なんでもない!」
パージャはかおりのもとに戻っていた。ディグロは落ちたバンダナを拾い、しっかりと着ける。