強制参加
夜は明けて朝になり、再び祭りの準備が始まった。
槇と康貴は相変わらず木材をあっちこっちに運んでいた。ほんの一時間やって座り込んでしまったが。
「暑い!!」
康貴は大声で叫び地面にねっころがった。そこにダグラスが愉快そうな顔をして2人に近づいた。
「おぃ、休んでんじゃねぇぞ」
「ちょっとぐらいいいだろ。これ以上やったら倒れちまうよ」
「いいから立てや」
しごかれている2人に近寄るのはバンダナを着けていないディグロだった。
「父さん。サンサさんが呼んでるよ」
「お! またあばら折れたとかほざくのか……?」
ダグラスは溜め息を1つついてその場から離れた。
「大丈夫?」
ディグロは持ってきていたコップを2人に渡した。
「ありがと」
「センキュー!!」
康貴はコップの中に入っていた水をがぶ飲みし、肺にでも入ったのか咳き込んだ。槇はそんなことも気にしないで一口飲み、ディグロに聞いた。
「なんでバンダナ着けないんだ? やっぱり、なんか意味あるよな」
「ないよ。ただ着けたくないだけ」
意味深に呟いてディグロは仕事に戻った。何かあるのはわかっていた。話したくないならムリヤリ聞く必要がない。
槇は立ち上がり、咳き込んで死にそうな康貴を無視し木材を持った。
「っにしても暑いな」
空は快晴だった。太陽はギンギンに射し、暑いより痛いが先にくるくらいだった。その日射しを避け、室内で器具類の掃除をしている女子群に混ざってかおりは辺りに水をまいていた。
もちろんパージャもである。
「ねぇ、かおりはジンドゥムに出るの?」
「ん? ジンドゥム?」
かおりは頭を傾けた。
「え! 知らないでこの祭りに来たの!?」
パージャの反応は明らかにかおりを不安にさせた。
「ジンドゥムは簡単に言うと武術大会。このお祭りにこんなに人が来るのはジンドゥムを見たいがためってのもあるのよ」
「へー」
少し興味が湧いてきたかおり。
「ジンドゥムで優勝すると、英雄の勲章が貰えるのよ。それはこの国で3将と同等の力を得た人なの。つまりこの国最強」
「パージャは出るの?」
パージャは不意を疲れたようで言葉に詰まった。
「出ないよ。私弱いし」
かおりはパージャがこんなことを言うのはなにか裏のあることだと思った。誰かの優勝を阻止したい。そんなところだろう。
そのまま正午を報せる鐘が鳴った。
お昼休み、かおりとパージャは槇たちの所でアルシャの作ったおにぎりを食べていた。だがしかし、パージャとディグロが黙って喋らない。
気まずい雰囲気が流れていた。そこにダグラスがまた寄ってきて、5人に爆弾を落としていく。
「よしお前ら、ジンドゥムに出ろ」
槇と康貴の頭にはハテナマークが出た。それに気づいたかおりは小さな声で武術大会であると告げた。
「いいな」
「私はちょっと……」
パージャが遠慮がちに言うとかおりもそれに便乗した。
「私も、まだケガが……」
「ん? しょうがないな。じゃぁ、3人な」
「っておい! ムリヤリかよ!」
男子3人は同時に突っ込んだ。
「当たり前だ。出なきゃ祭り中ずっと逆立ちだ」
何故か鬼畜のダグラスに3人はそれぞれ落胆した。
「明日っから祭りだ。ジンドゥムで優勝出来たら好きなもの1つやろう」
その言葉にディグロがやけに反応した。
「父さん、ホントだな?」
「あぁ。男に二言はねぇ。だからって世界とかはムリだがな」
そう言って、大人どものほうに向かっていった。
「なぁ、槇。それだけじゃつまんないからよ、優勝したらかおりとデート出来るってのはどうよ?」
康貴がムダにやる気になってきていた。むしろ、バカみたいな提案に槇は溜め息をついた。
「バカか? お前なぁ……」
「私いいよ」
「え!」
かおりが了承した。予想外の言葉に槇は声を裏返してしまった。
「よっしゃぁ! やる気が出てきた!!」
飛んで喜ぶ康貴。
「かおり、なんでだよ!!」
槇がそう言うと、
「その方が真剣になるでしょ。槇は」
たしかに、と心で思う槇は敵わないと溜め息を吐いた。
そこで昼休みは終わり、準備の最終段階を始める。
そして、長い長い祭りが始まるのであった。