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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第9章〜〈ジンドゥム〉
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一家団欒



「ここにいたか」



 そこにダグラスが槇と共にやって来た。



「パージャ、お疲れ」

「お疲れさまです」



 パージャは丁寧に頭を下げた。



「相変わらず礼儀正しいな」



 ダグラスは図太い笑い声をあげる。



「よし、帰るぞ。パージャも家来るか?」

「すみません。今日は弟たちにゴハン作らなきゃいけないんで」

「そうか」

「折角のお誘い……」

「いや。ムリ言ってすまない。いつでも来いよ」

「ありがとうございます」



 パージャは駆け足で自宅に走って行った。それを最後まで見送り、左目をかおりに向けた。



「どうでもいいが、アイツはなにがあった?」



 ダグラスが指差した先には康貴が伸びている。かおりは冷静に、



「知りません」



 と答えた。ダグラスはにも考えずに康貴を持ち上げ背負った。



「着いて来い、案内する」



 ずてずてと歩いていくダグラス。こんな展開が多い気がするかおりはクスリと笑い後を着いていった。

 ダグラスの家に着いた。入ってすぐの横にある部屋が開けられた。庶民的で、広くない部屋になんとなく気持ちが落ち着くかおり。



「すまんが、この部屋1つで勘弁してくれ」

「いえ。泊めて頂けるだけでありがたいですから」



 ダグラスは容赦なく康貴を畳まれている布団の上に捨てる。



「今、アルシャがメシ作ってるから、少し休んどけ。出来たら呼ぶ」

「あ、はい」



 ダグラスは部屋から出ていった。室内は意外と涼しく、ムシムシした湿気もない。クーラーでも効いているかのような感じであった。



「あぁ。疲れた」



 槇も康貴の寝ている布団に飛び込む。



「起こして」


 そう呟いて目を瞑ってしまった。かおりは2人のみっともない姿を見て深く溜め息を吐く。かおりも長旅に疲れがあった。槇は、いつも夜は見張りをしていた。そう思うと、寝かせてあげたくなるのだった。

 かおりは部屋から出て、取り合えず左を向き廊下を直進した。すぐに広い居間のような場所に出た。

 そこにはアルシャが野菜を食べやすい大きさに切っては大きな鍋に入れる。かおりはアルシャに近づき、



「アルシャさん。なにか手伝うことはありますか?」



 そう聞くとアルシャはビックリしてかおりを見つけた。



「かおりちゃんじゃない。泊まるってあなただったのね。うちの旦那、寡黙だからさぁ」



 けらけらと笑った。



「じゃぁね、机にお皿並べておいてくれるかしら。お皿はそこに入ってるから。6人分ね」

「はい」



 かおりは言われた通り皿を並べる。すると、急にあらわれたカレーのいい香りに鼻が反応した。かおりは思わず近づき、鍋の中身を覗いた。



「美味しそうですね」

「あら。ありがとう」



 アルシャは持っていたヘラを放置し、火に水をかけて止めた。



「出来上がり。かおりちゃんは友だちを呼んできなさい」

「はい」



 かおりは走って貸してくれた部屋に戻り、爆睡している2人を蹴り起こす。



「出来たわよ」



 槇は半分寝た状態で、康貴は香りにそそられているのかやけに元気に居間に向かった。すでに席に着いているアルシャとダグラス。

 3人は適当にカレーライスとサラダが並んでいる席に座った。まだ一ヶ所、席が空いていた。



「ゴメンねぇ。ちょっと待ってね」



 と言ってから叫ぶ。



「ディグロ! 早く来なさい!」

「ちょっと待てって!」



 そこに、ひょろひょろの、茶髪の、赤いバンダナを頭につけている、ディグロがそこに来た。



「お! ディグロ! カッコいいじゃん!」



 康貴がバカみたいにそう言い放ったが、あながち間違ってはいないとかおりも思った。



「別にカッコよくなんかねぇよ」



 ディグロは空いている席に座りながら呟いた。



「カッコいいよ! なんで仕事中はバンダナしてなかったんだよ!」

「別になんでもいいだろ」



 ぐー。槇のお腹が鳴った。



「はらへった」



 この部屋を笑いが埋め尽くした。



「そうだな。さぁ、みんな両手を合わせて」



 ダグラスの言うことに従った。



「生きるものとして

 戦いの場たる

 壇上の

 騎士の力となる

 真名愛つきし命の

 全てに感謝します」

「いただきまーす!」



 フライングした康貴はすでに一口目を口に入れ、ハフハフしていた。他の人たちも食べ始める。



「……ぅぅまい!!」



 康貴が急に叫び、食べるスピードが速まった。



「おかわり一杯あるから食べてね」

「おかわり!」



 康貴とダグラスが同時に皿を突き出した。



「ボウズ、甘かったな。オレの勝ちだ」

「オレの方が早い!」

「アルシャさん。オレもおかわり」

「母さん、オレも」

「みんな早い……」

「はいはい。順番ね」



 とても賑やかで、楽しい、温かい食卓。久しぶりの温かい食事。今あるものが、全てカレーのスパイスになっていた。

 一家団欒。

 こんなにいいものだと、改めて感じた瞬間であった。



「ごちそうさま!」



 全員がそう言って食卓を離れていった。部屋に入るなり槇と康貴は布団にもぐった。



 すでに真夜中。かおりは外に出た。生温い風が山から吹き出してきていた。かおりはゆっくりと中央広場に出て、木材が積まれている場所で腰を下ろした。



━━━━また会いましょう。その時は仲間がいいな━━━━



 あの暗号が頭をよぎった。助けられなかった。しかし、殺す気でいた。

 矛盾が自分に覆い被さり、雁字搦がんじがらめになっていた。自分達に深く関わろうとした人たちは、皆死んだ。これからもそうなるだろう。



━━━━死神━━━━



 かおりはこんな言葉を思い出した。人が通った道は、草木は枯れ、人が吸った空気は腐り、人が踏んだ土は毒と成る。短い言葉だが、今の自分達を表すには十分であった。泣くに泣けなかった。泣いたら、メリーに失礼な気がして。

 それでも、涙は出てくる。溢さないよう空を見上げた。そこには2つの月が堂々と丸く光っていた。

 青く。

 赤く。

 あの時、あんなに光れたら、堂々といられたら、誰も殺さず、死なずに済んだんじゃないか。

 勝手な妄想を歌ってみた。人生は物語ではないのはわかっている。悲劇のヒロインなんて演じたくない。それでも、悲劇の渦中にいた。1人で背負い、全て自分のせいにして、



「昔のままじゃない」



 自分の左手を目の前に出す。手相を見るように手を開く。生命線は薄れてほとんど見れない。戦いの代償と言えるのかもしれない。なのに、手首にあった二筋のキズはハッキリと残っていた。こっちの方が消えて欲しかった。


 いや、あった方がいいのかもしれない。かおりの生きている意味があるから。

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