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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第9章〜〈ジンドゥム〉
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ダルザイン



 讃夜まで後、49日。

 塔から8日かけ、ようやくダルザインまでついた。

 ダルザインとは、温泉の名所であり、観光客がちらほら見れる。辺りの硫黄臭は鼻をつまみたくなるくらい強烈であり、それだけで効能がありそうである。火山が近いからか、気温は基本日中で30℃を裕に越え、なんとなく水着の人が多いのも納得がいく。



「あーーーーー…………つい!!」



 康貴が相変わらず暑苦しく叫んだ。



「騒ぐなクソが。余計暑い」

「暑いんだからしゃぁないじゃんか」

「暑いって騒いだところで気温は下がらないっつうの」

「暑いもんは暑い」

「暑い暑い連呼すんなバカ」

「バカって言うなって言ってんだろバカ!」

「しょうがないだろ。バカなんだから」

「バカじゃないっつうの!」

「うるさーーーい!!」



 きっと永遠に続いたであろう2人のやり取りをかおりが止めた。おかげで辺りの人の視線を集めてしまった。



「とにかく、宿」



 スタスタと歩いていくかおりに、2人はにらみ合いながら歩いていった。

 しかしながら、どこの宿も爆発寸前なほど満室であった。すでに13軒断られている。3人が苛立っているのもムリはなかった。

 とにかく中央広場に出れば、空いている宿の情報を拾えるのではないかという考えで中央広場に出た。


 そこでは、大柄な男たちが、汗を滝のように流しながら屋台やら会場やらを建てていた。まさにお祭りの準備であった。



「お、てめーら」



 ふてくされた顔の3人を見つけた男が寄ってきた。



「あ!」



 康貴が一番始めに反応した。



「よう、元気か?」



 低い声が3人の鼓膜を振るわせた。右目に三本の斬られた痕で完全に閉じ、開いている左目の瞳は茶色。

 長めの茶髪は赤いバンダナによって上げられていた。その特徴から、あの人しかいなかった。ゲゼアルで出会った、かおりの毒の治癒法を教えてくれた、あの人である。



「誰だっけ?」



 間抜けな康貴に槇とかおりは同時に頭を殴った。呆気に取られた男はその様子を見て吹き出し、



「こりゃぁ傑作だ!」



 腹を抱えて大笑いする。



「ごめんなさい、ダグラスさん」



 かおりがぺこぺこ頭を下げるなか、康貴は、いたぁ、と呟きながら後頭部を擦っていた。



「ところで、どうした? こんなところに来て」



 ダグラスはそう問うた。



「話すと長いんですが、……」



 槇はこれまでの経緯をダグラスに説明した。



「ほう。あれを集めて、最後の黒煙石を取りに来たんだな」

「黒煙石って名前なのかは知りませんが、そんな感じです」



 少し複雑な顔をし、すぐに顔を戻した。



「まぁ、黒煙石取ろうにも、火山に入るには6日待たなきゃならんな」

「なんでですか?」



 かおりは首を傾けた。



「あの火山に入るには、年に一度の祭りの最後の儀式の時のみにしか入れん。これはずっと続いている仕来たりだ。特例や特別はない」



 それを聞いて、かおりは肩の力を抜いた。やる気が削がれたのだ。



「まぁ、祭りでも楽しんでけ。少しは休息も必要だろ」

「休息が必要なのは承知ですが、宿が……」

「空いてないだろ」



 わかりきっていたかのように返すダグラス。



「なんせ、大きな祭りだ。国中の人が集まるくらいのな」



 それなら納得がいくようで、康貴は頷いた。



「嫌じゃなきゃ家に来い」



 その言葉に耳を疑った。



「……いいんですか!?」

「いいが、祭りの手伝いをしろ」



 やっぱりかと呟く槇。



「イヤならくるな」

「やりますとも隊長!」



 槇は声を張って敬礼をした。



「わかってるじゃないか。なら、早速手伝え」

「いきなりかよ」

「つべこべ言ってねぇであの木、運べや。女はあっちで仕込みの手伝いだ。ダグラスに手伝わされてるって言やぁやり方くらい教えてくれるさ」



 それだけを言い残し、槇と康貴を連れて木材が置いてある場所に行った。



「あぁあ。行っちゃった」



 かおりはしょうがなく、ダグラスの指差した小屋に向かった。



「失礼します」



 扉のない入口を入ると中では多くの女性が、串に肉を刺したり、トウモロコシの草や毛をもいだり、キャベツやニンジンを食べやすいように切ったり、とにかく色々なことをしていた。



「ん? どうしたんだい? 迷子?」



 この場を仕切っているであろう、ふくよかで笑顔が似合う女性が話しかけてきた。



「あの、ダグラスさんが手伝って欲しいって」



 そういうと女性は笑顔になり、



「そうかいそうかい。夫が無理強いしたのかい」



 正解である。



「私はダグラスの妻、アルシャ。よろしく」

「あ、よろしくお願いします」



 お互い一礼。



「じゃぁ、パージャ! この子に教えてあげて」



 アルシャがそう叫ぶと、かおりと同い年くらいの女性が近寄ってきた。



「後は任せたよ」

「はい」



 アルシャはどこかに行ってしまった。きっと仕事が残っているのだろう。



「よろしくね」



 パージャはニッコリ笑った。



「よ、よろしくお願いします」

「そんなに固くならないで」

「は、はい」

「敬語もやめて」

「うん」



 パージャはクスリと笑った。



「なんか、親近感」



 意味不明な言葉を聞き、かおりは頭を傾げた。



「いやね、私もここに来た時は馴染めなかったの。皆さん、私と一回り年が違うから。やっと同い年の子が来て少し嬉しいんだ。そうだ。名前なんて言うの?」

「か、かおり」

「かおりって呼んでいい?」

「うん」

「私はパージャ」

「パージャ……さん」

「だから!」

「パージャ」

「そうそう」



 2人は顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。かおりに取っては、久しぶりの女の子との会話。それだけで、少し癒されていた。



「ほら! パージャ! さっさと仕込み! 祭りに間に合わないよ!」

「あ! すみませんアルシャさん! かおり、こっち」



 パージャはかおりの手を取り、指定の場所に向かった。

 そこでは、数人がパイナップルをカットしていた。



「かおりは、クリャシカを木の棒で刺して、私にちょうだい」



 いたって簡単なお仕事だった。取り合えず木の棒を持ち、クシャリカと呼ばれた、間違いなくパイナップルのそれに刺す。



「かたっ!」



 意外にも入らず、目一杯力を入れてやっと入った。隣でパージャが笑っていた。かおりは刺したやつをパージャに渡すと、馴れた手つきで袋に入れ、紐で口を結んだ。



「一杯あるからがんばって」

「うん」



 かおりは次のクリャシカに棒を刺していく。それだけの仕事をこなしていった。



「おわったー!」



 溜め息と共に歓喜とも思える声があがった。



「かおり、お疲れ」



 パージャも最後のクシャリカを包装して、箱に入れた。



「パージャもお疲れ」



 クシャリカを切っていた人はすでに他の仕事に移っており、その場には2人だけだった。



「そう言えば、かおりはどこから来たの?」

「え!?」



 かおりは返答に困った。こんなこと簡単に人に話していいのだろうか。



「マールから来たんだ」

「そうなんだ! マールってお花綺麗だよね!」

「うん。花畑とかに行くとお姫様になった気分だよね」

「そうそう」



 咄嗟についたウソ。しょうがなかった。本当のことを知った人は、ほとんど死んでしまっているのだから。


━━━━これ以上、目の前で誰も死なせたくないのだから━━━━


「かおりもお祭りを楽しみに来たの?」

「うん。まぁ……、そんなところ」



 そんな時、外で聞き覚えのある声たちがケンカしていた。それを聞いてかおりは溜め息を吐き、近くにある窓の外を見た。

 やっぱりだった。槇と康貴が言い合いをしている。かおりはまた溜め息を吐いた。



「ケンカね。なんであんなにいがみ合ってるのかしら。男ってバカよね」

「ホンッットにバカ」



 頬杖をつき、少し眺めていた。



「いつまでうじうじしているのかしら」



 パージャはボソリと言った。かおりはそっと目を横に移し、その言葉が語る意味を探った。視線に気付いたパージャは手を目の前で大袈裟に振り、



「な、なんでもないよ。こっちの話し」



 完全に動揺していた。



「ふーん」



 ニヤリと不適な笑顔を浮かべ、かおりはパージャが見ていた先にゆっくりと目を移す。

 そこには、槇と康貴の中に入って仲裁している、ひょろひょろの男が目に写った。



「あの人?」

「だ! だからなんでもないって!!」

「ね! あっち行こ!」

「だ……、きゃぁ!」



 パージャは手を引かれながら走らされ、仕事をしている女性の視線を浴びながら、日も暮れ、無数のろうそくが鮮やかなに輝いている中央広場に出た。そこで止まらず、その勢いで男どものいるそこに向かう。

 かおりは気付いた。パージャの手が汗ばみ始めたのを。



「だから、テメェはバカなんだっつうの!」

「だからバカっつうな!」

「止めなよー」



 槇と康貴はお互い胸ぐらを掴み、ガンをつけあっていた。一触即発。今にも殴り掛かろうとしたその時だった。康貴は顎を蹴られ吹っ飛び、槇ひ殴りかかった腕を取られて一本背負いで投げられていた。



「いつまでケンカしてんのよ! ッバカ!」



 ボケってしている2人を見て、また溜め息が出てしまった。



「か、かおり!」



 パージャがかおりのそばにより、倒れている2人の安否を確認する。



「いってぇー」



 槇は服についた砂を払いながら起き上がるが、康貴は市場に上げられたマグロのようにピチピチと跳ねていた。



「痛いじゃなくて仕事しなさい!」

「オメェも投げる前に仕事しろよ!」

「終わってるのよ!」



 勝ち誇ったように腕を組み、自分より背の高い槇を見下ろした。

 すると槇は舌打ちを打って、落ちていた木の棒を拾い1つ溜め息を吐いて屋台の方へ向かった。



「まったく」

「かおりカッコいいね!」



 ビックリした。急だったのだから。背後にいるパージャを見て、目を光らせているのに少し引いた。



「ま、まぁね」

「それに比べて……」



 パージャの視線がかおりから、ひょろひょろの男に移った。



「ディグロはなにやってたの?」

「お、オレは! ……ちゃんと止めに入っただろ……」



 ディグロと呼ばれた男は逃げるように視線を横に流した。



「ちゃんと止まってないじゃない! それでもダグラスさんの息子なの!?」

「……っ!」



 ディグロは怒りに満ちた顔になり、そのまま何処かへ走って行ってしまった。パージャが溜め息を吐いた。



「いつまで弱虫やってるのよ……」



 悲しそうな目をしていた。その先に何を見ているかなんてわからなかった。かおりはその気持ちを、なんとなく共感し、共鳴していた。自分の理想が高いのはわかっているけれど、求めてしまうものなのだ。



「今日は終わりにするぞ!」



 その時、ダグラスの声は響いた。各人、ついていた場所から離れ、バラバラに歩いていく。



「終ったね」



 かおりがそう呟くと、パージャは小さく頷き辺りを見回す。探し物は見つからないのに。

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