悲しき氷の翼
メリーは簡単に銃弾を三刀の槍で弾き、アイススケートのように地面を滑り間合いを詰めていく。
そして背後を取り、槍を横に振る。
かおりは俊敏に反応して気弾の種類を変え、地面に撃つと上昇気流が起き飛び上がった。
体を捻らせ地面を向き、メリーに銃口を向ける。
『射舞』
そう叫びながらトリガーを引くと、一発で無数の弾がランダムに放たれた。それを連射する。
メリーは槍を両手で掴みかおりを見上げ、槍を素早く回転させる。弾は全て弾かれる。メリーはかおりよりも高く飛び上がる。
かおりは銃を後ろに向け適当に撃つと、たまたま右肩に弾が当たった。それをもろともせず、槍を突き刺し落下する。その加速度は通常より大きく、車と衝突する程の衝撃がかおりを襲った。
「さぁ、降参しなさい。今なら懲役だけで済むかもしれないわよ」
かおりの上に乗るメリーはそう呟く。それを答えるほど体力が残っていないことは知っていた。
「そぅ、降参ね」
「…………だ」
「っ!?」
刹那、爆発的な力がメリーを吹き飛ばした。かおりは溢れ出る気を纏い、メリーを見る。
「……まだ……まだ! 終わらない!」
メリーはすぐに立ち上がり戦闘体制を取る。
かおりはまた弾をむやみやたら撃つ。メリーはそれを弾くが何かがおかしかった。すぐに弾くのをやめ、避けつつ間合いを詰める。
『射舞』
再び乱舞する炎を纏った銃弾。メリーはさっきと同じく槍を回転させるが、堪らず大きく飛び上がる。
「重い……」
空中に向けられる銃口に反応して、先手を打ち目の前に氷の壁を作る。氷の壁は銃弾を弾き、そのままかおり目掛け落ちていく。
『オーバーブースト』
メリーはかおりの魔力の急激な高まりに恐怖を覚えた。
『鐘麟』
2つの銃を並べ同時にトリガーを引くと、銃口に青白い光が渦を巻いて集まり巨大化していく。チャージが終わると細長い持続的な弾が放たれる。それは氷にヒットし、当たったところで拡散する。
「ちっ!」
メリーは砕ける氷から離れ、地面を滑る。
「ここで覚醒するなんて」
「覚醒? 何言ってるかわからないけど、今なら勝てそうな気がする」
かおりは銃口をメリーに見せる。
「かおりちゃん。ホントに……、」
かおりは、もう躊躇いなく地面を蹴る。
懐に潜り一撃放つが、メリーは美しく反って避けそのままムーンソルトを食らわせる。
空中を飛ぶかおりは一回転して体制を整え、2発撃つ。当たり前のように避け、一気に間合いを詰め槍を突き出す。
銃で槍の軌道を反らし、左手に持っている銃を右肩に限りなく近づけた。
『罵霧』
物凄い衝撃がメリーを襲い円状のフィールドの端まで飛ばされる。しかし倒れることなく、また滑り出す。
「スゴいわね」
かおりは連発するが、メリーの滑るスピードには追い付かなかった。
「こんな短時間で」
「ここまで使いこなせるなんて」
「でも、」
「あなたはまだ知らないわ」
「いくら強くなっても」
「大切なものは守れないで」
「苦しんで」
「泣いて」
「簡単なのに」
「潰える」
「ただ未熟な自分に」
かおりは打つ手を止めなかった。
「私もこんなかたちで合いたくなかった」
メリーは瞬間移動のようにかおりの背後に回った。
それは予想済みだった。
『罵霧』
再び右肩に入る強撃。それによって肩部分に纏った氷の鎧は砕ける。
トドメをさしに来たかおりに槍を振る。
かおりも反応し避けると氷の珠を放つ。
「あなたとなら、もっと仲良くなれる気がした!」
メリーはジグザグに滑りながらかおりの攻撃を避けていく。
「マールの近くの森にあったお墓」
メリーが振る槍をマガジン部分で止める。
「あれ、テオくんとミーちゃんのお墓でしょ」
力負けし、後ろに飛ばされるが諦めず地面に銃口を向ける。
「あれ、あなたが作ったんだ」
撃つとメリーの下から無数の氷の槍が襲いかかる。
それを予測していたのか華麗に滑りながら避ける。
「なんで! なんでそんな事するのに、殺したの!!?」
メリーは刃を振る。すると空気が凍り、氷のナイフとなりかおりを襲う。
「仕事は仕事」
かおりの銃口から炎が吹き上がり、氷は水に変わる。
「でも、あの2人の姉なの。ずっと前から」
「それなら殺さなくても」
メリーはかおりの背後を取った。
「そうね。殺さなくてもいいなら、殺したくなかったわ」
「酷いよ……」
槍を突き出す。これで終わりだと。
「こんなことって、酷いよ」
メリーの足下に赤い魔法陣が浮かび上がる。それは間違いなく、罠だった。
強烈な炎がメリーを飲み込む。
かおりは銃を下ろし振り返った。
「私の勝ち」
炎が止まると、鎧が剥げたメリーがその場に膝をついた。
それを見るかおりの顔は、悲しみに浸っていた。
「……そうね。あなたの勝ち」
「降参して。殺すつもりはないから」
槍は消えるように融けてなくなった。
「はじまりはゆうしゃのみちびき」
メリーはそう謳って続けた。
『負けたわ』
『楽しかった』
『どうしても』
『これが欲しいのね』
メリーは石を投げた。放物線を描いてかおりの手に入った。
『考えたわ』
『出来る幻想と破滅の』
『曖昧な境地をあなたは創る』
『今言ってることは嘘じゃない』
『禍々しい世界はあなたたちが創るかもしれない』
『詳細は言わないわ』
『よく考えて』
『運じゃなくてもう解いてる』
本が急に光り出した。
かおりはあの本を取りだし開く。
『その本に書いてあることが』
『望みであり願い』
『当然、罠はあるわ』
『気にしすぎちゃダメ』
『判断には困らないはず』
「ちょっと待って! 何を言おうとしてるの! まだこれからでも!」
『何を?』
『簡単よ』
『まだ解読してないでしょ』
『頑張るのをみる方が楽しいけど』
『如何せん、難しすぎるわ』
『いい?』
『なにも考えちゃダメよ』
メリーは最後の力を振り絞って立ち上がり後ろを向いて、月を見た。
「丸い月ね」
顔だけ振り返ってかおりを見る。
「楽しかったわ」
「なにを言ってるの! バカなこと言わないで!」
「願いは叶うわ」
メリーは顔を真っ直ぐ向けた。
そして、ゆっくりと近づいていく。
塔の端へ。
「ティエル。こうしなければ、駒は揃わないものね」
メリーは端まで来ると止まる。下を見れば地面が見えないほど下にあった。
戸惑いや躊躇いなんかなく、ただただその先を見る。
倒れるように、塔の端から消えていく。
かおりはメリーの手を掴んだ。
「待ちなさいよ! なんで、勝手に行っちゃうのよ!」
「優しいのね、かおりちゃん」
「ねぇ! 今からでもまだなれるよ!」
「ごめんね。それはムリなの」
「なんで!」
メリーは口ごもった。
「敵だから」
メリーは目を光らせて、何か堅いものをかおりのおでこに当てる。
そのせいで、手を離してしまう。
━━━━これでいいのよ。かおりちゃん━━━━
「い、……いやぁ!!」
勝手に魔法が発動した。
風、火、土、水。
その全てが彼女を救おうとしたがもう間に合わなかった。
力なくその場で落胆する。
「またどこかであいましょう。そのときはなかまがいいな。またね」
かおりは呟いた。
それが、彼女が言い残した、最後の言葉だった。
涙を流し、地面を叩いた。
「こんなのって、ないよ!!」
この場を制したいた詩が消えた。まるで彼女の命の灯火のように。




