チームプレー
かおりと康貴は滑りやすくなっている螺旋階段を駆け上ていた。
「ねぇ、槇大丈夫かな?」
康貴は先を走っているかおりに聞く。
「大丈夫。絶対に大丈夫」
その言葉にまったく説得力がなかった。
「急ぐよ」
かおりは右手で指を弾くと、2人の足が光を帯びた。そうなると、足が軽くなり早く動くようになった。かおりはさっきの三倍のスピードで階段を蹴る。
そして、広めの空間に出た。
そこにはいくつもの女神像が不規則に並んでいた。建っている場所もそうだが、向いている方向もバラバラである。
その先に見える階段は太く白い鉄格子によって、通ることの出来ない状態だった。
「なんだこりゃ」
かおりは冷静に、素早く辺りを見回す。
1つの像に光が当たり、持っていたらしい鏡によって反射し壁を明るくしていた。
鉄格子の両脇に鏡のようなものがある。さらに鉄格子の中央には、エデレスメゼンの軍紋がある。
「康貴、私の言う通りに、動かせる像を動かして」
かおりは動くものと動かないものの区別がついていた。
「そこにある、鏡がついてる像を私が立ってるところに、それここ……」
かおりの言う通りに康貴は動かす。
「これでいいわ」
しかし、鉄格子はともかく、光の位置はまったく変わっていなかった。
「え? なにも起こらないよ」
かおりは鉄格子に寄り、両端にある鏡の片方を取り外した。
「仕上げはこれから。康貴もこれ持って、私が動かす光をこの紙に当てて」
康貴はもう、何がなんだかわからず、取り合えずその軍紋を狙えば良いのだとだけ考えた。
かおりは光を曲げている像の近くに立ち、像よりも光源に近い位置で、真反対に屈折させる。
さっき動かした像の反射鏡に当てる。すると、光が、鏡を持たない像の間を潜りながら光を導いていく。
「康貴!」
その光を鏡入れ、容易に軍紋に当てる康貴。
軍紋は燃え上がり光となって消える。すると、鉄格子は自ら巣穴に戻り、行く道を開けた。
「次……」
かおりは安堵の溜め息を吐きまた螺旋階段を駆け上っていく。
次のフロアにはなにもなかった。しかし、鉄格子は行く道を塞いでいる。
「またかよ!」
「ちょっと黙ってて!」
かおりはまた辺りを見回す。見れば見るほど何もない。
躍起になって見回す。
「ねぇ、」
「だから黙って!」
自分が探さなければ。そう思うほどに何も見つからなかった。
そんな様子のかおりに康貴はビクッとするが、むしろ目の色を変えてかおりを見る。
「足下。何か書いてある」
かおりははっとなって足下を見る。
『ウソはつかない。信じろ』
そこにはそう書いてあった。
「……ごめん」
泣きそうな声だった。
「大丈夫。チームプレーだよ」
かおりは頭を縦にふった。
「行こ」
かおりは昇り階段に向けて歩いていく。
「え!? 鉄格子!」
驚くのもしょうがないことだった。どこにも行けないのだから。
「そこにウソはつかない。信じろって書いてあったの。ウソに決まってるじゃん。だから信じない。あんな鉄格子が存在してるなんて」
解説しながら鉄格子をするりと抜けた。
「早く行こ」
康貴はその頭の回転についていけなくなっていた。
頭を振ってかおりの後を追う康貴。
次のフロアのど真ん中にはにはいくつもの武器が入った樽と、さっきの像が一体建っていた。
かおりはまたヒントだか暗号だかがあると踏み、足下を見る。その予想は見事的中した。
『なきほ〆こをさせ』
一ヶ所くらい掠れて読めなかった。さすがのかおりでもすぐには解らなかった。
「なき矛を刺せ……引っ掻けよね。なら……指がここから入って……、解った!」
かおりがすぐに像近づき、その顔をじっと見る。
「発見」
かおりは手を伸ばし、像の目の横辺りを触れようとしていたが背が足りないようだった。
きっと康貴が飛んでもムリだろう。だから康貴はかおりを肩で担ぐ。
「きゃ!」
思わず叫んでしまうが、やむを得なかった。かおりは像のなきぼくろをさした。
鉄格子は負けたと言わんばかりに消え、また上層へ上がれる道が出来た。喜びを隠せない2人。康貴はしゃがんでかおりを降ろす。
かおりは先を急ぐように階段へ向かう。
その時だった。
後方で破壊音が聞こえたのは。
振り向くと、康貴の姿は見えず、地面には穴が空いていた。
「康貴!」
穴に近寄り、その下を覗いた。
その先には、康貴とボクサーパンツの男が向き合っていた。
「康貴!」
「かおり? 先行ってて! ちょっと今ムカついたわ」
「でも!」
「でもってなんだよ。早くしないと! 槇がよ!」
かおりは判断できなかった。2人の存在は天秤に架けられない。
「はやくいけよ!!」
かおりは歯を悔い縛り、走り出す。上り階段へ。
「ったく。マジテメェムカつく」
康貴はジムスタークを睨み付ける。康貴から発せられる威圧はとんでもないものだった。
ジムスタークはお構い無しに、一気に接近し拳を突き出した。次の瞬間、吹き飛んだのはジムスタークだった。
康貴の左拳からは、電気を帯びた水蒸気が上がる。
「誰も見てないから、本気で行くぞ」
地面を蹴った康貴の手には、蒼白い電撃が獣のような手を形作っていた。