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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第7章〜〈強さと弱さと〉
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雷と鉄球




 康貴は斧を振り下ろすと地面に巨大な鉄球が地面を抉る。



「くそっ! 近づけねぇ!」



 チャリチャリと鉄の鎖が擦れる音に反応し空を見上げる。

 空高く飛び上がったエプロン甲冑の女は重り付きの鎖を康貴目掛けて投げる。


 康貴は2歩下がり避けると、重りは地面に潜る。



「ぐっ!」



 急落下してくる女に斧を振り上げる。

 女はそれに対して拳を突き出す。


 鉄同士が交わる音がしたと共に康貴が数メートル飛ぶ。

 靴をすり減らしながら勢いを殺し、相手を睨みつける。



「マジつえー」



 トゥワイスは鉄球を左手で持ち上げると、右手で重りを引き抜いた。



「ってかあの鎧、堅い」



 漆黒の鎧。エデレスメゼン軍であることを物語るそれに身をまとい、なびくショートの銀髪とフリフリエプロンに描かれている赤い十字架が特徴の彼女に、全く感情のない表情がまるで死刑執行人のように見えた。



 康貴は次の手を考えて低く姿勢を取った。



「勝たなきゃなぁ」



 猪突猛進にトゥワイスに向かう康貴。

 一瞬で懐に潜り込み力いっぱい腹部を殴る。


 あまりの速さに対応できなかった。

 しかし、微動打にしなかった。

 少し動く事も、浮き上がることもなく、視線だけを康貴に向けた。



「オマエ、弱い」



 膝蹴りが康貴の腹部に入る。

 その勢いで宙に浮く。

 トゥワイスは上空に鉄球を投げると鎖を回転しながら引き戻す。


 鉄球は綺麗な弧を描き康貴を捉え、一緒に落ちていく。


 ドスン。


 巨大な音と共に地面が揺れる。

 康貴は鉄球の下敷きになった。



「鉄球、1トン。お前、死んだ」



 戦闘体勢を解除し、生存の確認を行おうと近寄る。


 トゥワイスは隠し持っていた小刀を鞘から抜き赤い十字架に重ねた。

 それが何を意味していたのか、康貴は知らなかった。



 トゥワイスは足を止める。

 異様な雰囲気を感じたのだ。

 康貴の魔力を。

 神経を尖らせ相手の出方を待つ。


 鉄球がおかしかった。

 青白く光り始め、段々とそれ自身が発光している状態になる。

 それが放電だと気づくとトゥワイスは鎖を離した。


 次の瞬間、轟音が鎖を通じて鳴り響いた。


 鉄球と鎖は赤く光を放っている。

 触ろうとしたが鎧の上からでもわかる熱気に触ることを断念した。



「どこ」



 巧妙な奇襲に相手の魔力を見失ったトゥワイスは辺りを見回す。

 まだ鉄球の下か、それとも魔力を隠して隙を狙っているのか、わからなかった。


 鉄球は持つこともできない今、トゥワイスに残された武器はこの小刀だけであった。

 しっかりと握り、相手の出方を伺う。


 それでも反応できない。

 康貴の瞬速には。



 後方からの一撃。

 爆発的な力にトゥワイスは飛び上がる。

 追いかけるように飛び上がり斧を振り下ろす。

 負けじと短刀を差し向けるが、かすりもしない。


 そのまま地面に叩き落とされる。


 斧から放電させている康貴はダメ押しにその女の鎧を砕きにいく。


 さすがにやられてばかりではなく、直ぐにアクロバットにその場から離れる。

 康貴の攻撃が地面を裂くと次にと相手を睨みつける。


 トゥワイスは小刀を鞘に戻し、再び懐に隠した。



「こりゃ、本気じゃないとヤバイな」



 息を切らしながら地面に深く刺さった斧を抜く。

 疲れた表情を見せないトゥワイスに焦っていた。

 このままでは負ける……、と。

 まだ、アイツは本気ではない、と野生の感が言っていた。



 少し距離を取ったトゥワイスは赤くなくなった鉄球を確認すると、生気の見えない目で康貴を睨みつける。



「終わらす」



 右手を拳にするとそれが小規模に爆発する。

 その破裂音に驚く康貴が次に目にしたのは巨大な炎だった。


 避けられないと判断し、せめてとの思いで斧を振る。

 炎が真っ二つ裂ける。



「よっしゃ……!!!」



 歓喜と危機に響いたのはまたしても爆発音であった。

 斬った炎が大爆発を起こし、康貴を吹き飛ばした。


 後ろの岩山に背中を強く打ち付け止まる。



「ウソだろ。あんなん反則だろ」



 辛うじて立ってい康貴は爆煙の消えない方を見た。

 湧き出る殺気に斧を構える。

 煙の中から出てきたのは巨大な鉄球だった。

 反射的に斧で弾くと鉄球から爆発が起きる。


 再び飛ばされる康貴。

 急いで体勢を整えるが、その暇も与えず鉄球が襲って来る。


 避けることができず、両腕で防ぐ。

 触れた瞬間の激痛と爆発により岩山を破壊して吹き飛んだ。


 地面に倒れたまま、とうとう起き上がれなくなった。



「戦闘不能。生存確認。後、確保」



 白髪、黒鎧の悪魔はゆっくりと康貴に近づく。

 微塵の稼働もしていない人間が生きているとは到底思えなかった。

 そう、油断していたのだ。



 それは一瞬の出来事だった。

 今まで倒れていた人間の姿が消えたかと思うと、その強大なまでの殺気は背後にあった。

 瞬間的に振り返るが、それよりも先に打撃がトゥワイスを浮かせた。

 なによりも、それで黒鎧にヒビが入ったことにトゥワイスは驚いた。


 地面に触れれば爆発でどうにでもできたが、次の打撃が思いの外早く入った。

 そこからの連続の打撃。

 斧なのか拳なのか足なのか頭なのかわからない打点にトゥワイスは混乱し始めていた。


 ようやく身動き取れる体位になり巨大な鉄球を藪から棒に振り回す。


 それでようやく開放された。

 地面に降り立ち、相手を確認する。


 その瞬間脳が痺れたようにその姿に恐怖を覚えた。



 正気ではない。

 獣のような姿見に雷光を体全体に宿す。

 まるで今まで闘っていた相手ではないと思わせる豹変ぶり。

 幻獣のような姿に生唾を呑む。



「確保不能。殺す」



 鉄球を回転させながら投げる。

 瞬間的に動く康貴にとって、そんなことどうでも良かった。

 懐に潜り込み、殴る。



「わかりやすい」



 トゥワイスはわざと受け、その腕に鎖を巻き付ける。

 重りを鉄球とは反対に投げ、トゥワイスはその場から離れる。



「鎖球雷捕縛ニヴレィリヴリー爆炎陣ヴィズレィヴ」



 トゥワイスの掛け声と同時に鉄球が爆発を始める。

 重りも爆発を始め、鎖が腕に喰い込む。

 それと同時に鉄球が康貴目掛けて飛んでくる。


 その程度、余裕を持って避けることができた。

 鈍足な鉄球がまた襲うが、当たることはなかった。


 4回目を避けた時、体に絡み付いている鎖に身動きできなくなっていた。

 重りがあまりの鎖を絡みつけると鎖が赤く光る。



「おわり」



 鎖が連鎖して爆発していく。

 避けることのできない爆発を吠える康貴。

 爆発の最後を飾るのは、鉄球だった。


 大爆発。



 相手の死を確信した。

 トゥワイスは涙をこぼし、小刀をまた抜き十字架に重ねた。



「おぉ、神よ。私はまた、ひとつ生命を……」



「うぉぉぉぉおオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛!!!」



 耳が痛くなる叫び声。

 爆炎も爆煙も瞬時に消され、そこに立っていたのはヤケドの後が酷いバケモノであった。



「━━━━コロス!!」



 もはや、怯えていた。

 幾多の戦場に立った猛者が、精神的に敗北を感じていた。


 その一瞬、康貴の渾身の一撃が十字架を砕いた。

 そのまま地面に落とされる。


 遠のく意識のなか、見上げた相手の姿は、まるで魔王の如きオーラを放っていた。


 康貴は腕を上げた。



 その瞬間、康貴の体を漆黒の霧が覆った。



「っ!!!」

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