炎とデスロック
キエリアは強く打った頭を振る。
「くそっ! あのガキ殺す!」
ゆっくり立ち上がりながら近づいてくる殺気を睨みつける。
「おぉおらぁぁ!!」
キエリアも吹き飛ばされた魔力を再び身体中に溢れ出す。
そして、持っている巨大なサイスを横に降る。
すると赤黒い斬撃波が殺気の方向に飛ぶ。
斬撃波はキエリアの目の前で爆発した。
「なに!」
キエリアの思考は突然の出来事により停止し、爆煙で視界が消える。
それにより目の前まで近づいている火の鳥に気付けなかった。
二刀流の刃がキエリアを貫く。
剣の炎が体に移り、じりじりと燃えていく。
それでも微動打にしない相手に違和感を覚える。
本当ならこれで既に勝ちである。
感覚と平均の差に動揺する。
「なぁ……に……」
掠れ声に視線を上げる。
その瞬間、あのデスロックが鳴り響き始めた。
死神の怒りで槇を睨み付けている。
「してくれてんじゃワレ!!」
瞬時に蹴り飛ばされる。
槇は一回転して着地し、目の前にいるキエリアに斬りかかろうとする。
「どこみてんだぁぁ!」
後方からの声と刃の近づく音。
槇は振り向きながら右手の剣を振り上げる。
ガキン、と重たい金属同士の交わる音が響く。
下手に出た槇は明らかに力負けしている。
引こうにも特殊な武器故に下がることもできない。
「ギャハハ! その恐怖に満ちた顔がそそるよなぁ!!」
どんどん刃が近くなる。
最善策を考えても、結論的に無傷ではいられなかった。
「それなら……」
左手の剣を地面に刺した。
そしてひとつの剣に全身全霊を注ぐ。
「その程度じゃ変わらねぇよ!!」
放たれるデスロックに耳を塞ぎたかった。
あの島の時に聞いた胸のざわつく音に、あの時の感覚が脳裏に浮かぶ。
空気の様に軽い足、溢れ出る力、そして何事にも屈しない勇気。
金色の力を思い出したのだ。
槇はキエリアを睨みつける。
その瞳の異様さに目を疑った。
深紅に燃える炎を瞳に宿したかの様な赤い瞳。
「コイツっ!!!」
押され始めるサイスを必死に押し込む。
しかし、間違いなくこのままでは押し切られる。
キエリアはやむを得ずに距離を取る。
「逃げんじゃねえ!」
冷や汗。
キエリアは本能的に感じ取っていた。
目の前にいる男と、目標としている男の魔力が同じであることに。
「てめぇ、……なにもんだよ」
剣を覆っていた炎は剣に入り込み、紅蓮の紋章を刻む。
その状態を確認するとキエリアを睨む。
「は? 何言ってんの。それはコッチのセリフだよ」
槇は太陽に切っ先を向けた。
「力を貸してくれ……、シセリア」
その様子を身て、キエリアは吹き出して笑う。
「なにがおもしれぇんだ?」
「いやなぁ、青臭いこと考えてるって思うとバカみたいでなぁ」
大きく舌を出して高笑いを上げる。
「だからテメェは弱ぇんだよ!!」
キエリアはサイスを大きく振る。
かまいたちが起こり、槇目掛けて飛んで来る。
槇は大きく左に避けると、踏み込んできていたあキエリアの刃が首目掛けて振られていた。
「ちっ!」
咄嗟に剣で弾こうとするが、あまりの力に剣が飛ばされる。
「死ねよ!」
身軽に1回転し頭の上にある刃を振り下ろす。
槇は1歩踏み込み間合いを詰める。
そして左手に溜めていた熱気を着火させ、キエリアの腹を殴る。
「ぐふっ!」
「アイツの苦しみは、こんなもんじゃねぇぜ」
殴り飛ばす。
キエリアは後方の岩にぶつかると槇目掛けて岩を蹴る。
「さっきっからいてぇんだよ!!」
槇は動かずその場で剣を振り下ろすとサイスの刃と交わる。
「やっぱ早いな」
「俺様は四皇でも、最速だぁ!!!」
デスロックの咆哮に弾き飛ばされる槇は次の手を考えて左手を前に出す。
「バン!」
再び近づいてきたキエリアに火の玉を浴びせる。
爆炎が辺りに立ち込めるとキエリアはサイスを激しく振り回す。
「こんな子供騙しが通用するか!」
爆煙はたちまちに消え、再び槇をターゲットにするのは容易だった。
ただひとつ、槇が2人いることを除いて。
「なんだこれ?」
2人の槇は同時に踏み込み、剣を振る。
その2体とも、サイスの餌食になる。
「分身だかなんだか知らねぇけど、どっちも殺しゃ変わらねぇだろよ」
2体の槇はゆらゆらと歪んで消えていった。
それは間違いなく、幻覚である。
「なぁ、暑いと思わねぇか?」
後方から突き刺さってる紅き剣に気付いたのはその声を聞いてからだった。
「蜃気楼って、鏡と同じもんなんだぜ」
剣を抜くとキエリアは倒れる。
「テメェ……!! なにもんだ……」
「あ? まだそんな事言ってんのかよ。……槇。オレの名前だ」
トドメを刺そうと紅き剣を振り上げると、後方の黒い殺気に振り返る。
「━━━━あっ……」
その威圧に槇は剣を落とした。