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オレたちが来た世界は、未来の終わりを知っている。  作者: kazuha
〜第1章〜〈エデレスメゼン〉
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そして、はじまる



「あの、質問いいですか?」



 かおりは赤い食べ物を机に置いた。



「なんだ?」



 男は足を組み、もう一口かじった。



「アメリカっていう国知ってますか?」

「アメリカ?」

「USAとか?」

「ん?」

「ロシアは? 中国は? イタリアは? オーストラリアは? ブラジルは? アフリカは?」



 男は腕を組み、んー、と唸るだけで知らないようだった。



「じゃぁ、地球は?」



 男は顔を横に振る。



「太陽は?」

「空に浮かんでる、光ってるあれだろ」

「じゃぁ月は?」

「夜に浮かんでる2つあるやつか?」



 かおりは肩の力を抜いた。



「完全に、パラレルワールド。

 ……異世界」



 かおりはそう呟いた。



「かおり、どういうことだ?」



 槇が口を挟んだ。



「まず、鎖国している国だからって今言った国を知らないことはあり得ない。

 次に、太陽と月の概念はあるのに、月は2つあるという。

 私たちのいた日本ではないことはおろか、地球ではないことまでわかっちゃった。

 不可思議すぎてあり得ないし、科学的にもあり得ないけど、瞬間移動やワープレベルの空間移動を私たちはしちゃったのよ。

 地球からこの星にね」



 つらつらと並べられる言葉を聞いて、槇と康貴は食べる手を止めた。



「もっと言うと、一生、帰ることができないかもしれない」



 かおりはそう言って、うつむいた。帰れない絶望よりも、なにより帰る手段がわからない絶望の方が大きかった。



「なぁ、なんか知らねぇか? 急に現れた人間とか、逆に消えた人間とか」



 槇は男に問う。



「知らねぇ」



 そりゃそうだよな。槇は呟いて、かおりを見た。



「オレは知らねぇが、長老ならなにか知ってるかも知れねぇな。」

「ホントに!」



 男の言葉にかおりが飛び付くように立ち上がる。



「いやぁ、微妙だが。行ってみる価値はあるだろうな」



 槇も立ち上がった。



「まぁ、もう二度と帰れないって腹くくるより、数パーセントの確率にかけて帰れたら万々歳だからな」



 槇はあらかじめ確認していた暖炉の上にある剣を取る。



「そうね。そうよね」



 剣の上の壁に飾られている槍を取り、立ち尽くしているかおりに渡した。かおりはそれを掴む。



「はやく帰ってパラレルな話ししてやろうぜ!」



 康貴は訳のわからないことを言い出し、暖炉の横にあった斧を拾う。

 槇は男の前に立つ。



「なぁ、教えてくれよ。

 その、オレたちが元の世界に帰る方法を知ってるかもしれないっていう、長老ってヤツの場所を」



 男は最後の一口をかじり、立ち上がる。



「いいだろう。

 お前ら、クソガキどもが何処から来たかオレの知ったこっちゃねぇが、連れてってやるよ。

 長老の場所まで。」



 そう言ってニヤリと笑う。



「さぁ着替えろ。行くなら早い方がいいからな」



 男は外で着替える事にし、ちゃちゃっと制服を脱いだ。

 布のような、意外としっかりしているこの服を身にまっとっていく。

 男性陣は着替え終わりドアをノックする。



「待って! もう少しだから!」



 との事で少し待つことにした。

 ……待つこと20分。



「なぁ、まだか?」

「わかんねぇ」



 さすがにイライラし始めた男。

 それに答えるように中から声が飛んできた。



「いいよ!」



 やっとかと溜め息まじりに呟き、男子陣はドアを開けた。

 お互い様変わりした様子を眺める。



「かおりかっこいいね」

「あ、ありがとう。康貴」



 かおりは顔を赤らめた。



「おら、武器つけろ。さっさとでるぞ!」



 3人は各々適当に取った武器を身に付ける。そして外に出た。



「男物しかなくてすまんなぁ」



 男がそうかおりに言う。かおりは首を横に振り、



「いえいえ。むしろ、なにからなにまでしていただいてありがとうございます」



 男は照れたように笑い、かおりに背を向けた。



「よぉし、しっかり着いてこいよ」



 男はゆっくり歩いていく。

 3人はただ着いていくだけ。その背中はとても心強かった。

 意外とこのまますんなり元の世界に戻れると信じていた。

 僅かな望みが、出発したこの時には大きく膨らんでいた。

 存在する試練は小さいものだけだと考えていた。



「ねぇ、2人とも」



 数時間歩き続けたが、今だ平原のど真ん中であった。

 疲労も溜まっている中、かおりが言葉を出した。

 槇は嫌な顔をして横目でかおりを見る。



「なになに!」



 歩くのに飽きた康貴は、なにか楽しいことでも話すのかと思っている口ぶりで、返事を笑顔で返した。



「3人いつまでも一緒だよね?」



 思い詰めた声色だった。



「ど、どうしたの?」



 康貴の笑顔は崩れ、心配の表情を出す。

 そんな表情を見てハッとなり、ムリヤリな笑顔で答えた。



「ご、ごめん。なんでもない」



 早歩きで2人より数歩前に進んだかおり。

 康貴は首を傾げた。



「あ! 町だ!」



 あれから数分、康貴が町を見つけ叫んだ。



「もう少しだな。あとちょっとがんばるぞ」



 自然と歩みが早くなる一行。

 段々と大きくなる外壁に少しながら達成感を感じていた。

 まさに目と鼻の先に町が迫った時だった。



 男は急に立ち止まり、体勢を低く取って回転し、その勢いと共に背中に縛っていた大剣を抜いて飛んできた矢の雨を風圧で弾いた。



「まずったな。エデレスメゼン軍か」



 男は、瞬時のことについていけない3人を見て、左手をまっすぐ上げ森を指す。



「あの森に行け」



 早口で言われた言葉をすぐに飲み込めるはずもなかった。



「はやく行け! 死にたいのか!」



 町の中から、鉄に身を包んだ無数の兵士が4人目掛けて迫ってきている。



「あの森を抜けた先にマールって町がある。そこでガザナって山の場所を聞け。

 その山の頂上に長老がいる。

 遠回りだが仕方ない。

 お前らに死なれちゃ困る」



 そう言い切ると男は自分の服の下からペンダントを取りだし、それをかおりに手渡した。



「金に困ったら質屋にこれでも売り付けりゃぁ良い値になる」

「ちょっと待てよ!」



 槇は叫ぶ。



「あんたはどうすんだよ!」



 男は3人に背を向けエデレスメゼン軍人の数を数え始めた。



「オレなら平気だ。

 エデレスメゼン三将のデイボルクの子孫のオレが、こんな所でレクイエムを聞くほどやわじゃないさ。」



 軍はもうそこまで来ていた。



「案内してくれんだろ!」

「今のお前らじゃ足手まといだ。

 案内してやりたいが、お前らは途中でリタイア。

 生き残ったのはオレだけ。

 オレに案内させたきゃ、それに見合った能力と力を身に付けてこい。

 そして、その能力でオレを案内してみろ!」



 男は大剣を天高く上げ、回転しながら背後の地面に刃を叩きつける。

 町を囲むように斬撃が立ち上がり、3人と男の間に大きな地割れをつくる。


 まるで行き止まりの道のようだった。


 男は振り返り、叫んだ。



『敵は多いぞ。』

『生きてオレに。』

『エデレスメゼンの。』

『類を見ない世界の改革を見せろ。』



 そして、軍の中に消えていった。



「……行こう」



 槇はそう呟き、森に向けて歩き出す。



「なんだよそれ」



 康貴が呟いた。



「見殺しにしろってか!」

「ちげーよ康貴。見殺しにされたんだよ」

「何だよそれ!

 バカかよ!

 どんなにヘタレでもやらなきゃいけないことはわかんだろ!」

「わかるよ! ……わかるけど」



 槇は康貴から視線を外した。



「オレたちは、……弱い」



 槇は目線をそらしてしまった。康貴は黙る。



「行こう」



 槇は進んでいく。



「クソ!」



 康貴は腰に身に付けていた斧を取り出し、投げ捨てようとした。

 しかし、振り上げることさえ出来なかった。

 斧の重さがあまりに重すぎた。



「康貴、行こう」



 かおりの言葉に頷き、2人は槇を追った。




 エデレスメゼン163年。

 三将が魔王から世界を勝ち取ってから早30年。

 3人の異端者がこの世界に落とされた。

 また、繰り返される戦争。全て、三将が現れた時と一緒であった。



────何かが起こる────



 そんなことを予感させていた。



────砂漠にはならず者がはびこり────

────海では強すぎる力が開花し────

────森では花が咲き乱れ────

────雪国では月が涙を流し────

────火山は王者が腰をおろしている────





 そんなことなど、まだわからない3人。

 バラバラの歩みで進んでいく。

 ここから、3人の、過酷で、残酷な旅が始まるのであった。


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