VS長老
長老がかおりの特訓場所にたどり着くと、8つの珠は粉々に砕けていた。
かおりは膝に手をつき、苦しそうに呼吸をしていた。
「これは……、思った以上の様じゃな。まさか、珠を砕く程の魔力なぞ、他にあやつくらいしか知らぬわ」
驚きが口をつく。
そして笑い出す。
「これはこれは、たまらんのぉっほぉっほぉっほぉっ」
汗を拭い声のする方を向く。
「ねぇ……、次は?」
長老はゆっくりと近づき杖をかおりに向ける。
杖が淡い光を放つと傷がみるみる治っていく。
「次は、ワシと魔法勝負するのはどうじゃ?」
傷が癒えるとかおりは立ち上がる。
服についた汚れを払い落とし、長老に顔を向ける。
「やっと実践ね。いいわよ!」
「ひとつだけルールじゃ。魔法のみで攻撃を行うこと。武器に属性をつけての攻撃などは禁止じゃ。わかったかの」
「おっけー」
ふたりは間合いを取る。
スタートの合図もなく互いに戦闘態勢に入る。
かおりは両手を広げ、水のベールを纏う。
対する長老は杖を地面に刺し、ぶつぶつと呟きながら集中している様だ。
先手をとったのはかおり。
水の塊を長老に向けて放つ。
その塊は次第に形を変え、まるで唸る龍の様になる。
「ワシニシタガエ」
その一言だった。
それだけで水龍は雨となり地面を濡らした。
「嘘でしょ……。なによそれ」
長老は左手をかおりに向ける。
それに反応してかおりは火の壁を目の前に作る。
「あまいの」
左手から放たれる突風。
風は火に弱い。故にかおりの判断は正しい。
そのはずだった。
火の壁は跡形もなく消え、魔力を溜めていたかおりを吹き飛ばす。
後方にあった岩に背中を打ち付け、地面に倒れる。
それを確認すると左手をゆっくり下げ、今度は右手を上げた。
かおりは自身の傷を回復させながら立ち上がる。
「なんなのよ。チートじゃない。次は……」
指で空をなぞる。かおりの周りに突風の膜が出来上がる。
「土!!」
「相手の魔力で属性を判断できる……かの」
魔力を込める。地面から無数の石の槍が飛び出る。
しかし、槍は膜を突破できずに砕け散る。
「まだまだっ!」
かおりは土を力強く踏む。
すると無数の蔦が長老目掛けて伸びていく。
それを見て長老は息を深く吸う。
目の前に迫る蔦に向かい息を吐く様に炎を吐く。
業火により蔦は一瞬で燃え尽きる。
「これは怖いのぉ」
「いやいや、長老の方が」
お互い睨み合いながら魔力を練る。
「やっぱり、これじゃないとかしらね」
再び水を纏い、長老に手を向ける。
「同じ技は無意味じゃぞ」
「それはどうかしら」
再び水龍を長老に向けて放つ。
やれやれといった表情で左手を前に出す。
「ワシニシタガエ」
「上!!」
龍は真上に上がる。
その瞬間長老によってただの雨と化した。
「しもうた!!」
「ビリビリするわよ!」
かおりは電撃を指先から放つ。
電撃は雨を伝って目標に向う。
ガードに入ろうとするが、電光石火の出来事。一瞬にして体が動かなくなる。
「ちっ、電力足らなかったわ」
すぐさま風を圧縮して長老目掛けて放つ。
それが被弾すると地面に倒れる。
そこに土の壁を生成し押し潰す。
「これでどうかしら!」
ゆっくりと近づく。警戒はしているが勝利を確信していた。
いつでも応戦できるように水を纏う。
「ほら、どうせ死んでないでしょ。降参しなさい」
返事が帰ってこない。
それはそれで不安になるかおり。
「死んじゃった?」
冗談半分で土壁の中を覗く。
「……っ!!?」
中には長老の姿はなかった。
すぐさま振り返り水の玉を放つ。
「遅いの」
かおりの目の前に巨大な岩の犬のようなモンスターが現れた。
「ゆけ」
水の玉をもろともせず大きな前足でかおりを踏み潰そうとする。
風を使いながら避ける。
踏んだ瞬間に起こる突風と粉塵と石がかおりを襲う。
腕でガードするが、体中を石が切り裂いていく。
石が収まると、火の玉をありったけぶつける。
モンスターはそんなのお構い無しだった。
「……なんで! 弱点のはずなのに」
再び巨大な足がかおりを襲う。
「こうなったら……」
風を使って避ける。
粉塵の舞う踏み切った足に飛び込み、その岩に触れる。
すると足は赤く熱を持つ。
かおりはすぐに離れる。
それと共に足は爆発し、モンスターはそのまま倒れていく。
自身の体重に負け、モンスターはどんどんと崩れていく。
それは粉塵となり辺りの視界を全て遮る。
しかし間違いなく、バケモノを倒したのだ。
「よっしゃ!!」
喜びのあまりガッツポーズを取る。
その瞬間だった。
「爪が甘いの」
辺りの粉塵が消えると、かおりの喉元に土の刃が突きつけられていた。
それは負けを意味した。
かおりは力なく膝から崩れる。
それと同時に土の刃も崩れていった。
「ふぉっふぉっふぉっ。まだまだじゃのぉ。あの場で声を出したら狙われるということくらいわからねばなぁ」
「はぁー。そうよね。まだ決着は付いてなったものね」
平手で自分のおでこを叩く。
「あー、諸葛亮孔明が先生だったらめっちゃ怒られるだろうなぁ」
「……誰じゃ? それ」
可愛く首を捻る長老を見て乾いた笑いしか出なかった。




